ケニング
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スノッリ・ストゥルルソンは、5要素からなるケニングを詩的許容の範疇としているが、これ以上の極端な構成については戒めている[5]。スカルド詩にあるケニングで最長のものは7つの要素のもので、トールズ・スヤレクソンのものである[6]。"nausta blakks hle-mana gifrs drifu gim-slongvir"「船の小屋の馬の守りの月の女巨人の吹雪に火を振り回すもの」というのがそれで、単に戦士を意味する。
語順と理解

古ノルド語古英語と同様に総合的言語であり、語根に付与された接頭辞接尾辞が文法的意味を示すため、いわゆる分析的言語である現代英語に比べると、語順はかなり自由である。スカルド詩はこの自由度を最大限に生かしており、時に通常の散文では不自然なほどの表現になることがある。ケニングにおいても、属格句の基底語と決定素の間や、時には複合語の各要素の間にすら、ほかの単語がはさまることがある(分語法)。複数のケニングが入り交じることもある。その場合も、古ノルド語では形態論が洗練されているために、同じようにねじれた英語の文と比較すれば、曖昧さは普通小さい。

もう一つの特徴として、古ノルド語のケニングは極めて慣習的な傾向があることが挙げられる。指し示す話題も決まった小さい範囲にとどまり、表現も隠喩として伝統的に使われるものに収まることがほとんどである。一例では、指導者などが寛大な人物であるとされるとき、民衆側の味方であることを示すものとして、慣習的に「黄金の敵」「宝の攻撃者」「腕輪の破壊者」と呼ばれる。とはいえ、意味の曖昧な例も多くあり、故意にそうしたと思われるものもある[7]
定義

ケニングは、(「木の災い」=火[8]のような)単なる形容語句も含めて2要素以上からなる名詞代替法を広く指すものとする立場がある一方で、(「家々の太陽」=火[9]のような)隠喩的なもの、特に「基底語と修飾語句の意味との間に宿る(と詩人が考えた)関係のみによって指示物を指す」ようなもののみに限定するとする人もいる。自然物を指す隠喩(古英語のforstes bend「霜のきずな」=氷や、winter-?ew?de「冬の衣装」=雪、など)も、ケニングの定義から除外することがある。形容語句は世界に広く見られるありふれた修辞技法であるが、上記の狭義のケニングは、古ノルド語と(程度は落ちるが)古英語にのみ見られる特徴といえる[10]

ただし、スノッリはむしろ広義の意味、すなわち、2語以上(名詞と属格句、または複合語、さらにその組み合わせ)によるまわりくどい描写で人や物をほのめかす構造的修辞全般を指すものとしてケニングを捉えていたようである。隠喩でない表現にも明らかに適用されている例として、『詩語法』では、キリストを指す"konung manna「人々の王」という表現が[11]、『韻律一覧(Hattatal)』では、戦いを指す"fleinbrak「槍の激突」という表現が[12]、それぞれケニングであるとされている。

スノッリが使っているケンド・ヘイティ(古ノルド語: kend heiti、知識を必要とする詩語)という語は、ケニングと同義のものとして扱われているようである。ただし、ブロデューアによる定義では、上記でケニングから除外されたような表現を特に指すものとされている。

スヴェルドロフは、形態論的見地からケニングの定義を扱っている。ゲルマン語の複合語における修飾語句属格語根そのままの形も取ることができることから、一般的な古ノルド語の複合語では、属格の決定素と修飾語句は同様のふるまいを見せることを指摘している[13]。例えば属格決定素と修飾語句は、いずれも独立した形容詞によって修飾されることはない。この観点で言えば、すべてのケニングは、たとえ他の語句によって分割されていたとしても、形式的には複合語である。
語義論

ケニングは、拡張されて時に鮮烈な隠喩表現を生むことがある[14]。例としては「盾は『柄の固い足』(=剣の刃)によって踏みつけられた」「『傷の海』(=血)が剣の枕地(=盾)に吹き付けられた」などが挙げられる。スノッリはこういった表現を「新奇な創造」(古ノルド語: nygerving、ニュゲルウィング)と呼び、『韻律一覧』の第6段で例示している。ここでみられる表現上の効果は、自然な比喩とわざとらしい技巧の相互作用によるものである。しかしスカルド詩人は、こういった有機的な隠喩の拡張ではない、単に装飾的なだけのケニングを恣意的に使うこともよくあった。「支配者というのは、たとえ戦闘中であったとしても『金の分配者』であるし、金というのは、腕輪にされていたとしても『海の火』である。金の腕輪をつけた男が戦闘しているとして、海に言及することはその状況と何の関係もないし、戦闘の描写に貢献していない」。

こういった単なる隠喩の混合は、スノッリは誇張(古ノルド語: nykrat、ニュクラート)と呼び、ニュゲルウィングと区別した。甥のオーラヴ・ソルザルソンは過ち(古ノルド語: lostr)とすら呼んでいる。それにもかかわらず、「多くの詩人はこの規則に従っていないばかりか、中には、互いに異なる複数のケニングと、それらと関係がなかったり調和しないような動詞を一節に並べて使うようなおかしな手法を好んでいたようにしか見えないものもいる」。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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