内因性のクモ膜下出血の多くを占める。脳動脈瘤は動脈の一部位が膨らみ、その血管壁が脆弱となったものである。その種類により袋型(嚢状動脈瘤)と紡錘型がある。動脈瘤の原因については「脳動脈瘤」を参照
脳動脈瘤を持つ人において、運動、怒責、興奮などによって脳への血圧が上昇すると動脈瘤の一部が破れて出血を起こす[5]。出血自体はほんの数秒であるが血液は急速にクモ膜下腔全体に浸透し、頭蓋内圧亢進症状や髄膜刺激症状を起こす。
また、脳を栄養すべき血流が出血へと流れてしまうことにより、一過性の脳虚血を起こす。後述のHunt and Hess分類は、その虚血の重篤度を表すものであるとも考えられる。意識消失はごく短時間の大きな虚血によるものであり、心肺停止は数秒以上の全脳虚血によって迷走神経優位(迷走神経反射)による洞停止と推定されるからである。 脳動静脈奇形は脳の動脈と静脈が先天的にシャントを形成している奇形で、脆弱な静脈壁に大きな血圧がかかることから出血を起こしやすい。若年性のクモ膜下出血では最も多い原因である。詳細は「脳動静脈奇形」を参照 脳は脊髄液の中に浮いた状態で存在しており、脳全体の比重は脳脊髄液よりわずかに重い。このため、頭部に衝撃を受けると脳は頭蓋内で力の作用点に対して寄る形で移動する。この時、作用点の反対側では脳と硬膜を結ぶ静脈が切れて出血する。 喫煙、高血圧[6]、アルコール多飲歴[7]などがリスク因子として存在する。隔世遺伝性の病気であり、祖父母の代で発症した者がいる場合は発症する確率が上がる。 突然始まる、強い持続性の頭痛が主たる症状である。 嘔吐を伴うこともある。頭痛は「金属バット、ハンマーで殴られたような」などと表現される。少量の出血(マイナーリーク)の場合は、頭痛はそれほど強くないことが多い。頭痛の発症は「突然」起こることが特徴である。この頭痛は数時間で消失することはなく、数日間持続する。その他の神経症状がないことも珍しくなく、脳内血腫を伴わなければ片麻痺、失語などの脳局所症状はみられない。なお、出血が高度であれば意識障害をきたし頭痛を訴えることはできない。神経症状として髄膜刺激症状が認められることが多い。 重症度の分類として「ハントとヘスの重症度分類 (Hunt and Hess scale '74) 」を用いる。グレード5では呼吸停止や心停止を来たすこともある。これは一過性の全脳虚血や頭蓋内圧の著明な亢進を示唆しており[10][11]、この場合の予後は極めて悪い。 グレード 脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血の場合は部位によって代表的な神経症状が知られており、以下にそれをまとめる。 破裂部位神経症状 頭部のコンピュータ断層撮影(CT)においてクモ膜下腔に高吸収領域が見られる。特に内因性のものである場合はペンタゴン・レベルで中心付近に高吸収領域が見られるが、外傷性のものでも見られることがある。また、頭痛が軽いなどのためにCTを行わず、初診時に風邪、高血圧、片頭痛として見逃される例が日本国内で5-8%程度あるとの調査もなされている(海外では12%などの結果が出ている)[12]。 最も有名なクモ膜下出血のCT所見に、ペンタゴンといわれる鞍上槽 破裂部位出血の広がり シルビウス裂における中大脳動脈瘤の破裂においては、血腫が脳実質内まで達し、脳内出血と診断されることもあるが、この場合の臨床経過や治療は確かに脳内出血と重なる要素もあり、一概に誤診とは言い切れない。 核磁気共鳴画像法(MRI)のFLAIRシーケンスで撮影すると、CTと同等の検出率である(ただし最新型の高磁場装置に限る)。血腫が少量である場合、発症後時間が経過した症例においてはCTよりも検出率が高いという報告もある。磁気共鳴血管画像(MRA、MR血管撮影。後述)も同時に撮影できるという利点もある。 