キログラム
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プランク定数による定義「SI基本単位の再定義 (2019年)」も参照

他のSI基本単位は「普遍的な物理量」に基づく定義に改められてきたのに対し、キログラムだけがいまだ「人工物に依存」する単位として残っていた。人工物による定義では、経年変化により値が変化し、また、焼損や紛失のおそれもある。このため1970年代から、普遍的な物理量によるキログラムの定義が検討されてきた。2011年10月21日に国際度量衡総会において、キログラム原器による基準を廃止し、新しい定義を設けることが決議された[23][24]。この決議を実現するために、キログラムをプランク定数 h によって定義することが2013年12月に提案された。これはプランク定数がもはや実験値ではなく、定義定数となることを意味する。この提案は、SI文書の第9版の1章〜3章の改訂(案)の一部として提案された[25]。 h = 6.626 069 57 × 10 − 34 J s {\displaystyle h=6.626\,069\,57\times 10^{-34}\,\mathrm {J\,s} }  (採用されなかった定義値)

これまではIPKの不確かさはゼロで、プランク定数に 4.4×10?8 の不確かさがあった(2013年当時)のに対して、この新しいキログラムの定義では、プランク定数の不確かさはゼロになり、逆にIPKに4.4×10?8の不確かさがあることになる[26]

プランク定数に基づく定義では、静止エネルギーと質量の関係式 E = mc2 を用いて、ある振動数 ν の光子のエネルギー (E = hν) と等しい静止エネルギーを持つ物体の質量を1キログラムと定義する。すなわち、キログラムは周波数が {(299792458)2/6.62606957}× 1034 ヘルツ光子エネルギーに等価な質量である[27]

この2013年12月の提案は、アンペア (A)、ケルビン (K)、モル (mol) の再定義と併せて、2014年の第25回国際度量衡総会 (CGPM) で決議することが予定されていた[28]。しかし、2014年11月18日 ? 20日に開催されたCGPMでは、プランク定数の精度が十分でないことなどにより上記の定義への変更はなされず、次の2018年開催予定の第26回CGPMに向けて定義変更のための諸課題を解決すべし、との決議が採択された[29][30][31]
プランク定数による定義の提案

プランク定数の新たな定義値は、2015年から2017年にかけて報告された、8つの実験値に基づいて決定された[32]。そのうちの4つは、ワット天秤を用いて直接測定されたものである。残りの4つは、アボガドロ定数から間接的に得られたものである。

CIPMはキログラムの定義の変更をCGPMの決議案として提出し、この決議案は2018年11月16日にCGPMによって決議・承認された[33]

なお、キログラムと共に、アンペアケルビンモルの定義も大きく変更されたものが決議されたが、これらの変更も併せ、2019年5月20日に施行された[34][35]
過去の様々な提案

それまでの定義に変わる新しい定義の候補として、アボガドロ定数などを用いた各種の提案があった。

アボガドロ定数に基づく定義は、一定個数のケイ素(Si)原子の質量をキログラムとするという原子質量標準である。アボガドロ定数の値をより正確に求めることができれば、そこからケイ素1 kgに含まれるケイ素原子の数を決定することができる。ケイ素が不純物を含まない単結晶を作りやすいために採用された。アボガドロ定数を精密測定する国際プロジェクトが2004年に立ち上がり、各国の研究機関でケイ素を用いてアボガドロ定数の不確かさを少しでも小さくするための研究が行われた[36]2010年時点でのアボガドロ定数の値NA = 6.022 141 29(27) × 1023 mol?1

CODATA2010年推奨値。括弧内は標準不確かさ)には、プランク定数と同じく、8桁目に不確かさがあった。アボガドロ定数はモルプランク定数を介してプランク定数と結びついているので、精度の点から見ればキログラムの定義にどちらを採用しても変わりはない[37]。実際、プランク定数の定義値の基になった8つの実験値のうち、4つはケイ素単結晶を用いたアボガドロ定数の測定実験から得られたものである。キログラムの定義にプランク定数が使用されたのは、その方が電気標準において利便性が高いからである[32]。なお、アボガドロ定数はモルの定義に使われることとなった。

