ガールズラブ
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レディースコミックでも事情はあまり変わらなかったが、津雲むつみ月下美人』(1989年)、福原ヒロ子『夢の降る夜』[14](1991年)といった、やや官能的な作品が発表された[8]。また、1970年代は『ベルサイユのばら』に代表される男装の麗人がらみで百合的な描写が見受けられた[8]。『リボンの騎士』なかよし版の段階では、同性愛は男装の少女が女性であると明かされた時点で終わる一時的なものだった。一方、『ベルサイユのばら』ではありえる一形態として描かれていた[12]

1980年代に入ると樹村みのり海辺のカイン』(1981年)、吉田秋生櫻の園』(1985年 - 1986年)といった、特に魅力的とはいえない普通の女性たちが、タブー観や不幸な生まれやポルノグラフィックな文脈とも関係なく交流を繰り広げる作品が現れた[8]

また、1984年にはアダルトアニメくりいむレモンシリーズからエスカレーションが発売された。この作品は1986年に、稲葉真弓(2014年に紫綬褒章を受章)によって「倉田悠子」の別名義でノベライズされた。この作品は百合ノベルの原点にして金字塔と言われている[15]。ちなみに、くりいむレモンシリーズのノベライズ群は、官能小説の中でもジュブナイルポルノの先駆けとされ、このジャンルは後のライトノベルの原点とされる。

1990年代を迎えると、百合作品は作品数の増大もさることながら、描かれ方も変化した。かつてのタブー観や罪悪感が退き、例えば秋里和国『10回目の十戒』(1991年)、一条ゆかり『だから僕はため息をつく』(1993年)といった作品で、明るいレズビアンが登場し始めた。特に、レズビアンのカップルが登場する1990年代初頭の『美少女戦士セーラームーン』(1992年 - 1997年)の影響は大きく[8]、またこれによって、それまで女性の愛好家が大半を占めていた百合作品に男性の支持が集まるようになった[16]同人誌の世界でも、『セーラームーン』をネタにした作品が多数作られた。男性同性愛に固執してきた同人誌の歴史において画期的なことだった。初期の百合作品に見られた暗さがなくなったのは、この時期に「女」がマイナスの記号であることをやめたからだと考えられている[8]

1994年に、ムービックより百合アンソロジー『EG』が刊行された。翌1995年にはレズビアンとバイセクシュアル女性のための雑誌『フリーネ』、1996年にレディースコミック『美粋(ミスト)』[注 4] が刊行された。両誌とも現在は休刊している。1997年に百合アニメの金字塔とも言われる『少女革命ウテナ』が放映された[1]。さらに1998年から刊行された、エス小説の現代版といえる[17]マリア様がみてる』をきっかけにして、男性愛好家も急増したとされる[16]

2003年には百合専門誌『百合姉妹』(2003年 - 2004年)が創刊され、ついで『百合天国』(2003年 - 2004年)や『ES』(2004年 - 2005年)のような百合アンソロジーが発刊された。2005年に『百合姉妹』の後継として『コミック百合姫』が刊行されるようになり、2010年前後には『つぼみ』(2009年 - 2012年)『ピュア百合アンソロジー ひらり、』(2010年 - 2014年)等の百合アンソロジー数種が次々に発行されたりもした。こうして百合市場は日本に定着し、女子児童が主な読者層である『りぼん』『なかよし』といった少女漫画雑誌においても『ブルーフレンド』や『野ばらの森の乙女たち』のような百合作品が掲載されることもあった。ただし、百合の市場規模は2010年に至っても、やおいBL市場の10分の1に留まっているといわれている[18]

一方、日本映画界では少女同士のプラトニックな関係や女性同士のポルノグラフィックな関係が描かれてきたが、このうち特に前者が百合映画と呼ばれる場合がある。『櫻の園』『ラヴァーズ・キス』などが代表であるが、大人のレズビアンが共感できる作品ではなかった[2]。テレビドラマでもプラトニックな関係も含め百合関係を扱った作品があり、ミステリー・ドラマ『古畑任三郎』や『相棒』でも何回か取り上げられている[19]

百合ブームは、海外にも及んでいる。2003年には、北米で百合作品を扱う初めての出版社ALC出版が誕生した。同年には、百合作品のイベントYuriconが開催される。現在は、日欧米の作家によるアンソロジー『Yuri Monogatari』や日英バイリンガルのマンガ『Rica 'tte Kanji!?』も発行されている[20][21]

2000年代後半には、男性キャラクターを排除・周辺化して、複数の美少女キャラクターたちの日常的なやりとりを重点的に描く萌え4コマ空気系といったジャンルが流行したが、これらの作品を原作とする二次創作では(腐女子によるやおい系二次創作と同様に)もっぱら登場する女性キャラクター同士の関係性に百合的な同性愛を読み込むという発想が取られており、百合というジャンルの普及に一役買った形になっている[22]


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