クジラ
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基本的に、クジラ目を二分するヒゲクジラ亜目の鯨のほとんどは1年のうち1/4は極地で採餌し、残りの3/4の期間は赤道付近で餌を食べずに繁殖を行なうため[21]、例としてシロナガスクジラでは年間に自分の体重の4倍程度しか食事をしないため、見た目のイメージで大食漢と決め付けられるものではないという意見もある[22]。特にヒゲクジラ亜目の鯨は前述のように極地で採餌するため、地球上の半分である南半球では主として、南極海でもっとも豊富なナンキョクオキアミが消費されるが、これは年間数千万トンの余剰資源がある[23] とされる。ほかにもマッコウクジラは主に深海の軟体動物を食べ、ハクジラ亜目の鯨類には深海棲のイカ類に依存するものが多い。他には砂浜のゴカイなどの生き物を捕食するコククジラや鯨類そのものを捕食するシャチなど、80種近いクジラの生態および食性はさまざまであり、また、ナガスクジラ科の鯨種のようにその時期に多い餌生物を食べるため、餌生物も特定のものに限定される訳ではないため[注釈 9]、人間の漁業と間接的にしか競合していない部分も大きい。

科学的に不確かな部分が多いと言う指摘に対して、田村力はオキアミだけを捕食していた種類もあり、不確かな部分も多く、この説は世界に叩き台を提供するためのものであると、それを認めたうえでさらなる調査が必要であるとしている[24]

後述の通り、本説は様々な批判を受けており、2009年6月の国際捕鯨委員会の年次会合において、日本政府代表の代理として参加していた森下丈二(水産庁参事官)は、鯨類による漁獲被害説を実質的に撤回している[25]
批判「捕鯨問題#鯨害獣論」も参照

イギリスの水産大臣(当時)エリオット・モーリーは科学的に不確かな点が多く、鯨の影響も分からないので、商業捕鯨再開の理由たりえないとしている。

かつて鯨類研究所に所属していた粕谷俊雄教授は鯨(特にナガスクジラ科の鯨)は過去にはもっと多く生息していたが魚がいなくなる現象は起きておらず前提に無理がある。漁獲対象にしていない魚類を鯨がどの程度食べているか明確でなく、あくまで仮定に過ぎないとしている[24]。粕谷は、イルカなどの小型鯨類による漁業資源への被害にも懐疑的な意見を示している[26]

研究者の関口雄祐は前述の捕鯨によって生物網を調整し漁業資源を増やす案の現実性について、それは熱帯域から極地に生息するおよそ80種類の鯨類を管理しなければならない、つまり地球上の海洋全体のコントロールが可能でなければできないことであり、現代の科学技術では当面不可能である[27] とみている。

WWFジャパンはこの見解に関しては科学的根拠の不足を指摘している[28]

WWFジャパン自然保護委員の松田横浜国立大学教授は確かに、日本鯨類研究所は鯨が沢山捕食するのを証明しているが、主要な生態学の教科書に引用される「ピーター・ヨッジスの間接効果理論」によれば、食物網の効果で必ずしも捕食が水産資源の減少になるわけではない点が数学論的に立証されており、多数の生態学者からも批判されていると農林水産省の会議で発言している[29]

ミンククジラなどは、その海域に多く生息する魚を食べていると1998年に報告された[30]

イギリスの環境活動家である George Monbiot や国際通貨基金の経済学者等は、クジラがリン鉄分窒素を豊富に含む栄養塩を海面に供給したり死骸が海底に沈むことによって、表層生態系の基礎生産等を支えており、魚類や植物プランクトンの増加や二酸化炭素の抑制や炭素の吸収に貢献していると指摘しており、鯨食害論に対して逆の結論を導いている[31][32]

大久保東海大学海洋学部専任講師は2009年のIWC会合では日本の政府代表団が、鯨による水産資源の減少を決め付けてはいないとした点を踏まえたうえで、前述の関口雄祐の説に連なる、水産庁が目指す鯨類の複数種一括管理は実現可能性が低い事実(既存のRMPを尊重するべきであるとのこと)と仮説にすぎないものを大々的にアピールするのは日本の科学の信頼性を損ねると農林水産省の会議で発言している[33]

FAO水産局長の野村一郎は上記の松田、大久保の指摘する、この説の科学的な信憑性が低い点を踏まえて、捕鯨再開のために鯨による漁業被害をPRするのはむしろイメージ的に良くないのではないかとしている。

AAP通信によると世界自然保護会議においては、この説は科学的証拠が不足しているとする動議に、日本を含めた捕鯨国も署名する予定であったと報道している[34]

アメリカ海洋大気局海洋漁業局北東部漁業科学センターに勤務する Peter Corkeron は、この説を裏付ける科学的証拠が存在しないと述べたうえで、漁獲資源の減少理由としてこの説を持ち出すことで、人間による乱獲という根本的な問題への対処が疎かになるという問題を指摘している[35]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ マグロカジキアオザメなどごく一部の魚類は奇網と呼ばれる組織によって体温海水温よりも高く保つことができる。
^ イルカを含め鯨とした。
^ 「流れ鯨」、「寄り鯨」の意味については捕鯨を参照。
^ ほかに漂着物や水死体などをも同様の信仰対象とした例がある。詳細はえびす参照。
^ 鮎川浜の場合、食用に適さないマッコウクジラが対象鯨種であったことなどから食用とされた鯨肉はごく一部であり、余剰鯨肉が生じていた。これらは当初は海洋投棄されていたが、周辺海面を汚染するとして地元漁民の反発を受けたこともあって工業資源化され成功したものである。
^ 南極のミナミツチクジラやミナミトックリクジラの数はクロミンククジラに匹敵し、食べるイカをオキアミ換算するとクロミンククジラを上回るが、食料資源としての調査自体が行われていない。こういったハクジラ類の数少ない利用例は千葉のツチクジラであり、これは地域的な嗜好によるものであり、特殊な事例である。
^ なお、小松は「常識はウソだらけ」 では「鯨80種は全て食用になる」ともコメントしている[16]


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