腰椎穿刺により血液混入(急性)やキサントクロミー 脳血管撮影で脳動脈瘤や脳動静脈奇形を認める。 血管を撮影する方法としては、X線検査で平面上に透視しながらカテーテルで造影剤を流して撮影する頸動脈造影 (Carotid angiography) ・椎骨動脈造影 (Vertebral angiography) が最も感度・特異度が高い。その他の利点として検査と同時に治療が行える(動脈瘤コイリング術・塞栓術、あるいは合併症である血管攣縮に対して血管拡張薬の灌流など)などがあるが、欠点としては侵襲度が大きくそれ自体が出血を惹起する恐れがあること、またコイリングや塞栓術による医原性の脳梗塞などが挙げられる。 それ以外の方法では、いずれも造影剤を用いた断層撮影で高解像度のCTにより撮影する立体血管撮影CT (3DCTA) とMR血管撮影 (MRA) があるが、感度・特異度ともに血管造影には劣る。ただし血管造影は撮影終了までの時間が3DCTAやMRAと比較して長いため、緊急を要するクモ膜下出血では血管造影は行われないことも多い。
脳動静脈奇形の破裂
外傷による出血
リスク因子
症状
中枢症状
激しい頭痛
悪心・嘔吐
神経原性肺水腫
身体所見
髄膜刺激症状
項部硬直(首の硬直): 首の屈曲テスト (neck flexion test) で判断。自発的に頸部を前屈させ、下顎が胸まで十分に近接するようであれば正常。前屈が困難であれば異常。
ケルニッヒ徴候 (Kernig's sign)
ブルジンスキー徴候
頭部を振った際の頭痛増悪 (jolt accentuation of headache) : 子どもが「イヤイヤ」をするように、素早く頭部を左右に振り、頭痛が増悪するようであれば異常。2-3回/秒の早さで頭を水平方向に回してみて、頭痛が増悪すれば陽性とする[8]。
検査所見
多様な心電図変化が見られることが知られている[9]。
(Grade)症状
グレード0
(Grade 0)非破裂動脈瘤
グレード1
(Grade 1)無症状、または軽度の頭痛と項部硬直
グレード1a
(Grade 1a)急性の髄膜刺激症状はないが神経脱落症状が固定
グレード2
(Grade 2)中等度以上の頭痛、項部硬直はあるが脳神経麻痺以外の神経脱落症状はない
グレード3
(Grade 3)傾眠、錯乱、または軽度の神経脱落症状、意識障害
グレード4
(Grade 4)昏迷、中等度の片麻痺、除脳硬直のはじまり、自律神経障害
グレード5
(Grade 5)深昏睡、除脳硬直、瀕死状態
内頸動脈-後交通動脈分枝部一側の動眼神経麻痺
前交通動脈一側または両側下肢の一過性麻痺、精神症状、無動性無言、無為
中大脳動脈片麻痺、失語
眼動脈起始部の内頸動脈瘤一側の失明や視力障害
海綿静脈洞部の内頸動脈瘤目の奥の痛み
脳底および椎骨動脈瘤動眼、外転、滑車、三叉神経障害、下部脳幹神経障害
診断ペンタゴン・レベルでのCT画像を模式化した絵。上が正常、下がクモ膜下出血の場合。中心付近にある周囲の脳組織よりも明るい影が血腫である。
頭部CTスキャン
前交通動脈大脳縦裂前部、交叉槽、脚間槽などからシルビウス裂まで左右対称的に存在、透明中隔腔内の血腫が特徴的である。
中大脳動脈同側のシルビウス裂を中心に存在する
頭蓋内内頸動脈領域鞍上部脳槽を中心に非対称的に両側性に存在する。所謂、ペンタゴンである。
椎骨脳底動脈領域迂回槽、脚間槽、橋槽を中心に左右対称性に存在する。
MRI
腰椎穿刺
腰椎穿刺にて髄液にキサントクロミーがみられず、赤血球数2000×106/L未満であれば、動脈瘤性クモ膜下出血を除外できると報告された(感度100%、特異度91.2%)[13]。
脳血管撮影
合併症
Size:46 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
担当:undef