クモ膜下出血
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再出血は脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血の約20%に起こり、特に発症後24時間以内が最も多い[14][15]。再出血を起こすと予後不良である。

Hunt and Kosnikグレードで3以上の症例では発症の数時間以上前に弱い頭痛を経験している患者が見られており、「それ自体が最初の出血で、受診時の出血は再出血である」可能性も一部で指摘されている[16][17]

外傷性のクモ膜下出血では、再出血はほとんど起こらない。
脳血管攣縮

血腫の影響で脳の動脈が縮むことを脳血管攣縮といい、発症後4日から14日の間に発現する。脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血の3-4割で起こり、出血を起こした血管以外の血管も攣縮することから虚血となり、梗塞に発展することもある。

脳動脈瘤は
大脳動脈輪(ウィリス動脈輪)の近傍に形成されることが多い。

脳への血流は必ず大脳動脈輪を通る。

大脳動脈輪以後の動脈支配には側副血行路がない。

以上の要因により、血管攣縮による梗塞は通常の脳梗塞よりも重篤なものとなる。

脳血管攣縮の機序(メカニズム)は次の通りである。

まず、血管周囲の血腫に含まれるヘモグロビンは3-4日の間に変質してヘモジデリンヘミンとなる。

これらが周囲の血管壁が分泌する一酸化窒素(NO)を分解する。

動脈は常に血管を拡張させる物質(NO)と収縮させる物質(エンドセリン)を分泌しており、その量の調節によって血流を自立的にコントロールしている。しかしNOが分解されてしまうことにより、血管収縮物質のみが残ってしまう。

また、発症時以降に虚血を起こした/今も起こしている脳組織の腫脹により、脳血管が圧迫される。

後述の尿崩症によっても、血管内容積と血圧が低下して灌流圧が弱くなる。

さらには、傷害の影響による波及的皮質脱分極が脳の酸素要求量を亢進させ、軽度の虚血であっても神経細胞の死滅を来たす[18]

脳血管攣縮の診断は、経頭蓋的なドプラーエコーによって行う。この時血流が通常よりも速くなっていれば、脳血管攣縮が起き始めていることを表す。また、完全に梗塞が起きてしまった場合には、CT上大きな低吸収域が認められることによって診断が確定する。脳血管攣縮の危険性は、CT上の血腫の大きさと分布をFischerグレードで表すことである程度予測できる。

梗塞まで至らない軽度の血管攣縮は、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血のほぼ全例に見られるため、「遅発性脳梗塞」「遅発性脳梗塞性障害」と呼んで区別することも提唱されている。
心血管系の合併症

発症によるストレス反応で急激に血圧が上昇し、心負荷と内分泌系の失調により肺水腫が起こる。また、心臓に異常がなくてもT波の陰転が見られることがある[19]。重症例ではクレアチンキナーゼMBやトロポニンTの上昇もみられ[20]、高負荷が心筋にダメージを与えていることを示唆する[21]。これが昂(こう)じてタコツボ型心筋症を起こし[22]、死に至る例も珍しくない。
尿崩症

脳浮腫により脳圧が亢進すると視床下部および脳下垂体が機能不全に陥り、下垂体後葉から分泌されるバソプレシンなどのホルモンが減少することによって尿量が増加する。これは後述する3H療法の妨げとなる。形態により真性尿崩症(Diabetes insipidus)、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(Syndrome of inappropriate anti-diuretic hormone)、塩類喪失症候群(Salt-wasting sydrome)の3種類がある。血中のヒト心房性ナトリウム利尿ペプチドを測定することによって、低ナトリウム血症の危険性をある程度予測することができると報告されている[23]
正常圧水頭症

正常圧水頭症は急性期を過ぎた晩期に見られ、生命予後にはあまり影響しないが機能予後を低下させる。
治療

クモ膜下出血の予後決定要因は再出血と脳血管攣縮、そして血腫や脳浮腫によって脳血流が妨げられることにある。この3つに焦点を絞った治療を行う。脳神経外科の専門病院に搬送し緊急に原因治療を行い、合併症の出現を防ぐ。

一般に、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血が起った場合の治療は重症度によって異なる。重症度の分類としてはHuntとKonsnikの重症度分類が有名である。

