カーボンナノチューブ
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現時点ではバッキーペーパーと呼ばれるシートが研究段階で開発されている。スーパーグロースCVD法によって製作されたSWNTによる薄膜の密度は0.037g/cm3[13]。触媒操作によりSWNTとMWNTの比率も変えられる[19]


ダイヤモンド・アンビルセルを用いてSWNTを24GPa以上に常温加圧する事により、電気伝導性を有する超硬度材料超硬度ナノチューブ (SP-SWCNT))を合成できる。ナノインデンター硬度測定法による硬度は62?150GPaでダイヤモンド150GPaに匹敵し、体積弾性率は462?546GPaでダイヤモンド420GPaを超える。ラマン効果を用いたスペクトル計測では、不可逆変化を起こしている事が分かった。なおダイヤモンドは絶縁体である[20][21]フラーレンを用いて同様の方法で製作された物質にハイパーダイヤモンドがある。ダイヤモンドの2倍程度の硬度とされる。

複合材として用いる事で、ハイパービルディングや大型の橋梁用ケーブル、自動車航空機戦闘機宇宙船などの従来物質では不可能な構造物への応用が考えられる。また、スポーツ製品や自転車などの一般製品にも利用され始めている。

シリコンゴムのような性質で、極環境下でも粘弾性を持つCNTが発見されている。この物体は、-196 ℃から1000 ℃の温度範囲で粘弾性を示し、-140?600 ℃で、0.1?100ヘルツの振動数範囲では、周波数に依存しない安定した粘弾性を示す。さらに100ヘルツで1%のねじり歪みを100万回加えた後も、劣化や破断がない[22][23]

その他

各種
フラーレンを内包したピーポッドやTCNQ、カロテノイド、種々のポルフィリンなどの有機分子を内包したものが作製されている[24]

最近になって単層カーボンナノチューブ内部では水の融点が高くなり、常温常圧下でも氷を作ることが発見された[25]


微細繊維の形をとる場合があるため、防刃チョッキや防弾チョッキ用のケブラーに変わる高強度繊維としての利用も考えられているが、同時にアスベスト状の毒性を示す可能性があると指摘されている(後述)。

終端処理したMWNTは極低温において超電導を示す。転移温度 T c {\displaystyle T_{c}} =12Kで、グラファイト構造などが寄与するものと考えられる[26]

各種薬品への耐性が高いことも特徴の一つだが、これは溶解させるのが困難ということでもあり、研究においては妨げとなっていた。しかし近年では分散剤として、ピレンポルフィリンの誘導体などが有効であることを、中嶋直敏らグループ(九州大学)が確認している。またカテキンの水溶液(日本茶)にも可溶性を示すが、これは中嶋らが研究室内にあったサントリー伊右衛門を溶媒に試して偶然発見した[27]

この他の性質に関しても、さらなる利用価値を探して研究が進められている。
カーボンナノチューブの発見と生産

カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーに対する最初の観察と研究は、1952年ソビエト連邦までさかのぼる。この時点で既に2人のロシア人科学者によってカーボンナノチューブと思われるTEM写真と文献が書かれていた[28]。しかし、当時は冷戦中という事もあり、その詳細が西側諸国に紹介されることはなく研究は置き去りにされる。

それから20年もの歳月が過ぎた1976年フランスで、日本の遠藤守信(当時信州大学工学部助手、フランス国立科学研究センター(CNRS)客員研究員。現・信州大学先鋭領域融合研究群カーボン科学研究所特別特任教授)は、後のカーボンナノチューブの存在とその成長モデルを世界に初めて示した[29]。しかし、遠藤の関心はその後、構造の追求よりも成果の実用化に移る。1982年、その生成を連続的に行う量産方法として触媒化学気相成長法を考案し、1987年に特許化する[30]。この方法は、1988年に米国化学会のCHEMTECに発表された[31]。しかし、上述したとおり、この時点では現在のカーボンナノチューブとしての詳細な構造は解明されておらず、構造の解明と決定は1991年の飯島による再発見まで待たねばならない。

一方、米国では、1979年ペンシルベニア州立大学会議において、ジョン・エイブラハムソンがアーク放電によって低圧の窒素雰囲気中に生成されたカーボン繊維の特殊性について述べており(文献発表は1999年[32]1981年にはソビエト連邦の研究者らによって、カーボンナノチューブの表面に当たるグラフェンシートの幾何学構造についての考察文献が発表されている[33]1987年にはハワード・G・テネットによってカーボンナノファイバーの直径が3.5nmから70nmの間とされる事やその応用性について述べられた[34]

1991年、日本の飯島澄男(当時NEC筑波研究所研究員。現・名城大学終身教授、NEC特別主席研究員)によって、フラーレンを作っている途中にアーク放電した炭素電極の陰極側の堆積物中から初めてTEM(透過電子顕微鏡)によって発見された[35]。この発見には幸運だけではなく、高度な電子顕微鏡技術も大きな役割を果たしていた。また、電子顕微鏡で観察・発見したというだけでなく、電子線回折像からナノチューブ構造を正確に解明した点に大きな功績が認められている。このときのCNTは多層CNT (MWNT) であった。

2018年大陽日酸と東邦化成は世界で初めてフッ素樹脂に導電性を付与を実現し、商品化した[36]。大陽日酸の長尺カーボンナノチューブとフッ素樹脂の成形加工を用いて、ポリクロロトリフルオロエチレンに機能付与した。高機能フッ素樹脂として半導体製造装置関連や薬液供給関連といった分野への適用が見込まれる。
作製方法
アーク法

黒鉛電極を
アーク放電で蒸発させた際に、陰極堆積物の中にMWNTが含まれる。その際の雰囲気ガスはHeやAr、CH4、H2などである。

金属触媒を含む炭素電極をアーク放電で蒸発させると、SWNTが得られる。金属はNiやCo、Y、Feなどである。

この方法において、正負電極に微振動を連続して加えるフィジカルバイブレーション法がある。これにより、ナノチューブの純度および単位時間当たりの生成量を飛躍的に高めることが可能である[37]

レーザーアブレーション法

1992年、
リチャード・スモーリーのグループによって開発された。レーザーファーネス法とも[38]

Ni-Co、Pd-Rdなどの金属触媒を混ぜた黒鉛にYAGレーザーを当て蒸発させ、Arの気流で1,200℃程度の電気炉に送り出すと炉の壁面に付着したSWNTが得られる。

高純度なSWNTが得られるが、大量合成には向かない。触媒の種類と炉の温度を変えることで直径を制御できる。

CVD法

触媒金属のナノ粒子とメタン (CH4) やアセチレン (C2H2) などの炭化水素を500?1,000℃で熱分解してCNTを得る。


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