クラスター_(疫学)
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これは「集団(学校、施設、家族等さまざまな集団)におけるインフルエンザの続発にかかる情報収集」[7]と定義される。医師学校、施設等からの連絡に基づき、同一の集団(学校、施設等)における複数のインフルエンザ患者の発生を保健所が把握する。7日以内に複数の患者が発生していること[8]が目安である。たとえば学校に対しては、同一学級または部活動等の単位でインフルエンザ様症状(38度以上の発熱があって、鼻汁もしくは鼻閉咽頭痛のどれかがある状態をいう)による欠席が7日間に2名以上出たときは、迅速に保険所に連絡することを要請していた[9]

この当時用いられていた「クラスター」は、不特定の者が参加する催物や1回きりの会合などでの感染は対象としない。特定のメンバーが日常的に接触を繰り返す集団内での複数患者の発生を指す用語である。また、患者同士が同一の感染ネットワーク上にあることも要件としない。

当時の行政文書ではしばしば「クラスター(集団発生)」のようにカッコ書き付きであり、「集団発生」の同義語というあつかいであった。一般向け報道では「集団発生」あるいは「集団感染」を使っていて[10][11][12]、「クラスター」の語を使うことはほとんどなかった。
日本の新型コロナウイルス感染症対応における用法

日本においては、2020年令和2年)の新型コロナウイルス感染症流行に伴い、2月24日に開催された新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下「専門家会議」と呼ぶ)第3回会議での検討結果を踏まえて翌25日政府の新型コロナウイルス感染症対策本部(以下「対策本部」と呼ぶ)が決定した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」[13]が「クラスター」という語を多用したことから、その後報道等で頻出するようになった。本来は、特定の環境においてひとりの感染者が大量の2次感染を起こすスーパー・スプレッダーを示す便宜的な表現として考案された用語だった[14](p23)。しかし当時の政府文書は、スーパー・スプレッダーに着目することを図によってほのめかすにとどまり[15]、文章による明確な定義を示さなかった。その後、異なる意味を持つ「クラスター」の使用が並立することになり、スーパー・スプレッダーとは関係ない内容に変わっていく[16]

「クラスター」の法的定義としては、鳥取県が2020年8月27日に公布した条例による「不特定又は多数の者が立ち入り、又はとどまる施設又は催物において新型コロナウイルス感染症の患者……が複数生じた場合における患者の集団であって、その人数が5名以上であるもの」[17]という規定がある。他の地方公共団体にはクラスターを定義する条例はないが、感染状況に関する情報の発表などで、同様の定義が事実上の標準として使われていた[18]。1箇所での大人数の感染という現象は、当初は「集団感染」と呼ばれていた[19]が、専門家会議が3月2日に公表した「新型コロナウイルス感染症対策の見解」[20](pp6-7)がはじめて「クラスター」と表現した。厚生労働省は、この意味での「クラスター」について、それが発生しやすい環境は「3つの密」が重なる場所であると指摘し、3つの密を避けるように国民に呼びかけた[21]。なお、5名以上という基準は、2020年3月17日に厚生労働省が公表した「全国クラスターマップ」改訂版[22]で使われたものである[注 2]。2020年夏以降になると、日本政府は2名以上が1箇所で感染した事例を「クラスター」として数えるようになり[26]、5名以上という基準を維持する地方公共団体発表とのあいだに齟齬が生じた[16]

もうひとつの定着した用法は、誰から誰に感染したかというネットワーク(通常、有向グラフとして表現される)を把握して、つながりのある感染者の集団を「クラスター」と呼ぶものである[27]保健所がおこなう積極的疫学調査のために国立感染症研究所が作成したマニュアルの2020年(令和2年) 2月27日版に「連続的に集団発生を起こし(感染連鎖の継続)、大規模な集団発生につながりかねないと考えられる患者集団を指す」[28]とある例が最も古い。3月15日に厚生労働省が初めて公開した「全国クラスターマップ」[23]も、「感染者間の関連が認められた集団(クラスター)を地図上に表示した」[29] ものであった[注 2]。対策本部が3月28日に作成した「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」[30]も、「患者間の関連が認められた集団」をクラスターとしている。この「基本的対処方針」は、2023年5月8日に廃止されるまで3年以上、改訂を重ねながらもおなじクラスター定義を使いつづけた[31]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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