コラーゲン
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線維性コラーゲン。脊椎動物では最も大量に存在するコラーゲン。骨に大量に含まれ、骨に弾力性を持たせるのに働いている。皮膚の真皮にも非常に多く、皮膚の強さを生み出す働きがある。I型コラーゲンは、α1鎖(I型) 2本とα2鎖(I型)1本が集まって形成される。多くの組織でコラーゲン細線維、さらにはそれが集まったコラーゲン線維の主成分である。
II型コラーゲン
線維性コラーゲン。硝子軟骨のコラーゲン線維の主成分。眼球硝子体液の成分でもある。II型コラーゲンは、3本のα1(II型)鎖から構成されるホモトライマーである。
III型コラーゲン
線維性コラーゲン。I型コラーゲンの存在する組織にはIII型コラーゲンも共存する場合が多い。真皮大動脈に多い。III型コラーゲンは、コラーゲン線維とは別の、細網線維(さいもうせんい)と呼ばれる細い網目状の構造を形成し、細胞などの足場を作っている。創傷治癒過程の初期段階で増殖し、やがてI型コラーゲンに置き換わる事で治癒が進むといわれる。
IV型コラーゲン
非線維性コラーゲン。基底膜を構成する主成分であり、網目状のネットワークを形成し、基底膜の骨格構造を支えている。基底膜は上皮組織の裏打ち構造で、上皮細胞の足場になる。
V型コラーゲン
線維性コラーゲン。I型コラーゲン、III型コラーゲンの含まれている組織に、少量含まれている。V型コラーゲンは、α1(V型)鎖、α2(V型)鎖、α3(V型)鎖が様々な割合で混合した三量体の混合物である。無脊椎動物の線維性コラーゲンは、V型に近い。
VI型コラーゲン
非線維性コラーゲン。4分子が2本ずつ逆向きに会合したものが四量体を形成し、それがアミノ末端側の球状領域で会合して形成される細線維(マイクロフィブリル)を作る。細線維は、コラーゲン線維とは別の線維状構造で、ビーズ状の直径約50 nmほどの球状部分と、直径13 nm程度の細い線維部分から形成される。ほとんどの臓器組織の結合組織の細胞外基質に存在する。
VII型コラーゲン
非線維性コラーゲン。皮膚の表皮と真皮の境界の基底膜近傍に存在する。VII型コラーゲン遺伝子COL7A1の異常は栄養障害型表皮水疱症となる。
VIII型コラーゲン
短鎖コラーゲン(short chain collagen)と呼ばれる。血管内皮細胞などがつくっている。また盛んに形態形成が起こっている組織で多くつくられている。
IX型コラーゲン
FACITコラーゲン。軟骨のコラーゲン線維に結合している。3本のα鎖(a1(IX), a2(IX), a3(IX))が1本ずつからできるヘテロトライマーである。
X型コラーゲン
短鎖コラーゲン(short chain collagen)と呼ばれる。肥大軟骨層に多く存在する。遺伝子の異常は骨の成長に影響を与える。
XI型コラーゲン
線維性コラーゲン。軟骨のコラーゲン線維に主に存在する。V型コラーゲンと非常によく似たタイプ。
XV型コラーゲン
XVIII型コラーゲンとドメイン構造がよく似ている。multiplexinマルチプレキシン型コラーゲン。
XVII型コラーゲン
非線維性コラーゲン。別名、BP180BPAG2。遺伝子はCOL17A1上皮細胞などがつくる膜貫通タンパク質(transmembrane protein)で、細胞結合の1つ・半接着斑(ヘミデスモソーム)の細胞接着分子である。関連疾患として、水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)、接合部型表皮水疱症(junctional epidermolysis bullosa)がある。
XVIII型コラーゲン
COL18A1遺伝子にコードされるホモトリマー。血管基底膜に存在する。700残基ほどのコラーゲン性領域を有する。分子のC末端側に183残基約20kDaほどのエンドスタチンと呼ばれる血管新生を阻害する作用を持つ領域がある。XV型同様multiplexinに分類される。(以下 略)

そのほか、コラーゲンタンパク質の特徴を部分的に備えた "コラーゲン様領域" を有するタンパク質が15種類以上知られている。例えば、補体のC1q、コレクチン、フィコリン、アディポネクチン、マクロファージスカベンジャー受容体などがそれである。これらは部分的にコラーゲンの機能をあわせ持つタンパク質と考えられている。
生合成

