クモ膜下出血
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多様な心電図変化が見られることが知られている[9]

重症度の分類として「ハントとヘスの重症度分類 (Hunt and Hess scale '74) 」を用いる。グレード5では呼吸停止や心停止を来たすこともある。これは一過性の全脳虚血や頭蓋内圧の著明な亢進を示唆しており[10][11]、この場合の予後は極めて悪い。

グレード
(Grade)症状
グレード0
(Grade 0)非破裂動脈瘤
グレード1
(Grade 1)無症状、または軽度の頭痛と項部硬直
グレード1a
(Grade 1a)急性の髄膜刺激症状はないが神経脱落症状が固定
グレード2
(Grade 2)中等度以上の頭痛、項部硬直はあるが脳神経麻痺以外の神経脱落症状はない
グレード3
(Grade 3)傾眠、錯乱、または軽度の神経脱落症状、意識障害
グレード4
(Grade 4)昏迷、中等度の片麻痺、除脳硬直のはじまり、自律神経障害
グレード5
(Grade 5)深昏睡、除脳硬直、瀕死状態

脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血の場合は部位によって代表的な神経症状が知られており、以下にそれをまとめる。

破裂部位神経症状
内頸動脈-後交通動脈分枝部一側の動眼神経麻痺
前交通動脈一側または両側下肢の一過性麻痺、精神症状、無動性無言、無為
中大脳動脈片麻痺、失語
眼動脈起始部の内頸動脈瘤一側の失明や視力障害
海綿静脈洞部の内頸動脈瘤目の奥の痛み
脳底および椎骨動脈瘤動眼、外転、滑車、三叉神経障害、下部脳幹神経障害

診断ペンタゴン・レベルでのCT画像を模式化した絵。上が正常、下がクモ膜下出血の場合。中心付近にある周囲の脳組織よりも明るい影が血腫である。
頭部CTスキャン

頭部のコンピュータ断層撮影(CT)においてクモ膜下腔に高吸収領域が見られる。特に内因性のものである場合はペンタゴン・レベルで中心付近に高吸収領域が見られるが、外傷性のものでも見られることがある。また、頭痛が軽いなどのためにCTを行わず、初診時に風邪、高血圧、片頭痛として見逃される例が日本国内で5-8%程度あるとの調査もなされている(海外では12%などの結果が出ている)[12]

最も有名なクモ膜下出血のCT所見に、ペンタゴンといわれる鞍上槽への出血が知られている。これは頭蓋内内頸動脈動脈瘤破裂の場合によく認められるもので、それ以外の動脈瘤破裂によるクモ膜下出血ではこのような画像にはならない。また破裂動脈瘤の30%ほどに脳内出血を合併するといわれている。脳動脈瘤の好発部位としては前交通動脈(Acom)、中大脳動脈の最初の分枝部、内頸動脈-後交通動脈(IC-PC)とされている。前交通動脈瘤では前頭葉下内側および透明中隔に、IC-PCでは側頭葉に、中大脳動脈瘤では外包および側頭葉、前大脳動脈遠位部動脈瘤では脳梁から帯状回に脳内血腫を形成する。高血圧性の脳内出血と明らかに分布が異なるほか、原則として近傍にクモ膜下出血を伴っている。亜急性細菌性心内膜炎絨毛癌などでは動脈瘤を合併し、クモ膜下出血、脳内出血を合併することが知られている。以下に出血部位から責任動脈瘤を推定する方法をまとめる。

破裂部位出血の広がり
前交通動脈大脳縦裂前部、交叉槽、脚間槽などからシルビウス裂まで左右対称的に存在、透明中隔腔内の血腫が特徴的である。
中大脳動脈同側のシルビウス裂を中心に存在する
頭蓋内内頸動脈領域鞍上部脳槽を中心に非対称的に両側性に存在する。所謂、ペンタゴンである。
椎骨脳底動脈領域迂回槽、脚間槽、橋槽を中心に左右対称性に存在する。

シルビウス裂における中大脳動脈瘤の破裂においては、血腫が脳実質内まで達し、脳内出血と診断されることもあるが、この場合の臨床経過や治療は確かに脳内出血と重なる要素もあり、一概に誤診とは言い切れない。
MRI

核磁気共鳴画像法(MRI)のFLAIRシーケンスで撮影すると、CTと同等の検出率である(ただし最新型の高磁場装置に限る)。血腫が少量である場合、発症後時間が経過した症例においてはCTよりも検出率が高いという報告もある。磁気共鳴血管画像(MRA、MR血管撮影。後述)も同時に撮影できるという利点もある。
腰椎穿刺

