「濃く」あるいは中国で穀物が熟したことを表す「酷」が語源であると考えられる[3]。古くから使われてきた言葉であるが、科学的な見地から顧みられたのは比較的最近である。味の素社の研究チームは、1990年にアリインやS-propenyl-L-cysteine sulfoxide(PeCSO)などの有機硫黄化合物がうま味溶液に対して厚み、持続性、広がりを付与することを報告した[5]。
調味料メーカーでは、酵母を使って材料のタンパク質をペプタイド化し、その後調理反応(メイラード化)を加えることでこく味を生み出すメイラードペプタイドへと変化させ、調味料として製造している。[6]
2002年には、東京・永田町の星陵会館で、「食べ物のおいしさとこく」をテーマにしたシンポジウムが開催された[7]。
2012年の日本農芸化学会大会では、味の素社の研究チームがカルシウム感知受容体(CaSR)がコク味受容機構において重要な役割を果たしていることを発表し[8]、この受容体に作用するトリペプチドが調味料メーカーにより開発されている[9]。 グルタチオンは味細胞中のカルシウム感知受容体と反応し、うま味・塩味・甘味の濃厚感や広がりを強める作用が報告された。グルタミルバリルグリシンは、グルタチオンに比べこの活性が約10倍あることが明らかになり[9]、調味料として応用されている。 味覚の面でコクを付与する物質には、うま味や甘味などの基本味をもつもののほか、それ自体は味を持たないものの他の味を修飾する物質としてグルタチオンやグルタミルバリルグリシン、メイラードペプチド、アリイン、PeCSOなどがある。嗅覚の面でコクをもたらすものにはピラジン類や2-アセチルフラン、2-エチルヘキサノールがあり、香りを修飾する物質として油脂も重要である[3]。とろみをはじめとする食感、温度など物理的刺激もコクに寄与する[10]。食感においてコクを付与するものには油脂やゼラチン、デキストリン、β-グルカンなどがある[3]。 チーズや食肉などは、熟成することで生じる遊離アミノ酸やペプチドによりコクが増す。カレーにインスタントコーヒーの苦みを加えるなど、味質の異なる隠し味を使用することにより複雑さが生まれ、コクにつながる[3]。コーヒーにコーヒーフレッシュ類を入れる際にかき混ぜすぎないなど、成分を不均一にすることにより時間的・空間的な広がりが生まれ、コクを感じると考えられる[11]。
コク味物質
脚注^ “驚異! 生物たちのスーパーセンサー (8) 味 - SCIENCE CHANNEL
^ “ビールの味の表現で使われる「コク」と「キレ」とは??先味、中味、後味の観点から考えてみる?