ギブソン・レスポール
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1954年に発表された上級機種のカスタムに搭載され、1955年後半から1958年前半のゴールドトップのレスポール及び1958年後半以降のスタンダードにも採用された。細かなオクターブ調整のほかに使用者の好みに合った弦のテンション(張力)微調整もできるようになり、現在も他のギターも含め「定番」として使い続けられている。チューン・O・マチック・ブリッジ本体にはバリエーションがあり、1956年 - 1959年仕様のリテナー・スプリングがない前期型ABR-1と、1960年仕様のリテナー・スプリングが装着された(弦を全て外してもブリッジが脱落しない)後期型ABR-1と、1970年代から採用されているナッシュビル・タイプの3種類が存在する。ちなみにナッシュビル・タイプは前期・後期ABR-1より可変範囲を稼ぐためにABR-1より幅が広くなっている他、前期・後期ABR-1ではブリッジの駒を逆向きに装着することができたがナッシュビル・タイプでは不可能となっている。
ロッキング・トーン・プロ・ブリッジ&ストップ・テイルピース
見た目はチューン・O・マチック・ブリッジ&ストップ・テイルピースと似ているが、ブリッジ、テイルピース共にいもねじが付けられている。弦交換などの際に弦を全て外しても、ブリッジとテイルピースが固定されるようになっている。2008年以降のレスポール・スタンダードに使用されている。

この他、特注モデルでは顧客の注文に応じてビグスビーの各種トレモロ・ユニットが最初から装着される場合もあった。後付け改造モデル特有の標準ブリッジ取り付け穴を埋めた痕跡が無いことで判別可能である。
木材と構造

スタンダード・モデルは、ボディのバックにマホガニー、トップにハード・ロック・メイプル(別名イースタン・メイプル)という2種類の木材を貼り合わせた独特の構造を持つ。メイプル材1/2インチ(12.5mm)とマホガニー材1+3/4インチ(44.5mm)の厚みのバランスはサステイン持続量から決定された。開発途中では更なるサステインを求めたレス・ポールより厚さのバランスを逆にする意見も出たが、重すぎるという理由でギブソン社に却下された。一方、ネックはマホガニーワンピースを基本としながら、材料歩留まりを考慮してヘッド部両端は別ピースが接着されている(通称「耳貼り」)。1976年からの再発モデルにはメイプルネックも一時期存在した。カスタム・モデルやジュニアモデルはマホガニーボディである。初期のゴールドトップモデルでは、表面のメイプル材はランダムな幅の2 - 3ピースであったが、1958年のサンバースト塗装の適用に当たりバイオリン属のボディ裏面に見られるようなブックマッチの2ピースとされた。

ブックマッチを採用するためにはゴールドトップモデルの倍の厚さのメイプル素材が必要となる。それまでは1/2インチ厚に仕上げるために5/8インチ厚の素材を使用していたため、その倍ならば5/4インチという、当時の製材規格外れの厚さになってしまった。これに近い規格製材厚は床材等に使用される4/4インチであったが、切り開き鋸引き代やその後のカンナ代を考慮すると厚さ不足となる。妥協しなかったギブソン社であったが、製材の引き受け業者が中々見つからず、材料入手の困難に直面することとなった。このため、細々としか入荷しないメイプル材はカットロスを極力抑制する必要があり、さまざまな工夫がなされた(ただしメイプル材自体が貴重になった現在とは異なり、5/4インチ厚の板材が入手困難なだけであった点に留意されたい)。

一例として、切り開いた片側の板材のみがシミ、割れ等で不適であった場合でも残った片側の板を保管しておき、色合いが似た材(カラーマッチと呼ばれる)または、木目が似た材(パターンマッチと呼ばれる)を選別して組み合わせて使用された。クレームになりやすい(人間が認識しやすい)のは色の違いであるため、カラーマッチの方が優先された。また、ブックマッチの場合には、切り開いた材を組み合わせる関係上、片側が木表、片側が木裏となるが(木裏の方が若干くすんだ色味になる)、カラーマッチやパターンマッチの場合には、両方の材を木表で揃える(フリッチマッチ)ことも配慮されたため、ブックマッチ材ではない個体の材を総称してフリッチマッチと呼ぶことが多い。
木材の杢目

