キャス・サンスティーン
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サンスティーンの研究の多くは、法学に行動経済学を結びつけたもので、「合理的行為者」モデルは、法的介入に人々がどう反応するかについて、不適切な理解を導くことがある、と示唆している。

近年サンスティーンは、特にダニエル・カーネマンリチャード・セイラー、クリスティーン・M・ジョルス(英語版)などの行動経済学の訓練を受けた研究者と共同で、人々が実際にどのように行動するかに関する新たな実証結果に基づいて、法と経済学の理論上の前提を修正する方法を示した。

サンスティーンによれば、連邦法の解釈は、裁判官ではなく、合衆国大統領およびその周囲の人間の信念と責任において行われるべきであるという。「法的な曖昧さに直面したときに、連邦法の意味が連邦判事の性格や意向によって解決されるべき理由はない。結果はむしろ、大統領およびその下で働く人たちの責任と信念によって決まるべきである」と、サンスティーンは主張している。[15]

サンスティーンは(共著者リチャード・セイラーとともに)、リバタリアン・パターナリズム(英語版)の理論を作り上げた。彼はこの理論を主張する際に、思想家/学者/政治家に対し、行動経済学の知見を受け入れて、それを法律に適用し、選択の自由を維持しつつ、人々の決断を彼ら自身の人生をより幸福にする方向に導くことを勧めている。サンスティーンはセイラーとともに、「選択アーキテクト(英語版)」という新語を生み出した。
軍事査問委員会

2002年、ブッシュが議会の承認を受けずに軍事査問委員会を設置したことに関する論争が頂点に達したとき、サンスティーンはわざわざ前に出て、「現行法の下では、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、軍事査問委員会を利用する法的権限を持つ」「ブッシュ大統領の選択は、しっかりした法的根拠に基づいている」と強く主張した。そして、ブッシュの軍事査問委員会には法的根拠がないことが最高裁で明らかになるだろう、と主張した法学教授ジョージ・P・フレッチャーを「ばかばかしい」と嘲った。[16]
憲法修正第1条

サンスティーンは著書「Democracy and the Problem of Free Speech(民主主義と言論の自由の問題)」の中で、合衆国憲法修正第1条を再定式化する必要があると主張した。ホームズ判事の「言論の自由市場」の概念をベースにした現在の定式化は、「アメリカの建国文書の起草者たちの意思に逆行している」とサンスティーンは考えている。[17]この改革の目的は、「社会問題に対するより高い関心と、より多様な意見を保証することにより、民主的熟議の過程を活性化させることである」という。[18]サンスティーンは、現在の「同じような意見の人の間だけで会話が行われる状況」を懸念しており[19]、「経済・技術の驚くべき変化に照らすと、現在の解釈の下での憲法による言論の自由の保証が、民主主義の目標に正しく貢献しているかどうかを疑う必要がある」と考えている。[20]そして、「言論の自由が政治的熟議や市民権の促進に果たす役割にこだわった、ブランダイス判事にあやかって『言論のニューディール』」を提案している。[18]
動物の権利

サンスティーンの研究の中には、動物の権利の問題を扱ったものもある。彼はこの主題を扱った本を共同執筆しているし、論文も書いている。ハーバード大学で行われた「Facing Animals」というイベントに招待されて講演もしている。このイベントは、動物の倫理や法に関する画期的な討論会である、と記されている。[21]「合理的な人はだれもが動物の権利を信じています」とサンスティーンは言っている。「単なる規制だけでは実際的に不十分であり、かつ、単なる規制だけでは実際的に動物の苦痛の程度を和らげることができない場合、私たちはある種の慣習を擁護することはできないし、認めるべきではない、と結論せざるを得ないかもしれません。」[22]