腰椎穿刺により血液混入(急性)やキサントクロミー(英語版)(陳旧性)を肉眼で認める。ただし、徐脈や眼底乳頭浮腫などの脳圧亢進症状がある場合には腰椎穿刺は脳ヘルニアを助長する恐れがあるため、禁忌である。

腰椎穿刺にて髄液にキサントクロミーがみられず、赤血球数2000×106/L未満であれば、動脈瘤性クモ膜下出血を除外できると報告された(感度100%、特異度91.2%)[13]

脳血管撮影

脳血管撮影で脳動脈瘤や脳動静脈奇形を認める。

血管を撮影する方法としては、X線検査で平面上に透視しながらカテーテル造影剤を流して撮影する頸動脈造影 (Carotid angiography) ・椎骨動脈造影 (Vertebral angiography) が最も感度・特異度が高い。その他の利点として検査と同時に治療が行える(動脈瘤コイリング術・塞栓術、あるいは合併症である血管攣縮に対して血管拡張薬の灌流など)などがあるが、欠点としては侵襲度が大きくそれ自体が出血を惹起する恐れがあること、またコイリングや塞栓術による医原性の脳梗塞などが挙げられる。

それ以外の方法では、いずれも造影剤を用いた断層撮影で高解像度のCTにより撮影する立体血管撮影CT (3DCTA) とMR血管撮影 (MRA) があるが、感度・特異度ともに血管造影には劣る。ただし血管造影は撮影終了までの時間が3DCTAやMRAと比較して長いため、緊急を要するクモ膜下出血では血管造影は行われないことも多い。
合併症
再出血

再出血は脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血の約20%に起こり、特に発症後24時間以内が最も多い[14][15]。再出血を起こすと予後不良である。

Hunt and Kosnikグレードで3以上の症例では発症の数時間以上前に弱い頭痛を経験している患者が見られており、「それ自体が最初の出血で、受診時の出血は再出血である」可能性も一部で指摘されている[16][17]

外傷性のクモ膜下出血では、再出血はほとんど起こらない。
脳血管攣縮

血腫の影響で脳の動脈が縮むことを脳血管攣縮といい、発症後4日から14日の間に発現する。脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血の3-4割で起こり、出血を起こした血管以外の血管も攣縮することから虚血となり、梗塞に発展することもある。

脳動脈瘤は
大脳動脈輪(ウィリス動脈輪)の近傍に形成されることが多い。

脳への血流は必ず大脳動脈輪を通る。

大脳動脈輪以後の動脈支配には側副血行路がない。

以上の要因により、血管攣縮による梗塞は通常の脳梗塞よりも重篤なものとなる。

脳血管攣縮の機序(メカニズム)は次の通りである。

まず、血管周囲の血腫に含まれるヘモグロビンは3-4日の間に変質してヘモジデリンヘミンとなる。

これらが周囲の血管壁が分泌する一酸化窒素(NO)を分解する。

動脈は常に血管を拡張させる物質(NO)と収縮させる物質(エンドセリン)を分泌しており、その量の調節によって血流を自立的にコントロールしている。しかしNOが分解されてしまうことにより、血管収縮物質のみが残ってしまう。

また、発症時以降に虚血を起こした/今も起こしている脳組織の腫脹により、脳血管が圧迫される。

後述の尿崩症によっても、血管内容積と血圧が低下して灌流圧が弱くなる。

さらには、傷害の影響による波及的皮質脱分極が脳の酸素要求量を亢進させ、軽度の虚血であっても神経細胞の死滅を来たす[18]

脳血管攣縮の診断は、経頭蓋的なドプラーエコーによって行う。この時血流が通常よりも速くなっていれば、脳血管攣縮が起き始めていることを表す。また、完全に梗塞が起きてしまった場合には、CT上大きな低吸収域が認められることによって診断が確定する。脳血管攣縮の危険性は、CT上の血腫の大きさと分布をFischerグレードで表すことである程度予測できる。

梗塞まで至らない軽度の血管攣縮は、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血のほぼ全例に見られるため、「遅発性脳梗塞」「遅発性脳梗塞性障害」と呼んで区別することも提唱されている。
心血管系の合併症

発症によるストレス反応で急激に血圧が上昇し、心負荷と内分泌系の失調により肺水腫が起こる。また、心臓に異常がなくてもT波の陰転が見られることがある[19]。重症例ではクレアチンキナーゼMBやトロポニンTの上昇もみられ[20]、高負荷が心筋にダメージを与えていることを示唆する[21]。これが昂(こう)じてタコツボ型心筋症を起こし[22]、死に至る例も珍しくない。
尿崩症

脳浮腫により脳圧が亢進すると視床下部および脳下垂体が機能不全に陥り、下垂体後葉から分泌されるバソプレシンなどのホルモンが減少することによって尿量が増加する。


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