なお、比較的に知名度の高い近縁種としてアキシマクジラ(英語版)が存在する。
形態ブリーチング
上記の通り、本種はヒゲクジラ類としては比較的に小柄な部類であり、成獣は体長が12 - 15メートル、体重12 - 40トン[5][18]になる。
背鰭はないが、背から尾柄の背面にかけて複数の隆起がある[5][18]。腹面に平行に入る細い溝(畝)はないが、下顎に2 - 4本の溝がある[6]。体色は灰黒色で、不規則に灰色の斑紋が入る[5]。皮膚の表面には、フジツボ類やクジラジラミ類が着床している個体が多い[6]。
ヒゲクジラ類としては例外的に下顎よりも上顎の方が長い[6]が、一方で採餌様式から下顎も発達している[19]。口の中のクジラヒゲは左右に140 - 180枚ずつ存在する[5][6]。
(人間の概念に当てはめれば)ほとんどの個体が「右利き」であり、採餌時に体を右側に傾けるために右側のクジラヒゲがより摩耗して短くなっている事例が多く、またそれに影響されて、フジツボなどの寄生生物の付着量も体の左右側のどちらか一方に偏向している傾向にある[20][21]。
後述の北米沿岸に存在する「レジデント」は、より長距離の回遊を行う個体よりも概して小柄であり、また、頭骨や尾びれも小型化している[22]。
生態採餌方法の構図波打ち際や干潟などの浅瀬を好み、陸上からも頻繁に観察できる(ヌートカ湾)。磯で採餌する個体(ヤクイナ岬)。
本種は現生のヒゲクジラ類では特に底生生物の採餌に特化しており、本種の沿岸性の強さの理由の一つにもなっている。海底の泥や砂ごと口に含み、底生生物を髭で濾しとって捕食する[6]。上述の通り「右利き」の個体が多く、海底での採餌時の癖が各個体に定着しているため、フジツボなどの付着生物が頭部の片側に編重している事例が目立つ[20]。通常はこれらの底生生物を主な餌とするが、後述の通り環境汚染や気候変動などの生息環境の悪化によって健康状態の悪化や餓死を中心とした大量死が何度か発生しており[24]、底生生物の減少からかカタクチイワシ科などの通常は食糧としない小魚を捕食する事例が散見される様になった[25]。
11月下旬から12月上旬に交尾を行う[6]。妊娠期間は13か月[5][6]。寿命は70年[5]。セミクジラと同様に複数の雄が一頭の雌と交代で交配する繁殖形態を持ち、コククジラの場合は雌雄合わせて3頭の場合が多いとされる[26]。
通常は外洋に出ることは少なく、浅い沿岸部を南北に往復し、年間2万キロメートル以上を回遊する。これは現生哺乳類の年間の通常の回遊距離としては(ザトウクジラと同様に)おそらく最長の部類とされている。
きわめて沿岸性が強く、水深が数メートルの浅瀬にも頻繁に現れ、干潟で採餌を行う事も少なくない[23]。しかし、稀にではあるが河川を一ヶ月以上も遡上して死亡したり[27]、街中の水路に入り込んでしまう事例も存在する。
セミクジラ・ホッキョククジラ・ザトウクジラ・ニタリクジラ(カツオクジラ)・ミンククジラなど他の沿岸性が強いヒゲクジラ類と共通する特徴としてブリーチング(ジャンプ)などの海面行動を活発に行ったり、人間に興味を示して積極的に接近する傾向がある。コククジラも人懐っこく好奇心が旺盛であり、陸上からも容易に観察できるためにホエールウォッチングの対象として人気であり(後述の通り、産業としてのホエールウォッチングは本種を対象として開始された)、人間とのスキンシップを積極的に行う事も知られている[28]。
天敵子鯨はシャチやホオジロザメに狙われることがある。
自然界における人間以外の主な天敵はシャチであり、他の大型鯨類同様に通常は子鯨や弱った個体が狙われやすい。コククジラに限った話ではないが、絶滅危惧種にとってシャチの襲撃は脅威であり、2009年の時点で本種のアジア系個体群の全個体の約44%にシャチによる襲撃痕が確認されており、確認されている中では現在のヒゲクジラ類においてもっともシャチからの影響が重圧的である事例とされている[29]。
他の大型鯨類への襲撃と同様に、シャチは集団で対象を狙うが、子鯨を狙っても母鯨の抵抗にあうため、捕食は容易ではない[30]。しかし、稀には健康な成獣が襲撃されることもあり、2023年にモントレー湾にて30頭のシャチの群れが2頭の成獣を約6時間にわたって攻撃しつづけ、結局は捕食に失敗したが、2頭とも負傷したとされる[30]。
また、ザトウクジラはシャチの狩りを積極的に妨害して他の生物を守ることが確認されており、2012年の観察以降、シャチによるコククジラの狩りや殺害後の捕食を妨害した観察例が複数回報告されている[31][32]。
商業捕鯨の禁止後は、人類による主だった脅威は少数民族による生存捕鯨、定置網への混獲、船舶との衝突、騒音、ゴミの誤飲、環境汚染とそれによる餌や生息地の減少[33]、などが挙げられているが、これらの他にも日本国内にて密猟と思わしき事例が数度記録されたり[34][35][36]、日本国内の市場から本種の肉が複数回発見されたこともある[37]。また、日本などでは「混獲」と称した疑似的な捕鯨によって絶滅危惧種が標的にされる危険性も存在し[38]、日本国内では混獲による死亡事例が相次いできた[39]。上記の密猟に関しても、本種だけでなくセミクジラやシロナガスクジラなどの他の絶滅危惧種も日本において密猟の対象にされる懸念が存在する[40]。また、日本では本種もふくめた絶滅危惧種の鯨類の管轄も環境庁ではなく農林水産省の範疇にあり、国内の自然保護の界隈でも鯨類などの保護は外国の思想の受け売りとみなされるなど軽視されてきた[39]。
なお、後述の通り現在確認されている「アジア系個体群」はカムチャッカ半島を経由して北米大陸にも回遊していることが判明しているため、チュクチ自治管区やワシントン州などで行われている原住民による「生存捕鯨」に絶滅危惧のアジア系個体群が影響を受ける可能性の有無については明らかになっていない。