これまで日本では、大隅半島以南および南西諸島など東シナ海での確認は考古学的検証や記録からも発見された事はなかった[60][注釈 21]が、上記の通り東シナ海のかなりの沖合で音響調査によって遊泳している事が判明している[42]。近年、未確認の目撃例がトカラ列島および宮古島であったが、過去、このような記録がこれまで一切存在しなかった理由は謎である。 一度は絶滅した北大西洋では、本来は北米大陸側ではカナダからメキシコ湾、ヨーロッパ側ではアイスランドやスカンジナビア半島やブリテン諸島から地中海やサハラ砂漠の沿岸にかけて分布していたと思われる。 ハドソン湾やバルト海やパムリコ湾などの閉鎖的海域を含め、フロリダ半島、ワッデン海、地中海、西サハラなどに至る北大西洋の東西の広範囲に分布していた[62][63][64][65][66][67]。化石や骨などの遺伝子情報の解析の結果、更新世から完新世にかけて、気候変動に伴うベーリング海峡の開通により、太平洋から大西洋への数度の「移住」があったと推測されている[68]。 おそらく18世紀に絶滅したとされている[69]。本種を対象とした捕鯨が、大西洋でいつ頃からどの程度の規模が行われていたのかは不明であるが、ローマ帝国によるジブラルタル海峡での狩猟や中世のオランダとフランデレン地域などの捕鯨業により、本種とタイセイヨウセミクジラが地中海や北海やイギリス海峡などから消え去ったという説も提唱されている[67][70]。その後の調査でも、この2種がとくに重点的に中世ヨーロッパで捕獲対象になっていたことが判明している[71] しかし、1980年代にボフォート海での目撃が複数寄せられ[72]、2010年代にもラプテフ海やノヴォシビルスク諸島やゼムリャフランツァヨシファにて目撃されている[73][74]。 そして、2010年以降、太平洋由来と思われる個体が何度か大西洋や南半球で確認されている。地球温暖化によって極地の海氷が減少し、大洋間の行き来が可能になったためと推測されている[75]。
大西洋と南半球
2010年の5月に、一頭がイスラエルの沿岸で目撃され、大西洋・地中海における数百年ぶりの確認となった。その後、スペインのバルセロナの沿岸で同じ個体が目撃された[76][77]。
2013年に、2010年の個体とは別の個体がナミビアのウォルビスベイに短期間滞在し、南半球における初の記録となった[78]。
2021年3月にモロッコの首都のラバトの沿岸で未成熟の個体が観察され、後に同じ個体が地中海に入り込み、アルジェリア、イタリア、スペイン、フランスなどの沿岸で4月まで繰り返し目撃された。この個体は「Ponza」と名付けられた[79][80][81]。