「クレムリンの枢機卿」は「教皇暗殺
」(2002)までの、クランシーの伝統的なスパイ小説の主要な例と考えられている。それには「スパイ活動に必要なノウハウの細部までこだわり、この危険な職業に就いている人たちを探求する、ほぼフェティシスト的な注意が払われている」が挙げられる。さらに、本書が執筆されたのは、ソビエト連邦の共産主義が衰退し始めた、世界史の重要な時期と歴史家たちが考えている、ソビエト首相ミハイル・ゴルバチョフの統治時代である。クランシーは、ゴルバチョフのようなソビエト政府の改革者によって、米国との関係の転換を確立しやすくなるという彼の見解に賛同しており、それは3年後のソビエト連邦崩壊によって可能になった。本書はまた、ソビエトがアフガニスタンを占領し、また弾道戦略核兵器による攻撃から米国を防衛することを目的とするミサイル防衛システム「戦略防衛構想」が提案された時期に書かれたものである。それらは両方とも小説で取り上げられた。また、フィリトフとラミウスの祖国への反逆の動機の類似性など、以前の小説「レッド・オクトーバーを追え」(1984年)で描かれた要素も引き継がれている[2]。 本書は1,277,000部の上製本を売り上げ、その年のベストセラー小説となり[3]好評を博した。米国の書評誌であるカーカス・レビューは、この本を「以前のクランシーの作品よりもテクノブラザーに頼らず、サブプロットで溢れ、それらのほとんどが面白い。たっぷりのアクション、お涙頂戴もなし」と称賛した[4]。ニューヨーク・タイムズに掲載されたロバート・レカチマンの書評では、彼は「ジャック・ライアンシリーズの中で間違いなく最高」と称賛し、次のように付け加えている。「彼の散文は職人のようなものに勝るものではないが(結局のところ、このジャンルは多くの新進気鋭のフローベールたちを惹きつけるものではない)、題名の諜報員「枢機卿」の正体を暴くというのは、私が今まで出会ったことのないスパイの技術を駆使した洗練された仕事だろう」[5]。ボブ・ウッドワードはワシントン・ポストのレビューで、この本について「クランシーの『レッド・オクトーバーを追え』に匹敵し、『レッド・ストーム作戦発動』を凌駕し、『愛国者のゲーム』より遥かに勝る」「素晴らしいスパイ小説」とした[6]。
評価