ギリシャ語、イタリック語派、ケルト語派、ゲルマン語派はケントゥム語であり、インド・イラン語派、バルト・スラヴ語派はサテム語である。これらのケントゥム語はサテム語よりも西側に分布しているため、ケントゥム語とサテム語の違いは、方言的なものであったと考えられている意見がある。ところが、以下の発見によって、ケントゥム語とサテム語は系統の違いを表すものではなく、このような音変化はそれぞれの言語で独立に起きたと考えられる意見もある。
他のサテム語よりも東で話されていたトカラ語がケントゥム語であったこと。
ルウィ語(アナトリア語派)では一部の環境で印欧祖語の舌背破裂音の3系列が区別されていたこと。
アルメニア語・アルバニア語の2つのサテム語では、比較的遅い段階まで軟口蓋音と両唇軟口蓋音が区別されていたこと。
バルト・スラヴ語派では多くの単語がケントゥム語と同じような変化を遂げていること。
とくにスラヴ語派とバルト語派はどちらもサテム語派に属するものの、同時にケントゥム語派の音声的特徴も残しており、またこのスラヴ語派とバルト語派は文法的にはゲルマン語派(ケントゥム語派に属する)との間で明確な共通性があるため、スラヴ語派、バルト語派、ゲルマン語派の3つの言語の共通祖語(インド・ヨーロッパ祖語の北西語群)を想定する学説も有力となってきている[1][2]。 インド・ヨーロッパ語族に属する諸言語話者を特徴づける遺伝子はハプログループR1b (Y染色体)およびハプログループR1a (Y染色体)[3] [4] であるが、R1bはヨーロッパ西部やアナトリア、ウイグル(旧トカラ語分布域)などケントゥム語話者に高頻度で、R1aはバルト・スラブ語派やインド・イラン語派などサテム語話者に高頻度である[5]。印欧祖語が話されたヤムナ文化の人骨からはハプログループR1b (Y染色体)が91.5%の高頻度で検出されているが、R1aは検出されていない[6]。そのため、元来の印欧語族話者はケントゥム語を話すR1b集団であり、ある時点でR1a集団が新たに印欧語に言語交替を起したものと考えられ、その際にR1a集団の基層言語の特徴がサテム語の特徴として受け継がれたものと思われる。
人類学的背景
脚注[脚注の使い方]^ Renfrew, Colin Archaeology and language (1990), pg 107
^ Baldi, Philip The Foundations of Latin (1999), pg 39