脳動脈瘤破裂の場合は発症直後(特に24時間以内)に再出血が多く、安静を保ち、侵襲的処置や検査を避ける。重症でなければ、Grade1-3ならば降圧、鎮静、鎮痛を十分に行い、年齢、全身合併症にて不可能でない限り72時間以内に外科的手術を行う(全身状態が安定すれば早い方がよい)。痙攣対策として早期から抗痙攣薬を投与することもある。動脈瘤破裂の場合はクモ膜下出血の合併症である再出血(14日以内)、遅発性脳血管攣縮(4-14日後)、正常圧水頭症(数か月後)といった合併症の管理も必要となる。

開頭手術の場合は遅発性脳血管攣縮予防のため脳槽ドレナージにて脳槽内血腫を早期除去や、塩酸ファスジルやカルシウム拮抗薬(nimodipine)の全身投与を行う。他にもtriple H療法、塩酸パパベリン選択動注療法、PTAなど各種治療がある。

比較的重症例Grade4ならば脳循環動態の改善が重要であり、頭蓋内圧降下の薬投与、心合併症に注意した全身循環動態の管理が必要である。急性水頭症、脳内出血などを同時に治療することによって状態の改善が見込める場合には積極的に外科的な治療を行う。

最重症例Grade5では原則として再出血予防の適応は乏しい。しかし比較的重症例と同様に症状の改善が見込める特殊な例には再出血予防手術を行う。数か月後におこる正常圧水頭症 (NPH) はVPシャントで治療可能であるため重要である。

感覚遮断

最初の24時間は再出血の危険が極めて高いため、鎮静剤と羞明防止(暗室化)により血圧上昇を防ぐ。
開頭動脈瘤クリッピング術

利点

直視下に動脈瘤が確認できる。

長年にわたる成績が出ており、再破裂のリスクが低い。

血腫が存在する場合一緒に除去できる。


欠点

動脈瘤が嚢状でないと困難。

脳・血管の損傷。

48時間以内に行うのが理想である。ただ出血直後は動脈瘤からの出血が止血していない可能性があるため、最低でも発症から6時間経過した上で開頭する。

この手術で使用されるクリップはチタン製のものが多い。鉄を使用しないのは、MRIが使用できなくなることを避けるためである。また、血管攣縮を防ぐために同時に血腫の除去も行われる。

なお、未治療で発症から1週間程度経った場合は手術を施行することで血管攣縮を発症させる可能性があるため、血管攣縮の可能性が少なくなる時期までは治療しない。
血管内治療

造影下において動脈瘤内にプラチナ製のコイルを詰めて閉塞するコイル塞栓術(脳動脈瘤コイリング術)、血管攣縮に対する血管拡張薬(塩酸パパベリンなど)の動注療法が行われる。近年、治療成績が開頭術を凌駕しつつある[24]が、脳血管疾患の救急搬送体制・集中治療体制の整備による要素もあり、どちらの治療が適しているかは専門医が判断しなければならない。
3H療法

血管攣縮の予防、ならびに脳浮腫の状態でも動脈灌流を維持するため、高血圧(Hypertension)・高循環血液量(Hypervolemic)・血液希釈(Hemodilusion)療法が行われる。具体的には高張輸液の大量投与、時にはアルギン酸アルブミンの投与も行われる。高カロリー輸液などもかつては行われたが、高血糖は予後を低下させる[25](脳の酸素消費亢進、それによるCO2産生の増多→血管原性浮腫の増悪など)ことから下火になりつつある。
その他の治療法

血糖コントロール[26][27]硫酸マグネシウム静注などがあるが、エビデンスを提示するまでには至っていない。
予後

最初の出血で3分の1が死亡する。さらに血管攣縮や再出血の影響が加わり、4週間以内では約半数が死亡するといわれている。また救命できても後遺症が残る例が多く、完全に治癒する確率はクモ膜下出血を起こした人の中で2割と低い。

発症後の予後に関連するものとして、世界脳神経外科学会連盟(WFNS)は意識レベルの程度による重症度分類を提唱している。これはGlasgow Coma Scaleおよび局所神経症状(失語症麻痺など)によって5段階に分類する方法である。この分類においてgrade IIIとgrade IVの間には予後に大きな差があるとされ、特にgrade Vは致死率がほぼ100%であるとまでいわれている。そのため、grade IV以上の場合は無意味であるとして治療しない病院も多い。

重症度GCSスコア主要な局所神経症状
grade I15なし
grade II14-13
grade IIIあり
grade IV12-7不問
grade V6-3

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