クジラ目
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目階級とする分類における2018年時点の標準和名は「鯨目」であり[4]漢字をカタカナで表記した「クジラ目」とすることもある[5]。また、より上位の階級名の慣例として、音読みで「げいもく」とする。「くじらもく」と湯桶読みするようになったのは後世のことである。

日本語の「クジラ」の語源については、大きな口を持つことから古来「口広(クチビロ)」と呼んでいたのが転訛して「クヂラ」となったとする説、体色が黒と白に色分けされていることから来る「黒白(クロシロ)」に由来するという説など、諸説がある。「イサナ」とも呼び、漢字で「勇魚(勇〈イサ〉魚〈ナ〉)」「不知魚」「伊佐魚」などと書き表してもいた。漢字表記の「鯨」は、巨大なと見なされたことに由来し、(つくり)の「京」は大きい桁・数字を表す「」と同源であるとされる[6]。なお、漢字「鯨」については「Wiktionary:鯨」による解説もあり。「クジラ#鯨と言葉」も参照
学名・外国語名

クジラの学名や星座名の Cetus は、「海獣、海の大魚、鯨」を意味するラテン語で、古代ギリシア語: κ?το? (k?tos) からの借入語。なお、ラテン語本来の発音は「ケートゥス」であり、また属名などの構成要素として使われる際の英語の発音は「シータス」である。「ケタス」「セタス」はいずれも日本語独自の慣習読み。

また、本来のラテン語でクジラを意味する balaena はホッキョククジラ属の属名ともなっている。イタリア語 balena、スペイン語 ballena、フランス語 baleine などいずれもこの語に由来する。また、英語で「クジラのひげ」を意味する baleen も同語源である。ちなみに、「ヒゲクジラ」のことを英語では baleen whale という。

英語 whale は、オランダ語の walvis、ドイツ語の Wal、スウェーデン語の val などとともに、ゲルマン祖語 *khwalaz からの発展形である[7]
クジラとイルカ

日本語では、クジラの中でも成体で体長5m程度以下の比較的小型のハクジラの一部をイルカと呼ぶが、生物分類上はクジラとイルカの間に明確な境界は無い[8]。この曖昧さは日本語だけのものではなく、例えば英語では、ヒゲクジラの全てと大型ハクジラ類を Whale(クジラ)、小型のハクジラ類(概して日本語での「イルカ」)をさらに Dolphin(イルカ一般)と Porpoise(ネズミイルカ)の2つに分け、計3種類に区別して呼ばれるが、生物分類上は Whale と Dolphin の境界は明確ではない[9]
生物的特徴
祖先

古生物学の世界では長い間、新生代暁新世から始新世にかけて生息した肉食性有蹄動物メソニクス目 Mesonychia がクジラ類の祖先にあたるとの見方が、伝統的かつ支配的であった。しかし、これに替わって2000年頃からは新たな知見に基づき、原始的な肉食性偶蹄類がそれであるとの見方が有力となっている[10](これに基づけばメソニクス目はクジラ及び偶蹄類と近縁ではあるが姉妹グループであり、クジラの祖先ではないとみなされている)。

始新世初期[11]に、水中生活への依存度を高めていた陸生偶蹄類の一群が、その環境への適応を一段と進めて分化(分岐して進化)していったものであるとの説である。この新たな知見とは、塩基配列の解析など進歩著しい分子系統学からのアプローチや、偶蹄類に近い特徴とクジラ類に固有の特徴を併せ持った距骨を具える四つ足の始原的クジラ類の化石発見からもたらされた形態学由来のものであった[12]。また、分子系統学からは、クジラ類はカバ科姉妹群であるとの指摘がなされている[13]。これを既知の知見と照合すれば、クジラとカバの系統的分化は少なくとも暁新世の後期以前に起こっていたことになる。しかし、その時代からの化石がまだもたらされていない今日では、約5,300万年前(始新世初頭)が実証可能な最古の時代であり、パキケトゥス科をもって最古としている。彼らの段階ではクジラ類はまだ、水に潜って餌を獲ることの多い体長2mほどの四つ足動物でしかなかった[14]。その後、アンブロケトゥス科レミングトノケトゥス科・プロトケトゥス科 Protocetidaeと進化するにつれ徐々に水圏への適応能力を増大させていき、バシロサウルス科になると尾鰭を獲得して完全に水圏適応型となった。ただしこの時点では退化しているとはいえ後肢が残存しており、またいまだに外洋へ進出する能力は持たず、浅海に生息していたと考えられている[15]。その後、漸新世に入ると古鯨類はほぼ絶滅し、代わって現生のヒゲクジラ類とハクジラ類が繁栄するようになった[16]。系統分類についてさらに詳しくは鯨偶蹄目を、進化経緯については古鯨類を参照のこと。
生態

