ガングラン
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ガングラン[1]古フランス語: Guinglain, Guinglan[2]、Giglan[3]中英語: Gingalain[4]、 Gingelein[5]、Sir Gyngalyn/Gingalin[6])はアーサー王伝説に登場する円卓の騎士。冒頭では主人公みずからその素性を知らず、つけられた綽名がそのまま『名無しの美丈夫』[7]の作品名となっており、貴種流離譚の一種である。のちに自分の名とガウェイン卿とブランシュマルという妖精(フェー)の間にできた息子と明かされる。

代表する作品は、ルノー作『名無しの美丈夫』(現代フランス語: Le Bel Inconnu、12世紀末~13世紀初)は[注 1]、英訳題名『Fair Unknown』が充てられる[8]。中英詩版は『リボー・デコニュ(Libeaus Desconus)』[9][注 2]

『名無しの美丈夫』の梗概は、おおよそ次の通りである:自らの名も素性も名乗れぬ若者が、アーサー王の宮廷を訪れ、唐突に褒美を所望し、その騎士にくわわる。「名無しの美丈夫」の仮称を得るや、そのとき駆け込んできたウェールズの王女/女王[注 3]の侍女エリーが懇願する、主を救うための「恐ろしい接吻」(古フランス語: Fier Baissier)の冒険(いわばメインクエスト)を承諾し、王女救出に向かう[10]。が、エリーや小人を伴う道中で、いくつもの艱難(いわばサイドクエスト)が待ち受ける[11]。とくに黄金島では、「白い手の乙女」(フランス語: La Pucelle a Blanches Mains)に無理やり結婚をせまる相手「灰色のマルジエ」[12]を倒し、その「乙女」との結婚資格者になる[注 4]。しかし使命を思い出して置き去りのような形で島を去り、王都スノードンに行き、ウェールズ王女/女王ブロンド・エスメレが蛇竜〔ヴイーヴル[14](?ワイバーン)に化身された魔法を接吻で解除して冒険を果たす。王女もまた主人公に嫁することを欲する。「白い手の乙女」との再会を果たすも、アーサー王は(美丈夫を王女と娶せて、配下の騎士として手元におきたい腹づもりで[15])、美丈夫を馬上槍試合に召喚する。最愛の乙女に送り出された美丈夫は、これを失恋と決別と受け止め、縁談のブロンド・エスメレ姫と結婚する[16]

中英語版でも主人公は、黄金島に立ち寄り、「愛の淑女」(またはアモール婦人)[仮訳名]を助けているので[注 5]、近年の解説のように恋愛交友があったとも推量できるが[17]、19世紀の解説では、中英語版の主人公は迷わず一途であり、人面の蛇竜[18][注 6]の姿から「接吻」で救った「スノードンの婦人」とすんなり結婚を決めた、としている[13]

同じくゴーヴァンの息子を題材とした後年の古フランス語詩『ボードゥー』(「穏やかな美丈夫」)の題名主人公はオノレ(フランス語: Honoree)という剣を帯びる[20]。中世イタリア語やドイツ語の類話も存在し、また近世フランス語の散文翻案もある。
登場作品

フランスでは、ルノー・ド・ボージューの『名無しの美丈夫』(Le Bel Inconnu、略称BI、12世紀末?13世紀初、6266行[22])であり[10][24]。原典の古フランス語読みではLi Biaus Descouneusであるが、英訳題名(主人公名)Fair Unknownが充てられる[8][注 7]。この作品は、唯一、シャンティイ城付設図書館/コンデ美術館蔵472番写本に伝存する[26][27]

英語版では、中英詩『リボー・デコニュ(Libeaus Desconus)』[注 2](略称LD、14世紀、2232行[28])に翻案されており[21]トマス・チェスター(英語版)の作とみなされる[17][注 8]。さらには中世の類話作品にイタリア版『Carduino』(略称Car.)、ドイツ版『ヴィーガーロイス』(英語版)(略称Wir.)がある[29]。比較分析されている四作品(BI, LD, Car., Wig.)には(差異の部分も)があるが[30]、おおよそにおいて粗筋は一致する[31]

またロベール・ド・ブロワ(英語版)が『ボードゥー』(Beaudoux、「穏やかな美丈夫」13世紀後半)の題名で著した[32][33]もゴーヴァンの息子が主人公であるが、必ずしも『名無しの美丈夫』の類話扱いとはされず、先行作品と類似したエピソードがみとめられる作品という位置づけで解説されている[34]

古フランス語の『グリグロワ』(Gliglois、13世紀成立)[36]も、名前は似ているが、<名無しの美丈夫>伝説に充てる仮説は、その後においては懐疑的にかえりみられている[注 9][37]
サイクル分類

渡邉浩司は、ルノー作『名無しの美丈夫』を、聖杯探求を伴わない物語群として《ゴーヴァン・サイクル》に分類する[38]

ジェシー・L・ウェストン(英語版)(1897年)が用いた「名無しの美丈夫サイクル」(英語: Fair Unknown cycle)は、単に「名無しの美丈夫」の類話の仏・英・伊・独版を総じて指しているが[39]、それ以前にこれらを4作品を比較分析したW・H・スコフィールド(英語版)の研究があり、それらではパーシヴァル卿(ペルスヴァル)伝説よりの起源・分離説を提唱しているが[40][39]、これは演繹的・飛躍的ではないかともされる。

また、ペルスヴァルのみでなく、マロリーにおけるガウェインの弟ガレス卿(つまりガングランの叔父)の物語との類似性は何遍にもわたり指摘されている[42][44][45]

「ラ・コート・マル・タイユ」(寸法が合わないコート)[注 10]との類似性もみられる[41][45]
梗概と比較

『名無しの美丈夫』の梗概は、渡邉浩司が2006年論文で発表しているが[46][48]


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