メイプル材にはフィギュア、もしくは杢(もく)と呼ばれる様々な美しい模様が発生しているものがある。そのような材を持つオリジナルモデルは現在では非常に高価に取引されている。しかし、発売当時は特に注目もされておらず、ギブソン社自体、売りにもしていなかった点が興味深い。これは、フリッチマッチの個体の片側の材のみに杢があるものが少なくないことでも裏付けられている(マッチングの要件として杢は対象外であったことになる)。杢の人気を決定づけたのは、生産打ち切り後10年以上経った70年代当時の洋楽雑誌において、まだ白黒が一般的であったミュージシャンのステージ写真に、半ば実物以上に強く写り込むことで広く認知されたためであり、その後、80年代には異常な人気を博すまでに至る。特にフレイムを始めとした特別な杢目を持った個体は、希少価値のある個体として高価なオリジナルモデルの中でも更に高値で取引されるようになり、現在国内で取引されるオリジナルのスタンダードの価格は2000万円を超えるまでになってしまった。オリジナルのレスポールに現れている杢としては、トラ目、もしくはフレイム(炎)、ピンストライプと呼ばれる縞模様系がほとんどであり、バーズアイやキルトと呼ばれるものはごく稀でしかない(これは、当時使用されていたハード・ロック・メイプル材の杢の傾向でもある)。

レスポール表面はバイオリン属のようなアーチドトップ形状に仕上げられているが、これはメイプル材を削り込んで成型されている。このため折角のブックマッチによる左右対称木目模様はボディセンター部を残して失われてしまう。対称模様の崩れを目立たなくするには柾目の材を選別使用すれば良いわけであるが、先に述べたような材料入手性の悪さからそのような贅沢は出来なかった。板目材のモデルではフリッチマッチとの判別が困難なほど左右の乱れが大きいものも珍しくない。もっとも、板目材も使用されていた別の理由として、マホガニーとのラミネート構造のおかげで板目材に起こりやすい反りの心配がなかったという点もある。

一方で杢の観点から見れば、柾目材の杢は比較的単純なピンストライプが多く、フレイムのような人気の高いものは板目と柾目の中間の板取をされた追柾目材であることがほとんどである。板目材では杢は現れないのが普通であるが、ごく稀に存在する板目の杢は非常に不規則かつ大胆であり、コレクターに珍重されている。また、バーズアイは板目にしか存在しない[注釈 2]。このような杢の個体が存在することになったのも、メイプル材の「倹約励行」がもたらした偶然によるものである。現存するオリジナルレスポールにおけるメイプル材の柾目、追柾目、板目それぞれの存在割合は、一本の丸太を端からスライスして板取していったときに出来る割合とほぼ等しいと言われている。

ちなみに現在では、ヒストリック・コレクションなどの高級モデルには、美しい杢材の入手性が比較的容易なソフト・メイプル(別名ウエスタン・メイプル)が使われている。これはハード・メイプルよりも軽く、軟らかい材なので音色にも影響を与える。
塗装ゴールドトップのレスポールを弾くスティーヴ・ハケット

1952年の発売開始から1957年の中盤までゴールド・トップと呼ばれる金色のメタリック塗装を施されていたが、1958年後期から1960年にかけてはそれまでのソリッドカラーとは一線を画すサンバースト塗装と呼ばれるシースルーフィニッシュが施され、ボディ表面に使用されているハード・ロック・メイプルの木目が見えるようになった。以前のゴールドトップモデルと区別するために、新しいレスポールは「レスポールスタンダード」と呼ばれた。

サンバースト塗装を略してバースト塗装、もしくは単にバーストと呼ぶ場合もあるが、1958年-1960年のオリジナルレスポールスタンダードを指す愛称もバーストと呼ばれる。

スタンダードモデルの当初のサンバーストカラーは、下地として黄色塗装したボディに、アメリカンチェリーのような赤紫が、外縁から中央にかけて薄くなっていくグラデーションを掛けたものであった。チェリーレッドの塗装範囲は広く、ブックマッチの左右対称木目模様が崩れる部分をほとんど塗りつぶし目立たなくするよう工夫されていた。

下地の黄色は顔料系でありながら、木目を隠さない透過性を持つものが選ばれた。その上に塗られたチェリーレッドは、染料系の赤色と微量の濃紺色のブレンド塗料であったが、一般的な染料系塗料の例に漏れず、経年変化により褪色した。特に目立つわけでも無く注目もされていなかった杢が、褪色により美しく浮き出して見えるようになったのは、偶然の自然現象の積み重ねの結果によるものであった。