他には以下のような提案があった。

超伝導コイルで発生する磁場で超伝導体を浮揚することによってキログラムと電気量とを関連づけ、コイルに流れる電流により定義する。

ジョセフソン定数 (KJ = 4.83597870(11)×1014 Hz/V) とフォン・クリッツィング定数 (RK = 2.58128074434(84)×104 Ω) を用いて定義する[38]。すなわち、真空中に1メートルの間隔で平行に置かれた無限に小さい円形の断面を有する無限に長い2本の直線状導体のそれぞれに、1秒あたり 6.24150962915265×1018 の電荷による直流の電流が流れるとき、導体に 2×10?7 m/s2 の加速度が生じたときの、その導体の1メートル当たりの質量を1キログラムと定義する。

の原子を蓄積し、それを中性化するのに必要な電流によって定義する。

国際キログラム原器(IPK)の質量の不確かさ

キログラムの定義が変更されたことにより、国際キログラム原器(IPK)の質量には10 μgの不確かさがあることとなった[39]。また、各国に配布されているキログラム原器の質量には、BIPMによるキャリブレーション証明書(2019年5月20日以前に発行されたもの)に記載されている不確かさの数値に10 μgを加えた不確かさがあることとされた[40]

その後、2020年12月に上記の見積り値は見直されており、2021年2月1日からは国際キログラム原器の質量は、1 kg?2 μg であり、その標準不確かさは 20 μg とすることが質量標準供給の国際基準値「合意値(Consensus value)」となった[41]。すなわち、

IPKの質量 = 0.999999998(20) kg

である。
グラムとキログラム

グラム(英語: gram, 仏語: gramme, 記号: g)は質量の単位であり、SIにおいては「キログラムの1000分の1 (10?3 kg) 」と定義されている。「キログラム」は、明らかにグラムにSI接頭語キロ (kilo-) を付けたものである。しかし、SIにおいては、グラムではなくキログラムが基本単位となっており、グラムはその分量単位の一つとされている。

グラムではなくキログラムがSI基本単位とされたのは、以下のような経緯があるからである。

フランスにおいて1789年の革命が勃発した後、国王ルイ16世は新しい時代の度量衡単位の策定を、アントワーヌ・ラヴォアジエニコラ・ド・コンドルセピエール=シモン・ラプラスジャン=シャルル・ド・ボルダアドリアン=マリ・ルジャンドルなど主に科学者達で構成された委員会に委嘱した[42]。その委員会において、質量単位のモデルとして1メートルの10分の1(= 10 cm)で構成された立方体の升に入った水の質量、すなわち1リットルの大気圧下で氷の溶けつつある温度(0度)における水について、grave(グラーブ、記号G)と名称が与えられた質量単位を標準とすることが提案された[43]。その語源は gravity(重力)から由来したものである。

当初は、この grave(グラーブ、グラーヴ)を質量の基本単位とした原器が作られる予定であった。またこれを元として、1 grave の1000分の1を別の質量単位名で、仏語 gramme(グラム)ないし gravet(グラベト、グラヴェト)、また1 grave の1000倍を別の質量単位名を用いて tonne(トン)ないし bar(バー)と称するように名称が考案されたりもした。そしてやがて来るフランス革命の波に襲われ、科学者達の研究は途中で中断するが、その後、新しい革命政府が樹立されると再びメートル法が注目されるようになった。しかしそのフランス革命の後、質量の単位は大きな転機を迎えることとなる。

1795年の(暫定)メートル法制定当初、革命後の共和政府が当初の質量の基本単位を grave から、その1000分の1を表す gramme へと変更したのである。理由は諸説あるが、有力な説の一つとして、1 grave という大きさの質量が当時、メートル法以前の昔から使われてきたいくつかの質量の旧単位と比較しても、大きな単位であるということがある。そのためフランスの科学者達は、グラーブは日常的に使う質量単位としては大きすぎるであろうと危惧し、フランス共和政府と共に、質量の基本単位は1グラーブの1000分の1である「1グラムを質量の基本単位とすべき」と決定したという説があるが、真相は定かではない。

しかし、質量の基本単位を1グラムとすると非常に使い勝手が悪く、とりわけ1グラムを定義した、(1円硬貨ほどの大きさを持つ)原器を作るにはあまりにも小さすぎた。


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