サンスティーンの動物の権利に関する主張は、オバマによる情報・規制問題局の指名をサクスビー・チャンブリス上院議員(共和党・ジョージア州)が阻止しようとしたときにも、議論の的となった。チャンブリスが反発したのは、サンスティーンと彼の当時の恋人だったマーサ・ヌスバウムが編集した「動物の権利(Animal Rights: Current Debates and New Directions)」の「序章」である。この「序章」の11ページ、動物が人間の所有物だと考えるべきかどうかの哲学的議論において、サンスティーンは、「動物に、虐待や残虐からのさまざまな法的保護や、訴訟のための法的地位を与えるために、人間としての地位は必要ない」と指摘している。たとえば、現行法の下では、近所の人が犬を叩いているのを目撃した者には、訴訟を起こすための法的地位がないので、動物虐待を訴えることができない。サンスティーンは、動物に当事者適格性を認め、第三者による起訴を認めることで、動物虐待が罰せされる可能性を高め、動物に対する残虐行為を減らすことができる、と示唆している。
納税

「私たちは、納税の日をお祝いすべきだ」と、サンスティーンは言っている。[23]政府は(警察、消防署、預金保険に加入した銀行、裁判所などの形で)財産・自由を保護・維持しているので、個人は喜んで税金で資金を提供すべきだ、とサンスティーンは主張している。

私たちのポケットや銀行口座にあるお金は、どのような意味で完全に「自分のもの」であると言えるだろうか。それは、自分たちの自律的な努力だけで稼げただろうか。遺言検認裁判所の支援なしで相続できただろうか。銀行規制当局の支援なしで貯金できるだろうか。私たちの生活する共同体の活動を調整して、リソースをするプールする公務員がいなかったら、そのお金を消費できただろうか。税金がなければ自由もない。税金がなければ財産もない。税金がなければ、ほとんどの人が守るべき資産を持つこともできない。公共の負担なしで、自分の権利を満喫し行使できる、というのは儚い幻想である。依存がなければ自由もない。[23]

サンスティーンは続ける。

アメリカ人が当然のように思っているいかなる権利も、政府が効果的に介入することができなければ、確実に保護することはできなかったろう。(中略)「消極的権利」と「積極的権利」という、過剰に濫用されている区別にほとんど意味がないのは、そのためである。私有財産、言論の自由、警察権力の濫用からの保護、契約の自由、宗教実践の自由などの権利、そして、社会保障、国民健康保健、フード・スタンプなどの権利は、集団および個人の福祉を向上させることを目指して、税金によって賄われる国営の社会事業である。
婚姻

サンスティーンは最近の本で、政府による婚姻の承認を止めることを提案している。「私たちの提案に従えば、婚姻という単語は法律の中に現れなくなり、婚姻許可はいかなるレベルの政府からも提供・承認されなくなる」と、サンスティーンは主張している。彼は続ける。「カップルに与えられる唯一の法的地位はシビル・ユニオンとなり、これは任意の二人の人間の間の同棲関係となる」。彼はさらに続ける。「政府は、特定の関係に婚姻という肩書きを与えて保証することを要求されることはなくなる」。そして、国家によって承認される婚姻を「公式免許制」と呼んでいる。[24]サンスティーンは1996年7月11日に、上院で結婚防衛法に反対する演説を行った。[25]
著書
著書

1990?1999

Sunstein, Cass R. (1993). After the Rights Revolution: Reconceiving the Regulatory State. Harvard: Harvard University Press. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}
ISBN 978-0-674-00909-7 

Sunstein, Cass R. (1993). The Partial Constitution. Harvard: Harvard University Press. ISBN 978-0-674-65478-5 

Sunstein, Cass R. (1995). Democracy and the problem of free speech. New York: The Free Press. ISBN 978-0-02-874000-3 

Sunstein, Cass R. (1996). Legal Reasoning and Political Conflict. Oxford: Oxford University Press. ISBN 978-0-19-511804-9 

Sunstein, Cass R. (1997). Free Markets and Social Justice. Oxford: Oxford University Press. ISBN 978-0-19-510273-4 
『自由市場と社会正義』、有松晃・紙谷雅子・柳澤和夫訳、食料・農業政策研究センター、2002年

Sunstein, Cass R. (1999). One Case at a Time: Judicial Minimalism on the Supreme Court. Harvard: Harvard University Press. ISBN 978-0-674-00579-2 

2000?2009

Sunstein, Cass R. (2000). Behavioral Law and Economics. Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-66743-2 


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