前体(prosoma)は先節と直後6節の体節(第1-6体節)を含む合体節である[9]。機能的に頭胸部(cephalothorax)とも呼ばれるが、由来としては頭胸部(頭部と胸部の集合)ではなく、他の節足動物の頭部そのものに該当する頭部融合節である(鋏角類#他の節足動物の頭胸部との違いも参照)[10][11][12][9]。
通常、前体全ての体節は著しく癒合し、背面の外骨格(背板 tergite)は単一の背甲(carapace, prosomal dorsal shield, peltidium)である。ただし、第5-6体節が分節した群もいくつかある[注釈 5][9]。腹面の外骨格、いわゆる腹板(sternite, sternum, 胸板とも)は種類により分節があったりなかったり[注釈 6]するが、腹面がほぼ触肢と脚の基節に占められ、腹板が観察しにくいほど退化した群もある[注釈 7][9]。背甲に備わる眼は通常では中眼と側眼由来の数対の単眼であり、その有無と配置は分類群によって異なる(後述)。
クモの前体(1)、鋏角(C)、触肢(B)と脚(A)
分節した前体と巨大な鋏角をもつヒヨケムシ
サソリのはさみ型の触肢
鎌型の触肢と感覚用の第1脚をもつウデムシ
鋏角、触肢と脚クモの触肢と歩脚の肢節構成(前?節を除く)サソリの歩脚腿節(左)、膝節(右上)と脛節(右下)。膝節に格納され、腿節と脛節に繋がる伸筋が観察できる。
前体は鋏角1対・触肢1対・脚4対という、順に第1-6体節由来の6対の付属肢(関節肢)をもつ[9]。他の鋏角類と同様、大顎類に見られる触角と顎は存在しない[注釈 8][13]。
鋏角(chelicera)は唯一で口の前にある付属肢である。2-3節に分かれ、種類によって鋏状[注釈 9]もしくは牙のような折りたたみナイフ状となる[注釈 10][9]。通常は小さくて目立たないが、強大に発達した例もある[注釈 11][14][9]。クモの鋏角を「上顎」[15]、カニムシの鋏角を「鋏顎」[16]など、分類群により「顎」の名が付くこともあるが、鋏角自体は他の節足動物の顎(第3体節由来の大顎と第4-5体節由来の小顎)とは別器官である[13]。