ギリシャ語
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1833年ギリシャ王国が成立すると、新国王オソン1世とともに故国に帰った官僚は、コイネーを規範とする古典的カサレヴサを標準とすべきと主張した。一方では、口語に基づいた民衆語をギリシア語にするべきだという文学者ディオニシオス・ソロモスの主張[注釈 2]も存在した。

その後、永くフランスのパリで活躍したプシハリスが、民衆口語が通時言語学的に公用語として適切であり、現代ギリシア語は口語によるべきであることを国際的な学者・作家として初めて言語学的根拠をもって主張した。当時行政言語に主流であったカサレヴサは、通時言語学に反した復古的・人工的なもので、公用語でも文学語においても失当である旨を『わが旅』等で文学作品の中で実践してもいる。

しかしその「口語」は、数ある方言のうち「アテネ方言」のみを指称するもので、当時の方言をまとめるには、かつてのコイネーを基盤とするカサレヴサの方が、ギリシア全体の共通語として(方言をまとめるために)より一般化しやすい言語であった[注釈 3]。方言学者はどちらの陣営にも属さず、地域方言をその地域の「口語」として、教育言語に使用することを折衷案として唱えた。エーゲ海サモス島スミルナで女子校の運営にあたったレオンディアス・サッフォーは、学校教育においても方言を推奨し、言語論争に「方言」の重要性を提起した。「カサレヴサ」の長所と、アテネ方言の「デモティキ」との折衷言語よりも「民衆語である方言」の重要性を強調した。

20世紀後半に入ると、首相のエレフテリオス・ヴェニゼロスは新憲法にカサレヴサを公用語にすることを記載した。ただし初等教育については、トリアンダフィリデスの主宰する教育学会が文法書をデモティキで出版し、民衆口語(アテネ方言)化が公的に行われた。やがて、イオアニス・メタクサスの独裁政権の下ではカサレヴサではなくデモティキが正式な国語と制定され、またその後の政変で再度カサレヴサに戻された。1964年ゲオルギオス・パパンドレウ政府がカサレヴサとデモティキとをともに公用語(併用)とするも、軍政下ではカサレヴサが公用語に再度戻された。1974年7月24日の民主政回復を経て、最終的にコンスタンディノス・カラマンリス政府の下、1976年にデモティキが正式な公用語と定められ今に至る。

しかし、司法用語(たとえば民法)は依然カサレヴサのままで存続している。判例などもカサレヴサで起草・公示されており、大学学位論文、公的公報等でも用いられ続けている。このほか、正教会奉神礼用語もカサレヴサが正式な権威ある言語として依然と使用され続け、デモティキと並存しているのが現状である。
現代語話者と古典

「教養ある」現代語話者は古典を解することができる。その背景には古典と現代語の類似性だけでなく、教育が機能していることが挙げられる。『新約聖書』原典や七十人訳聖書に書かれたギリシア語であるコイネーは、現代の話者でも比較的理解しやすい。イギリスの歴史家ロバート・ブラウニングが言ったように「現代ギリシア語の話者にとって、紀元前7世紀に書かれたホメーロスの叙事詩は決して外国文学ではない。ギリシア語は、その最古の時代より現在に至るまで、連綿と受け継がれ、親しまれているのである」[4]
文法概要
文字と発音詳細は「ギリシア文字」を参照

大文字、小文字、現代の音価、慣用(古典期)の呼び名、現代の呼び名(慣用と同じ場合省略)、現代の綴りの順で記載。

Α α=[a](アルファ)?λφα

Β β=[v](ベータ;ヴィタ)β?τα紀元後数百年に [b] から変異。

Γ γ=[?](ガンマ;ガマ)γ?μμα, γ?μα[x] の有声音。ただし前舌母音の直前では [?] と発音される。

Δ δ=[d](デルタ;ゼルタかデルテ)δ?λτα[θ] の有声音。閉鎖音から摩擦音に紀元後数百年に変異。

Ε ε=[e](エプシロン)?ψιλον「単純なε」の意。

Ζ ζ=[z](ゼータ;ズィタ)ζ?τα

Η η=[i](イータ;イタ)?τα後1世紀より [??] から変異。

Θ θ=[θ](シータ;シタかティタ)θ?τα英語の無声 th に同じ。

Ι ι=[i](イオタ;ヨタ)ι?τα, γι?τα母音の直前では硬口蓋化し [j] と発音される。

Κ κ=[k](カッパ;カパ)κ?ππα[i], [e] の直前では [c] と発音される。

Λ λ=[l](ラムダ;ラムザ)λ?μδα, λ?μβδα

Μ μ=[m](ミュー;ミ)μυ

Ν ν=[n](ニュー;ニ)νυ

Ξ ξ=[ks](クシー;クシ)ξι

Ο ο=[o](オミクロン)?μικρον「小さなο」の意。

Π π=[p](ヒー;ピ)πι[m] の直後では [b] と発音される。

Ρ ρ=[r](ロー;ロ)ρω, ρο

Σ σ, ?=[s](シグマ)σ?γμα有声子音の前で [z] と発音される。? は語末のみ。

Τ τ=[t](タウ;タフ)ταυ[n] の直後では [d] と発音される。

Υ υ=[i](ユプシロン;ウプシロン;イプシロン)?ψιλον「単純なυ」の意。後5世紀?10世紀に [y] から変異。

Φ φ=[f](ファイ;フィ)φι紀元後数百年に [p?] から変異。

Χ χ=[x](カイ;キー;ヒ)χι前舌母音の直前では [c] と発音される。紀元後数百年に [k?] から変異。

Ψ ψ=[ps](プサイ;プスィ)ψι, ψ?

Ω ω=[o](オメガ)ωμ?γα「大きなο」の意。

カナ転写と発音の問題

カタカナに現代ギリシア語を転写するとき、θ は主にサ行で表記・発音(θα を「サ」、θι を「シ」など)されている。

同様に、δ は主にザ行で表記されている。

現代ギリシア語では、同じ子音字が2度重ねて綴られても1文字のように発音される(
長子音とならない、ただしキプロスとポントスの方言では長子音は残存している)ので、そこに日本語の「」や「」を使う必要はない。たとえば、τ?σσερα は「テセラ」であり、「テッセラ」とは読まれない。κ?μμαは「コマ」であり、「コンマ」とは読まれない[5]

多くの場合、現代ギリシア語のアクセントは長音記号「ー」で表されているが、ギリシア語のアクセントは強勢を示すものであり、長母音を示さない。たとえば、Μαρ?α は「マリーア」のように伸ばすより「マリア」のように強く読むほうがいい。「マリーア」では、 Μαρ?ια に近くなってしまう。

ただし、テッサロニキのような古来の地名などは古代ギリシア語の発音に則って転写する。
記号

デモティキ(民衆口語)では、いわゆる「トノス(τ?νο?)」の記号類は ? のみにモノトニコス(単強勢)化されている。気息記号の ?(音韻上で無標である有気音 [h] を表す)や ? などは廃され、` や ? などは、? に統合され、有強勢(文法的に有標)の際にのみ記される。またこの強勢記号は語末から3番目の音節のうちに置かれる。カサレヴサでは古典語のテキスト表記に倣った古典式の記号・符号を維持している。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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