チェリーレッド塗膜の中では、特に赤色成分の褪色が早く、遅れて褪色する紺色成分や褪色しない下地の黄色層とのカラーバランスが変化して、表面ラッカー塗装の色焼けも加わり、紅茶のような茶色に見える変色をする場合が多かった(通称ティーバースト)。さらに褪色が進むと紺色成分も褪せていき、バースト塗装が辛うじて残っている状態(通称ハニーバースト)を経由して、最終的にはバースト塗装は完全に褪色する。この場合、顔料系であるため全く褪色しない下地の黄色層とアメ色に色焼けしたラッカー層の色のみが残ったオレンジ色(通称レモンドロップ)の状態に落ち着く。褪色のコンディションによっては、ティーバースト段階の後に、ごく稀に、赤色成分のみが先に完全に褪色することで外縁部が緑に見える通称グリーンバーストと呼ばれる状態になることもある。一方、メイプル材をブックマッチに切り開いた際、面の端の方にシミなどがあった場合、それがボデー外縁部になるようにブックマッチした上で、シミが目立たなくなるように通常のチェリーレッドよりも紺色成分を多くした暗い色を濃く塗装して誤魔化したモデルもあった(材の項目にある通り、メイプル材のカットロスを極力減らす必要があったからである)。これは、その後の褪色で外縁部が通称ダークバーストやタバコバーストと呼ばれる焦げ茶色となり、中には隠そうとしたシミが褪色で再び透けて見えている個体も存在する。

このチェリーレッドの褪色はバースト販売後1年程度という早い段階から発生し始め、顧客からのクレームにもなったため、1960年のモデル末期にはチェリー塗装も褪色しない顔料系に変更された。顔料系では塗料を混ぜるほど色が濁ってしまうため、単色の赤が選ばれた。顔料系ながら下地層の黄色同様に透過性があるため、若干オレンジがかって見える。これは今では通称60年チェリー、もしくはタンジェリンレッドと呼ばれ、現在でもほとんど褪色していない。1960年モデルはネックが薄くなったことでサウンド的にも59年までのモデルと異なるため、カラー、サウンドともに1958年、1959年よりは人気は低めであり、レプリカの対象とされることは少ない(それでもオリジナルの1960年モデルであれば超高額であることに変わりはない)。

表面ラッカー層は登場から現在まで一貫してニトロセルロースが使われている。経年変化については、一般的な「色焼け」と呼ばれる現象の他に、使用・保管状況によりニトロセルロースラッカー特有の現象である塗膜の細かなひび割れ(ウェザーチェック)が発生しているものがある。

この他、当時から特注モデルとして、白や黒のソリッドカラー、もしくはチェリーレッド単色のモデルが製作された。また、近年のアーティストモデルでは、演奏家の趣味に合わせた様々な塗装が採用されている。

一方、ボディ裏面やネックといったマホガニー材部分は、赤系の目止めを施した後に、表面と同じ染料系チェリーレッド塗装が施されている。こちらも経年変化により褪色し、茶色みを帯びた後に完全に消え、マホガニー材の材色に戻ってしまう。ただしマホガニー材自体が赤いため表面ほど褪色度合は目立たない。オリジナルモデルの裏面で興味の対象とされるのは、褪色ではなくベルトバックル傷と呼ばれる塗装の剥がれ位置である。ギターを高い位置に構えるジャズ系ミュージシャンのステージが主な活躍舞台であった場合、バックル傷は高音弦側になり、ハードロック系のそれはギターを低い位置に構えた結果、低音弦側の、それもボディ端になるといった具合に、そのギターが辿ってきた歴史が文字通り「刻まれて」いることが多い。
レスポールの歴史
オリジナル・レスポールの登場から生産中止

前述のように、レスポールは1952年に登場し、ブリッジ及びピックアップ、塗装の仕様変更を経て、1958年にその仕様が完成された。この1958-1960年製のサンバースト・モデルは現在では、エレクトリック・ギターの中でも最も高額な数千万円で取引されている個体群であるが、まだロックンロールが誕生して間もなかった発売当時の音楽シーンにおいては、サウンドにパワーがありすぎてコントロールしづらく、重量も重いということで、一般的な人気を得るには至らなかった。この結果、このオリジナルのサンバースト仕様は約1,400本製作された程度で製造中止となった。[注釈 3]
SGシェイプへのモデルチェンジ1962 Les Paul Standard (SG Standard)

1960年、ギブソンは、レスポールよりはるかに軽量なFender社のダブルカッタウェイデザインのStratocasterとの競争により、エレキギターの販売が減少した。


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