クジラ
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これは、1996年当時における世界中の人間の魚の消費量9千万トン[13] の3倍-5倍と計算される[14]。保護されたために増えすぎた鯨によって海洋のバイオマス(生物資源)は減少しており、捕鯨は海洋生物資源の保全に繋がるという意見もある。

クジラの消費するバイオマスの量については、捕鯨に賛成、反対のそれぞれの立場からの説明となってしまうことが多いが、必ずしも捕鯨に賛成、反対の立場からのみ発生した見解が出ると限ることはできない。

試算には、捕鯨対象種以外の種を含んでおり、捕鯨禁止という形で保護されているのは鯨類全80種余りの中の IWC で管理された13種に過ぎない。

世界中の鯨が食べる餌は種類によって異なり、魚やイカの中には漁業と競合しないものや、プランクトンや深海棲のイカなどは、そもそも食用資源に向かないものもあり、直接競合しているのは二割程度である。

人類が利用しにくい資源をより多く利用するため、リン酸資源や鯨油として使用するなど食用に不向きなクジラの利用が推奨されることもある。例えば深海棲のハクジラ類の生息数は南極においてクロミンククジラよりも多いにもかかわらず資源として利用されていない[注釈 6]。だが、深海棲のハクジラであるマッコウクジラ調査捕鯨の対象としても僅か5頭程度しか捕られていないが、これは鯨油の需要が少なく、経済価値がほとんどないからである[15][注釈 7]

といった事実から、捕鯨がどの程度、特にクジラを除く生物資源の管理に役立つのか明確でない点が多く、それを示す研究結果も少ない。

現在の群集生態学によれば、実際の生態系はピラミッド上の単純な食物連鎖ではなく、食物網と呼ばれる網の目のような複雑な関係にあるとする知見が得られてきている[17]。食物網の概念によれば、たとえどの網の箇所でも引っ張れば全体に影響し歪みを与え、それと同様に、乱獲や過剰保護[注釈 8]などの極端な資源運営を行えば、バイオマスのバランスが崩れる要因になる。近年ではEcopath with Ecosimなどの生態系モデル (Ecosystem model) が開発され、日本でもクジラと漁業の競合関係を調べるためにジャルパン2 (JARPN II) と呼ばれる研究が行われており、その目的の一つがクジラを含めたFood webを数値モデル化するための科学的データの提供とされる[18][19]
鯨食害論

日本鯨類研究所の大隅清治と田村力による『世界の海洋における鯨類の食物消費量』を基にしたとされるのが、鯨食害論である。

『世界の海洋における鯨類の食物消費量』が飽くまでも食物網の研究から、漁業と鯨類の捕食の競合を示そうとしているのに対して、こちらの論説では、「鯨が増えすぎると魚類を食い尽くす」という論旨であり、水産庁などが監修した一般書籍には多く見られる。日本捕鯨協会による簡単な説明は以下の通りである[20]。世界中の鯨類が捕食する海洋生物の量は、世界の漁業生産量の3-5倍に上ります。また、日本近海において鯨類が、カタクチイワシサンマスケソウダラなど、漁業の重要魚種を大量に捕食していることが胃内容物調査で明らかになっています。鯨類が大量の魚を捕食していることは事実であり、鯨を間引くことでその分人間が魚を利用できることは間違いありません。実際に、沿岸漁業者などからクジラによる漁業被害に対する苦情が出ており、早急な対策が必要です。
また、クジラは海の食物連鎖の中で最上位の捕食者であり、クジラだけをいたずらに保護することは海洋生態系のバランスを崩すことになります。[20]

基本的に、クジラ目を二分するヒゲクジラ亜目の鯨のほとんどは1年のうち1/4は極地で採餌し、残りの3/4の期間は赤道付近で餌を食べずに繁殖を行なうため[21]、例としてシロナガスクジラでは年間に自分の体重の4倍程度しか食事をしないため、見た目のイメージで大食漢と決め付けられるものではないという意見もある[22]。特にヒゲクジラ亜目の鯨は前述のように極地で採餌するため、地球上の半分である南半球では主として、南極海でもっとも豊富なナンキョクオキアミが消費されるが、これは年間数千万トンの余剰資源がある[23] とされる。ほかにもマッコウクジラは主に深海の軟体動物を食べ、ハクジラ亜目の鯨類には深海棲のイカ類に依存するものが多い。他には砂浜のゴカイなどの生き物を捕食するコククジラや鯨類そのものを捕食するシャチなど、80種近いクジラの生態および食性はさまざまであり、また、ナガスクジラ科の鯨種のようにその時期に多い餌生物を食べるため、餌生物も特定のものに限定される訳ではないため[注釈 9]、人間の漁業と間接的にしか競合していない部分も大きい。

科学的に不確かな部分が多いと言う指摘に対して、田村力はオキアミだけを捕食していた種類もあり、不確かな部分も多く、この説は世界に叩き台を提供するためのものであると、それを認めたうえでさらなる調査が必要であるとしている[24]

後述の通り、本説は様々な批判を受けており、2009年6月の国際捕鯨委員会の年次会合において、日本政府代表の代理として参加していた森下丈二(水産庁参事官)は、鯨類による漁獲被害説を実質的に撤回している[25]
批判「捕鯨問題#鯨害獣論」も参照

イギリスの水産大臣(当時)エリオット・モーリーは科学的に不確かな点が多く、鯨の影響も分からないので、商業捕鯨再開の理由たりえないとしている。

かつて鯨類研究所に所属していた粕谷俊雄教授は鯨(特にナガスクジラ科の鯨)は過去にはもっと多く生息していたが魚がいなくなる現象は起きておらず前提に無理がある。漁獲対象にしていない魚類を鯨がどの程度食べているか明確でなく、あくまで仮定に過ぎないとしている[24]。粕谷は、イルカなどの小型鯨類による漁業資源への被害にも懐疑的な意見を示している[26]

研究者の関口雄祐は前述の捕鯨によって生物網を調整し漁業資源を増やす案の現実性について、それは熱帯域から極地に生息するおよそ80種類の鯨類を管理しなければならない、つまり地球上の海洋全体のコントロールが可能でなければできないことであり、現代の科学技術では当面不可能である[27] とみている。

WWFジャパンはこの見解に関しては科学的根拠の不足を指摘している[28]

WWFジャパン自然保護委員の松田横浜国立大学教授は確かに、日本鯨類研究所は鯨が沢山捕食するのを証明しているが、主要な生態学の教科書に引用される「ピーター・ヨッジスの間接効果理論」によれば、食物網の効果で必ずしも捕食が水産資源の減少になるわけではない点が数学論的に立証されており、多数の生態学者からも批判されていると農林水産省の会議で発言している[29]

ミンククジラなどは、その海域に多く生息する魚を食べていると1998年に報告された[30]


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