クジラ類は全て水生であって主にに生息するが、カワイルカ類など一部のものは汽水域に生息する[17]。現生動物としては体長や体重が最大のグループを含み、特にシロナガスクジラは動物として史上最大の質量(体重約130t)を誇る。一方で、クジラ目の中で最も小さいのはコガシラネズミイルカであり、体長は約1.5m、体重は50kg程度に過ぎない。魚類イカ類などの頭足類を食べるハクジラ類と、オキアミなどのプランクトンや群集性小魚類を食べるヒゲクジラ類では食性が異なるが、全て広い意味での肉食性である。ハクジラ類は海の生態系の最上位のほか、高位の多くを占め、ヒゲクジラ類も低位消費者の最大種を含む一大グループとして多様な進化に成功したものである。

クジラ類のには耳殻は無く、単なる直径2mm程度の穴であり、耳垢がつまっている。ヒゲクジラでは耳垢の層を数えることにより、ある程度の年齢を推測することができる[18]。これに対し、ハクジラの年齢推測には歯が用いられる[19]。脂肪を蓄え、それによって水分を作ってすごす。汗腺は無い。頭部の背側に呼吸のための噴気孔を有す。噴気孔はヒゲクジラでは2個、ハクジラでは1個である。噴気孔は開閉が可能であり、頭部を水面上に出して噴気孔を開けて空気を吸い、それ以外の潜水する時などは噴気孔を閉じて水の浸入を防ぐ[20]いびきをかくこともある。は固形分が少なく液状に近い。哺乳類であるので恒温動物であり、体温は35-36℃で一定に保たれ[21](へそ)もある。乳首は2つあり、風邪もひく。泳ぐ速度は時速 3kmから50km程度。これまで知られている最高年齢としては、ナガスクジラで114歳、シロナガスクジラで110歳となっており、小型種になるにつれて最高年齢は低くなる傾向にある[22]
分類と系統

鯨類は、古鯨類(ムカシクジラ類)、ハクジラ類ヒゲクジラ類の3つの分類群に大別されるが、古鯨類に属する種は全て絶滅しており、現生はヒゲクジラ小目とハクジラ小目の2小目である。ハクジラ類とヒゲクジラ類は一時単系統性が疑われたこともあるが、単系統ということで決着が着いた。「ハクジラ類・ヒゲクジラ類以外の全て」という形の古鯨類は単系統ではないため[23]、廃したり、いくつかの科を除外したりすることも多い。

ハクジラ類は古鯨類と同様に獲物を捕えるための歯を持っている。また、ハクジラ類は、自分の出した音の反射を利用して獲物や障害物を探る反響定位(エコーロケーション)のための器官、すなわち、上眼窩突起、顔の筋肉、鼻の反響定位器官を発達させていることを特徴とする。イルカ、シャチイッカクなどもハクジラ類に属する。一方、ヒゲクジラ類は、口内にプランクトンやオキアミなどをこし取るための(くし)状の髭(ひげ)板を持つのが特徴で、歯は消失している[24]鯨類の代表的な種
(1.3.6.7.はヒゲクジラ、2.4.5.8.はハクジラ)
1. ホッキョククジラ
2. シャチ
3. セミクジラ
4. マッコウクジラ
5. イッカク
6. シロナガスクジラ
7. ナガスクジラ
8. シロイルカ
分類

鯨類を無肉歯類とともに亜目として類鯨目Ceteに置き、ハクジラ類とヒゲクジラ類を小目として正鯨下目Autocetaにまとめることもあったが、のちに分子系統推定によって鯨類と偶蹄類の類縁関係が認められるようになり、無肉歯類との類縁性は否定されている[25]


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