キラキラネーム
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ただし庶民に関して言えば、江戸時代宗門人別改帳によれば当時の大多数の百姓・町民女性の名前はひらがな二文字(「たね」「きく」「みえ」「くに」「かつ」「はな」「ふみ」など)であり、漢字名ですらなかった(ただし漢字二文字の珍しい名前も中には存在した)[22]。こうした歴史から分かるように、一般女性の名前としての「○子」は、珍しい新鮮な名前として明治以降に登場し、昭和期までに一般化したものである。ただし、それ以前からも皇族や大名の娘などには普遍的・一般的に用いられていたため、現代のキラキラネームとは事情が異なる。

鉄道の分野では第三セクター鉄道など奇抜な命名が多いが、これもキラキラネーム(キラキラ駅名)と呼ばれることがある。もともと地方都市の観光路線が中心であったが各地に増加し、高輪ゲートウェイ駅の命名では大きな騒動となった[23][24]
議論

キラキラネームとされる名前には一定の言語的特徴があるとする議論がある[25]一方、京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センターの安岡孝一は、この論文には不備があると述べている[26]。とはいえ、インターネットなどで流布した珍しい名前には、多くの人が想像だけで言っているものも含まれており、すべてが実在するとは限らない[注 1]。このほか、人間でなくペットとして飼育するなどに対して、一見しただけでは読みが難しい名前をつけること(「空如亜」と書いて「アショア」と読むなど)が、「キラキラネーム」と呼ばれることもある[29]

東進ハイスクール・東進衛星予備校現代文科講師の林修は、キラキラネームについて「漢字本来の読み方を無視した、読み方の想像ができない名前は固有名詞としての役割を果たしていない」と指摘し、キラキラネームと学力の低さはある程度相関性があると主張している[30]。また、一般的な名前に比べて奇抜な名前が呈示された時、元々の見た目のリーダーシップ性の程度に関わらず、リーダーシップ性は低く評価されたとする実験結果があり、近年のいわゆるキラキラネームは社会性評価において付加価値とならず、外見に関わらず非好意的な印象を生むという指摘がある[31]

言語純化論からは、漢字自体が漢民族の文字であり日本人の名に適切でないと論じられている[32]
一般的でない名前と法・行政

この節では「DQNネーム」や「キラキラネーム」とは直接関係なく、一般的でない名前の認可にかかわる法制度・司法判断について述べる。

日本の戸籍法第50条[注 2]、戸籍法施行規則第60条[注 3]の規定に基づき、常用漢字[35]、平仮名、片仮名を用いることができるほか、常用漢字以外で認められる人名用漢字は同規則 別表第二で具体的に定められている[36][37]。ただし、戸籍には氏名の読み方までは登録されないため、使用可能な漢字を用いる限り(名前が漢字である場合)、戸籍上の氏名をどのような読みにするかについての法的制限は基本的にない[注 4]。ただし、出生届が受理されない場合もあり、その点をめぐっての判例がある。たとえば、親と同一の名前を子につけようとしたケースでは、名古屋高等裁判所が「難解、卑猥、使用の著しい不便、特定(識別)の困難などの名は命名することができない」として出生届の不受理を支持した[39]。また、一般的に悪の印象がある名前でいったん受理された出生届法務省が無効にしたケースでは、東京家庭裁判所八王子支部が「社会通念に照らして明白に不適当な名や、一般の常識から著しく逸脱したと思われる名は、戸籍法上使用を許されない場合がある」としたものの、「受理された出生届を抹消することは許されない」と判断した[40]

しかし、珍奇な名前を付けられた子供が社会生活上不利益を被る(笑われる・いじめられる・就職活動の際に不利な扱いを受けるなど)ことがあるのも事実であり、このような場合には最寄りの家庭裁判所に名の変更届を提出し、許可を得ることによって改名をすることができる。この点については、名古屋高等裁判所も先述の判決において、「親権者がほしいままに個人的な好みを入れて恣意的に命名するのは不当で、子供が成長して誇りに思える名をつけるべき」という見解を示しており[39]、これに違反するような命名をされた子供は家庭裁判所で改名を認められる可能性が高いと言える。2019年(平成31年)3月5日に甲府家庭裁判所で変更を認められた高校生は、15歳になれば親の同意がなくても本人の意思で家庭裁判所に改名を申請できることから、「もし、名前で苦しんでいるのなら、勇気を出して行動してほしいです。改名することで人生が変わるかもしれません」と訴えている[41][42]

2023年6月の改正戸籍法成立により、施行される2024年からは戸籍の読み仮名が必須となり、漢字本来の読み方と異なる名前は「氏名に用いる文字の読み方として一般に認められているもの」との基準が設けられた[43]
日本国外

キリスト教圏では伝統的に天使マイケルなど)、聖人パウロなど)、預言者モーセなど)に由来する名前が使われていたが、一般的でない名前についての法的規制が無い国が大多数であり、近年では多様化している[44][45]イスラム教圏でも天使や預言者の他、アッラーフの99の美名アブドゥルを組み合わせ「アッラーフのしもべ」とする名前が多い。

名前に規制がある国では、地域の習慣、実用上の理由、子供の人権などを理由としている。

フランスではナポレオン法典によって子供につけられる名前が聖人や歴史上の著名人などに限定されたことで同姓同名が増加した。規制がある中で独自性を持たせるためジャン=ポール(Jean-Paul)やジャン=リュック(Jean-Luc)など、合法な名前の2語からなるファーストネームが考案され、後に一般化した。1966年には異なる綴りや外国風の名前も認められるようになり、1993年にはほぼ撤廃されたが、商品名を使うなど極端な命名に関しては司法当局が却下することがある[46]

称号と紛らわしい名前に規制がある国もあり、ニュージーランドでは「プリンセス」など公的な称号や階級を示唆する名前が禁止され、ほかにも77件却下されている[47][48]

子供の人権を理由とする事例では、メキシコ北部ソノラ州の州法で子供をいじめから守るためとして、「ヒトラー」など侮辱的・差別的で意味が欠如している61個の名前が禁止されている[49][50]

ベトナムでは2020年7月16日に国民の名前に関する新たな規定が制定され、銀行口座が作れないほど長すぎたり、国・民族の慣習に合わない名前を事実上禁止された[51]。ベトナムの地元紙によると、「スイス時計」や「同性愛」と読める名前が実在するという[51]

スウェーデンでは命名への政府介入を定めた法律があり「スーパーマン」などの名前が不承認とされたこともあったが、命名規制そのものに反対する声もあり、裁判で政府判断が不当だとして命名が認められたケースもある[52]

韓国では1997年に発生した「パク・チョロンチョロンビンナリちゃん誘拐殺人事件」(ko:??? ?? ?? ??)の被害者の少女の奇抜な名前が世間の関心を呼んだため[53]、これ以降、ハングル5文字以上の名前や漢字語固有語の混合名は戸籍に登録できなくなっている[54]。また、普通の名前でもと繋げると名詞三字熟語と同じ表記になるケースがあり、「強盗犯」「迫撃砲」「アタック」「指揮官」などとハングル表記が一致する名前も存在する[55][56]


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