細胞内でのコラーゲンの産生には、様々な酵素分子やシャペロン分子が関与している。ヒトのコラーゲンのなかでは最も大量に存在するI型コラーゲン分子の場合、COL1A1とCOL1A2の2種類の遺伝子から合成されたmRNAが細胞質中のリボソームによって翻訳が開始され、翻訳されたシグナルペプチドとシグナルリコグニションパーティクル(signal recognition particle: SRP)によって翻訳が停止した後、粗面小胞体 (rER)にリボソームが結合してSRPが遊離して翻訳が再開され、小胞体内腔に取り込まれ、ゴルジ体に輸送され修飾を受けた後、細胞外に分泌される。小胞体内でC-プロペプチドによってプロα1(I)鎖とプロα2(I)鎖が通常は2:1の比でプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)EC 5.3.4.1の触媒反応によって鎖間ジスルフィド結合を形成する。3本鎖を巻く過程で、プロコラーゲン-プロリンジオキシゲナーゼ(プロリル4ーヒドロキシラーゼ)によって、-Gly-Xaa-Yaa-のYaaの位置にあるプロリン残基が水酸化されて4?ヒドロキシプロリン残基になる。そのほかに、Xaaの位置のプロリン残基を修飾するプロリル3ーヒドロキシラーゼ(P3H1, P3H2, P3H3)や、リジルヒドロキシラーゼ1-3 (Lysyl hydroxylase, procollagen-lysine 5-dioxygenase)、ヒドロキシリジン残基にガラクトース残基を付加するガラクトシラーゼ、ガラクトシルヒドロキシリジン残基にグルコース残基を付加するグルコシラーゼといった翻訳後修飾酵素が必要である。また小胞体内のタンパク質サイクロフィリンbやCRTAPの劣性遺伝子変異が骨形成不全症を引き起こすことが知られている[6][7]

いくつかの型のコラーゲンにおいては、HSP47という分子シャペロンが正常なコラーゲン分子の合成に必須であることが報告されている[8]。また、I型コラーゲンとHSP47の発現量は、常に相関することも知られている。
胚性幹細胞培養

コラーゲンは、ES-D3株などの胚性幹細胞を無血清条件で培養する際にディッシュにコーティングすることで幹細胞の足場となり、幹細胞の未分化性維持および幹細胞の増殖を促進する働きがあることが論文により報告されている[9]。また、米国国立衛生研究所(NIH)による2006年の報告ではヒト胚性幹細胞の無血清培養を行う際にはラミニン-111とIV型コラーゲンを主成分とするマトリゲルによる培養を行うことで胚性幹細胞の未分化性を維持した状態で増殖させる手法が多数紹介されている。同時に精製されたラミニン (laminin) あるいはIV型コラーゲンを使用した培養法が存在することについて述べられている。

As it is mostly comprised of laminin and collagen, these molecules have also been used, in purified form, to avoid lot-to-lot variations in the Matrigel extract.[10]
産業利用
ゼラチン

ゼラチンは、高温で立体構造を変性させたコラーゲンである。コラーゲン[11]のらせん構造は、高温では壊れて三量体が解離し、一本鎖にほどけたポリペプチド鎖が遊離する。コラーゲンは、疎水性アミノ酸含有量が少ないために、水に溶けるなど、立体構造を持つコラーゲンとは異なった物理的・化学的性質を示し、ゼラチンと呼ばれる。ゼラチンは、コラーゲン配合と表記されている化粧品や補助食品、あるいはゼリーの原料として用いられる。主な原料はウシやブタなどの大動物の皮膚、骨などや魚類である。乾燥する際の形状によって板ゼラチンや粉ゼラチンと呼ばれる。

コラーゲンらせん構造のフォールディングとアンフォールディング反応には、I型コラーゲンなどの共有結合で3本のポリペプチド鎖が結合していない場合には、濃度依存性はない。III型コラーゲンなど、末端に共有結合で3本鎖が集まっている場合は、フォールディング反応において、プロリン残基におけるX-Pro結合のcis transが律速段階になり、ジッパーのように3本鎖らせん構造が形成されていくので、履歴現象が観察される。低濃度のコラーゲン溶液を用いた実験では、変性温度が単離した動物の体温以下になることが知られている。
アテロコラーゲン

コラーゲンの両端には、コラーゲンの主たる抗原部位であるテロペプチドが存在する。この部分を酵素処理で取り外すと、コラーゲンの抗原性が極端に低くなる。これをアテロコラーゲンと呼び、医療用のインプラント材料や組織工学用の足場材料に応用されている。また、一部の化粧品にも利用されている。
コラーゲンペプチド

コラーゲンペプタイドとも呼ばれる。コラーゲンを酵素処理で分解し、低分子化したもので、食品として摂取した場合、体内でオリゴペプチドやアミノ酸に分解しやすいため、吸収性が高められている。ゼラチン同様に水溶性を持つが、ゼラチンのように低温でゲル化する性質はない。健康食品として摂取されたり、保湿性があるために、化粧品原料にも用いられる。原料として、ウシ、ブタなどの家畜の他に、ティラピアヒラメサケスズキなどの魚類の皮やを使う例が多い。産業原料として、粉末のほか、水溶液で流通する場合もある。
非変性コラーゲン

コラーゲンを変性させずに抽出されたもの。ハーバード大学の研究では、II型の非変性コラーゲンが免疫寛容によって関節の炎症が抑えられることがわかっている。シニア向けの健康食品として摂取されている。原料として、主に鶏の軟骨であったが、近年、アルカリ溶液による抽出方法の発見と、サケの鼻軟骨を原料とすることにより、生産の低コスト化が実現した。
消化、吸収

口から摂取し消化されたコラーゲンに特徴的なヒドロキシプロリンの血中への移行は、ゼラチンでは1962年に[12]、さらに分解されたコラーゲンペプチドでは2005年から解明されてきた[13]


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