キログラム
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すべての質量変化はIPKに対する相対変化であり、1889年時点でのIPKに対する偏差を0としている[8]。上記はすべて相対的測定結果であり、どの原器がもっとも環境変動に対して安定していたかを示す歴史的な測定結果というものは存在しない。どの原器も100年以上の間に質量が増大し、その中ではK21・K35・K40およびIPKが相対的に増加量が少なかったという可能性が高い。

1875年メートル条約に基づき、1889年にキログラムは新しい国際キログラム原器 (IPK: International Prototype Kilogram) の質量と定義された。これは、1879年に作成された3つの原器のうちの1つである。測定の結果、以前のアルシーヴ原器と当時の技術では質量差が認められなかったものであるが、1889年の第1回国際度量衡総会の決定により、この国際キログラム原器がキログラムの定義に使用されることとなった[9]

国際キログラム原器は直径・高さともに約39 mm円柱形の、プラチナ(白金)90 %、イリジウム10 %からなる合金製の金属塊である[10][11][6]フランスパリ郊外セーヴル国際度量衡局(BIPM)に、2重の気密容器で真空中に保護された状態で保管されている[12]
キログラム原器の複製

上記1889年の第1回国際度量衡総会において、世界各国で用いる標準原器として各国に国際キログラム原器の複製を配布することが決定された[13]。当初40個の複製が作られて各国に配布・保管されている。これらの原器は約40年ごとに特殊な天秤を用いて国際キログラム原器と比較されることになっている[14]
日本国キログラム原器

日本は1885年にメートル条約へ加盟したため[15]、日本にも標準原器が配布されることとなった。その後、1889年に作成された複製のうちNo.6が日本に割り当てられ、1890年に到着した[15]。日本国内ではこのNo.6を「日本国キログラム原器」としてキログラムの基準に使用している。なお、No.30とNo.39も副原器として日本に配布されたが、No.39は1947年に連合軍軍政期の朝鮮(現在の大韓民国)に譲渡したため、1963年にNo.E59を新造し、実験用原器として使用している[16]。2009年9月には、BIPMから原器No.94を新規に購入した[17]。副原器を含めた以上の4器は茨城県つくば市独立行政法人産業技術総合研究所に保管されている。1991年時点における日本国キログラム原器(No.6)の質量は、1 kg + 0.176 mg(つまり、国際キログラム原器より176 μg だけ重い) であった[18][19]。2022年に重要文化財に指定[20]
キログラム原器の不安定性

国際キログラム原器の質量は、表面吸着などの影響により年々増加しており、その量は洗浄直後の急速な汚染の他、年に1 μg程度と見られている[19]。1988年?1992年の第3回各国キログラム原器の定期校正に際して、42年ぶりに国際キログラム原器の洗浄が行われたが、これにより国際キログラム原器の質量は約50 μg減少した(50 μg は、ちょうど指紋1個に含まれる皮脂の質量に相当する[21])。これは1 kgの5×10?8倍に当たるので、国際キログラム原器による定義の精度は8桁程度ということになる。質量の定義をより明確にするため、質量単位「キログラム」は「洗浄直後の国際キログラム原器の質量値」として解釈されることになった[19]

2007年9月、国際キログラム原器が50 μg軽くなっているという報道が一部でなされた[12]。しかし、これは同原器が突然50 μg軽くなったことを意味するわけではない。上記のように原器は経年で徐々に質量を増すことが知られているが、BIPMの解説によると、1889年からの間に他の複数の複製と比較して、質量変動が約50 μg少なかったということだという[22]
プランク定数による定義「SI基本単位の再定義 (2019年)」も参照

他のSI基本単位は「普遍的な物理量」に基づく定義に改められてきたのに対し、キログラムだけがいまだ「人工物に依存」する単位として残っていた。人工物による定義では、経年変化により値が変化し、また、焼損や紛失のおそれもある。このため1970年代から、普遍的な物理量によるキログラムの定義が検討されてきた。2011年10月21日に国際度量衡総会において、キログラム原器による基準を廃止し、新しい定義を設けることが決議された[23][24]。この決議を実現するために、キログラムをプランク定数 h によって定義することが2013年12月に提案された。これはプランク定数がもはや実験値ではなく、定義定数となることを意味する。この提案は、SI文書の第9版の1章〜3章の改訂(案)の一部として提案された[25]。 h = 6.626 069 57 × 10 − 34 J s {\displaystyle h=6.626\,069\,57\times 10^{-34}\,\mathrm {J\,s} }  (採用されなかった定義値)

これまではIPKの不確かさはゼロで、プランク定数に 4.4×10?8 の不確かさがあった(2013年当時)のに対して、この新しいキログラムの定義では、プランク定数の不確かさはゼロになり、逆にIPKに4.4×10?8の不確かさがあることになる[26]

プランク定数に基づく定義では、静止エネルギーと質量の関係式 E = mc2 を用いて、ある振動数 ν の光子のエネルギー (E = hν) と等しい静止エネルギーを持つ物体の質量を1キログラムと定義する。すなわち、キログラムは周波数が {(299792458)2/6.62606957}× 1034 ヘルツ光子エネルギーに等価な質量である[27]

この2013年12月の提案は、アンペア (A)、ケルビン (K)、モル (mol) の再定義と併せて、2014年の第25回国際度量衡総会 (CGPM) で決議することが予定されていた[28]。しかし、2014年11月18日 ? 20日に開催されたCGPMでは、プランク定数の精度が十分でないことなどにより上記の定義への変更はなされず、次の2018年開催予定の第26回CGPMに向けて定義変更のための諸課題を解決すべし、との決議が採択された[29][30][31]
プランク定数による定義の提案

プランク定数の新たな定義値は、2015年から2017年にかけて報告された、8つの実験値に基づいて決定された[32]。そのうちの4つは、ワット天秤を用いて直接測定されたものである。残りの4つは、アボガドロ定数から間接的に得られたものである。

CIPMはキログラムの定義の変更をCGPMの決議案として提出し、この決議案は2018年11月16日にCGPMによって決議・承認された[33]

なお、キログラムと共に、アンペアケルビンモルの定義も大きく変更されたものが決議されたが、これらの変更も併せ、2019年5月20日に施行された[34][35]
過去の様々な提案

それまでの定義に変わる新しい定義の候補として、アボガドロ定数などを用いた各種の提案があった。

アボガドロ定数に基づく定義は、一定個数のケイ素(Si)原子の質量をキログラムとするという原子質量標準である。アボガドロ定数の値をより正確に求めることができれば、そこからケイ素1 kgに含まれるケイ素原子の数を決定することができる。ケイ素が不純物を含まない単結晶を作りやすいために採用された。アボガドロ定数を精密測定する国際プロジェクトが2004年に立ち上がり、各国の研究機関でケイ素を用いてアボガドロ定数の不確かさを少しでも小さくするための研究が行われた[36]2010年時点でのアボガドロ定数の値NA = 6.022 141 29(27) × 1023 mol?1


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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