クロロホルム
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酸素の存在下で比較的容易に分解され、有害ガスであるホスゲンを発生する[2]。また高温下でも分解が進行する。このため一般的な市販品には安定剤としてアルコール(主にメタノールエタノール)やアミレンが添加されている。
用途

19世紀後半から20世紀前半にかけて、一般的な吸入麻酔薬として外科手術の際に利用されてきた。その後、より高い安全性を持つものに置き換えられた。現在では冷却材であるクロロジフルオロメタンなどのフロン類製造が主な利用法となっている[2]。しかしながらモントリオール議定書により、オゾン層破壊物質であるフロンの製造も減少すると考えられている。

クロロホルムは化学工業の広い範囲で溶媒として用いられる[2]。また大学などの研究室でも広く使われている。使用例としては、アクリル樹脂の溶解、植物からのアルカロイド抽出などが挙げられる。

またNMR測定に供する試料の溶媒として重水素で置換されたクロロホルム(重クロロホルム、CDCl3)が標準的に使用される。
フィクションにおける利用

麻酔作用があることは一般にも有名であり、テレビドラマ推理小説、あるいは漫画などで頻繁に登場する。

典型的なシーンとしては、下記のようなものが挙げられる。
クロロホルムを数滴ハンカチにしみこませる。

後ろから被害者にこっそり近づき、鼻と口をおさえる。

被害者は抵抗するが、すぐぐったりとして寝てしまう。

次の場面で被害者は頭痛と共に目覚める。

クロロホルム自体は、実際には多少吸引しても気を失うことはなく、せいぜい吐き気、あるいは頭痛に襲われる程度である。上述の通りクロロホルムには麻酔性があることは事実であるが、これを発現させるためには相当量を吸引させなければならない。

他方、過度の吸引は腎不全を引き起こし、死に至らしめる可能性が高く、麻酔として用いるためには吸引量と全身状態を管理された状態に置かねばならない。すなわち麻酔としてクロロホルムを用いるためには、かけられる側にも「麻酔される意志」が必要であるということである。

また、クロロホルムが肌に触れると、状況によっては爛れを発生させ、一生消えることのないキズをおわせることにもなりうる。
反応

強塩基強酸化剤、マグネシウムや亜鉛といった金属類と反応する。水酸化ナトリウム水溶液と反応した場合は、ジクロロカルベンを生成するが、相間移動触媒があると反応速度が向上する。この反応はフェノールなどの活性化された芳香環のオルトホルミル化などに用いられ、芳香族アルデヒドを合成する手法として知られている(ライマー・チーマン反応)。またカルベンはアルケンに選択的に捕捉され、シクロプロパン誘導体が合成される。
毒性

中枢神経に作用するため、その特性を逆に利用して麻酔剤として利用されてきた。しかし大量に吸入すると血圧呼吸心拍の低下を引き起こし、重篤な場合はに至る。また呼吸器肝臓腎臓に影響を与えることが確認されており、発がん性も疑われている[2]IARCの発がん性評価ではグループ2Bに分類されている。マウスなどの動物実験によって変異原性が疑われている[2]。また、ラットを用いた実験では、胎児毒性、発達毒性が見られた[2]。しかしヒトの生殖に対してどのような影響を与えるのかは知られていない。

歯磨き粉咳止めシロップ軟膏や他の薬剤に用いられたこともあったが、アメリカ合衆国では1976年に利用が中止された。

不燃性であるが前述のように強塩基や強酸化剤、マグネシウム亜鉛といった金属類とは反応するため、溶媒として用いる際には注意が必要である。

これらの問題のため、研究室ではドラフト内で利用することが望ましい。なお毒性と厳しい排出規制、およびグリーンケミストリーの観点から極力使用しないよう推し進められており、より安全なジクロロメタンや、より環境負荷の小さい溶媒への転換が行われている。

日本では毒物及び劇物取締法医薬用外劇物に指定、労働安全衛生法第二類物質特別有機溶剤等に指定されるなどの規制を受けている。

作業環境での管理濃度は、3ppmである。
脚注[脚注の使い方]^麻酔の歴史 - 浜松医科大学麻酔・蘇生学講座
^ a b c d e f “IPCS UNEP//ILO//WHO 国際化学物質簡潔評価文書 No.58 クロロホルム” (PDF). 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部 (2009年). 2012年1月14日閲覧。

関連項目

有害物質










ハロメタン
一置換体

CH3F · CH3Cl · CH3Br · CH3I
二置換体

CH2F2 · CH2ClF · CH2BrF · CH2FI · CH2Cl2 · CH2BrCl · CH2ClI · CH2Br2 · CH2BrI · CH2I2
三置換体

CHF3 · CHClF2 · CHBrF2 · CHF2I · CHCl2F · C*HBrClF · C*HClFI · CHBr2F · C*HBrFI · CHFI2 · CHCl3 · CHBrCl2 · CHCl2I · CHBr2Cl · C*HBrClI · CHClI2 · CHBr3 · CHBr2I · CHBrI2 · CHI3
四置換体

CF4 · CClF3 · CBrF3 · CF3I · CCl2F2 · CBrClF2 · CClF2I · CBr2F2 · CBrF2I · CF2I2 · CCl3F · CBrCl2F · CCl2FI · CBr2ClF · C*BrClFI · CClFI2 · CBr3F · CBr2FI · CBrFI2 · CFI3 · CCl4 · CBrCl3 · CCl3I · CBr2Cl2 · CBrCl2I · CCl2I2 · CBr3Cl · CBr2ClI · CBrClI2 · CClI3 · CBr4 · CBr3I · CBr2I2 · CBrI3 · CI4


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