クモ膜下出血
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これが昂(こう)じてタコツボ型心筋症を起こし[22]、死に至る例も珍しくない。
尿崩症

脳浮腫により脳圧が亢進すると視床下部および脳下垂体が機能不全に陥り、下垂体後葉から分泌されるバソプレシンなどのホルモンが減少することによって尿量が増加する。これは後述する3H療法の妨げとなる。形態により真性尿崩症(Diabetes insipidus)、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(Syndrome of inappropriate anti-diuretic hormone)、塩類喪失症候群(Salt-wasting sydrome)の3種類がある。血中のヒト心房性ナトリウム利尿ペプチドを測定することによって、低ナトリウム血症の危険性をある程度予測することができると報告されている[23]
正常圧水頭症

正常圧水頭症は急性期を過ぎた晩期に見られ、生命予後にはあまり影響しないが機能予後を低下させる。
治療

クモ膜下出血の予後決定要因は再出血と脳血管攣縮、そして血腫や脳浮腫によって脳血流が妨げられることにある。この3つに焦点を絞った治療を行う。脳神経外科の専門病院に搬送し緊急に原因治療を行い、合併症の出現を防ぐ。

一般に、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血が起った場合の治療は重症度によって異なる。重症度の分類としてはHuntとKonsnikの重症度分類が有名である。

脳動脈瘤破裂の場合は発症直後(特に24時間以内)に再出血が多く、安静を保ち、侵襲的処置や検査を避ける。重症でなければ、Grade1-3ならば降圧、鎮静、鎮痛を十分に行い、年齢、全身合併症にて不可能でない限り72時間以内に外科的手術を行う(全身状態が安定すれば早い方がよい)。痙攣対策として早期から抗痙攣薬を投与することもある。動脈瘤破裂の場合はクモ膜下出血の合併症である再出血(14日以内)、遅発性脳血管攣縮(4-14日後)、正常圧水頭症(数か月後)といった合併症の管理も必要となる。

開頭手術の場合は遅発性脳血管攣縮予防のため脳槽ドレナージにて脳槽内血腫を早期除去や、塩酸ファスジルやカルシウム拮抗薬(nimodipine)の全身投与を行う。他にもtriple H療法、塩酸パパベリン選択動注療法、PTAなど各種治療がある。

比較的重症例Grade4ならば脳循環動態の改善が重要であり、頭蓋内圧降下の薬投与、心合併症に注意した全身循環動態の管理が必要である。急性水頭症、脳内出血などを同時に治療することによって状態の改善が見込める場合には積極的に外科的な治療を行う。

最重症例Grade5では原則として再出血予防の適応は乏しい。しかし比較的重症例と同様に症状の改善が見込める特殊な例には再出血予防手術を行う。数か月後におこる正常圧水頭症 (NPH) はVPシャントで治療可能であるため重要である。

感覚遮断

最初の24時間は再出血の危険が極めて高いため、鎮静剤と羞明防止(暗室化)により血圧上昇を防ぐ。
開頭動脈瘤クリッピング術

利点

直視下に動脈瘤が確認できる。

長年にわたる成績が出ており、再破裂のリスクが低い。

血腫が存在する場合一緒に除去できる。


欠点

動脈瘤が嚢状でないと困難。

脳・血管の損傷。

48時間以内に行うのが理想である。ただ出血直後は動脈瘤からの出血が止血していない可能性があるため、最低でも発症から6時間経過した上で開頭する。

この手術で使用されるクリップはチタン製のものが多い。鉄を使用しないのは、MRIが使用できなくなることを避けるためである。また、血管攣縮を防ぐために同時に血腫の除去も行われる。

なお、未治療で発症から1週間程度経った場合は手術を施行することで血管攣縮を発症させる可能性があるため、血管攣縮の可能性が少なくなる時期までは治療しない。
血管内治療

造影下において動脈瘤内にプラチナ製のコイルを詰めて閉塞するコイル塞栓術(脳動脈瘤コイリング術)、血管攣縮に対する血管拡張薬(塩酸パパベリンなど)の動注療法が行われる。近年、治療成績が開頭術を凌駕しつつある[24]が、脳血管疾患の救急搬送体制・集中治療体制の整備による要素もあり、どちらの治療が適しているかは専門医が判断しなければならない。
3H療法

血管攣縮の予防、ならびに脳浮腫の状態でも動脈灌流を維持するため、高血圧(Hypertension)・高循環血液量(Hypervolemic)・血液希釈(Hemodilusion)療法が行われる。具体的には高張輸液の大量投与、時にはアルギン酸アルブミンの投与も行われる。高カロリー輸液などもかつては行われたが、高血糖は予後を低下させる[25](脳の酸素消費亢進、それによるCO2産生の増多→血管原性浮腫の増悪など)ことから下火になりつつある。
その他の治療法

血糖コントロール[26][27]硫酸マグネシウム静注などがあるが、エビデンスを提示するまでには至っていない。
予後

最初の出血で3分の1が死亡する。さらに血管攣縮や再出血の影響が加わり、4週間以内では約半数が死亡するといわれている。また救命できても後遺症が残る例が多く、完全に治癒する確率はクモ膜下出血を起こした人の中で2割と低い。

発症後の予後に関連するものとして、世界脳神経外科学会連盟(WFNS)は意識レベルの程度による重症度分類を提唱している。これはGlasgow Coma Scaleおよび局所神経症状(失語症麻痺など)によって5段階に分類する方法である。この分類においてgrade IIIとgrade IVの間には予後に大きな差があるとされ、特にgrade Vは致死率がほぼ100%であるとまでいわれている。そのため、grade IV以上の場合は無意味であるとして治療しない病院も多い。

重症度GCSスコア主要な局所神経症状
grade I15なし
grade II14-13
grade IIIあり
grade IV12-7不問
grade V6-3

文献
総説

Lawton MT, Vates GE. “Subarachnoid Hemorrhage”.
N Engl J Med 377 (3): 257?266. (2017). doi:10.1056/NEJMcp1605827. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}PMID 28723321. 

Connolly ES Jr, Rabinstein AA, Carhuapoma JR, Derdeyn CP, Dion J, Higashida RT, Hoh BL, Kirkness CJ, Naidech AM, Ogilvy CS, Patel AB, Thompson BG, Vespa P. "Guidelines for the Management of Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: A Guideline for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association." Stroke. 2012 Jun;43(6):1711-1737. Epub 2012 May 3. PMID 22556195

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Al-Shahi R, White PM, Davenport RJ, Lindsay KW. "Subarachnoid haemorrhage." BMJ. 2006 Jul 29;333(7561):235-40. Review. PMID 16873858 ⇒Free Article

出典[脚注の使い方]^ 国により差があり、米国では4-5%とされる。出典:Gonsoulin M, Barnard JJ, Prahlow JA. "Death resulting from ruptured cerebral artery aneurysm: 219 cases." Am J Forensic Med Pathol. 2002 Mar;23(1):5-14. PMID 11953486。
^ 【医療ルネサンス】続・脳動脈瘤とともに5/5「突然の別れ」思い重ねて『読売新聞』朝刊2022年6月24日くらし面
^ Sarti C et al. "Epidemiology of subarachnoid hemorrhage in Finland from 1983 to 1985". Stroke. 1991 Jul;22(7):848-53. PMID 10797165
^ Ingall T et al. "A multinational comparison of subarachnoid hemorrhage epidemiology in the WHO MONICA stroke study". Stroke. 2000 May;31(5):1054-61. PMID 10797165


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