本作品の制作費は180万ドルと、当時のハリウッド製大作映画と比べて控えめなものであったが、興行成績が振るわず結局制作費を回収することは出来なかった[9]。興行的には今ひとつだったものの、批評家たちは本作品を完成度の高いスリラーとして賞賛、コッポラの監督としての評価を更に高めることになった。コッポラも後にインタビューで、本作品のことを彼のキャリアの中で最も好きな映画だと述べている。その理由は、本作品が『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』といった原作付きの映画と違い、コッポラ自身が書き上げた脚本に基づいた個人的なものだからだという[10]。 『カンバセーション…盗聴…』は、その興行的失敗にもかかわらず、多くの批評家たちから優れたサスペンス映画だとして賞賛された。公開当時、タイムやニューズウィーク、ニューヨーク・タイムズといった権威あるマスコミが本作品について好意的なレビューを掲載した。特にバラエティ誌の批評家は本作品のことを、「現時点におけるコッポラのもっとも完璧で、もっとも自信に満ち溢れ、もっとも価値の有る映画」であると絶賛した[11]。それらの好意的な評価の反面、ジョン・サイモンのようにこの映画を批判する者も居た。辛口な批評家として知られるサイモンは、エスクァイア誌に掲載したレビューで、作中で盗聴のエキスパートとして描写されている主人公が、何度も見え透いた罠に嵌るという本作品の筋書きを、不自然でありそうもないことだと指摘した[12]。 本作品はコッポラの他の監督作品である『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』ほど一般的な知名度は高くないものの、現在では多くのコッポラ研究家や映画評論家たちから、彼のキャリアを代表する傑作だとして高く評価されている。ジョエル・シュマッカー[13]やゴア・ヴァービンスキー[14]といった映画監督たちも、好きな映画作品のリストにこの作品を含めている。 ピーター・コーウィーは、その著書『Coppola』のなかで、「コッポラの製作した作品の中で、この作品ほど熱情が込められた作品は無い」と評価した。コーウィーはまた、映画のラストシーンで自室に仕掛けられた盗聴器を発見するために部屋中を徹底的に破壊したハリーが、おそらくその中に盗聴器が仕掛けられていると疑いながらもサクソフォンだけを破壊しなかったのは、彼がその楽器の醸しだす音楽に夢と希望、罪の許しを求めていたからであると述べた[15]。 ロジャー・イーバートは『シカゴ・サンタイムズ』に掲載したレビューで、本作品のことを「簡潔にまとまった知的なスリラー」であると賞賛した。作品のモチーフについてイーバートは、主人公ハリー・コールの、「基本的に悪人ではなく、自らの仕事を遂行しようとしているが、その仕事に起因する罪悪感と悪評に苛まされる」姿は、ウォーターゲート事件やベトナム戦争が齎した後遺症に苦しむ当時のアメリカ合衆国の縮図であると指摘している[16]。 1995年にはアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。 1974年のカンヌ国際映画祭では最高賞であるグランプリ(翌1975年から現在の正式名であるパルム・ドールに改称)を受賞。同年度のアカデミー賞において作品賞と脚本賞、録音賞の3部門にノミネートされるが、同じコッポラ監督・脚本作品である『ゴッドファーザー PART II』(作品賞と脚色賞を含む11部門にノミネート)に阻まれ受賞には至らなかった。
評価
受賞
脚注
注釈^ 映画中で登場人物がリップセットについて言及するシーンがある。また、リップセットは技術アドバイザーとして映画にクレジットされた。
^ 映画の主人公ハリー・コールの名前は、『荒野のおおかみ』の主人公ハリー・ハラーからとられたものである。
出典^ “The Conversation
^ Cowie p. 86
^ Cowie p. 66
^ Schumacher p. 142
^ Schumacher p. 143
^ Jeff Stafford、“ ⇒The Conversation: Overview Article”(参照:2009年1月31日)
^ Schumacher p. 144
^ Cowie p. 87
^ Lillian Loss (1982). Some Figures on a Fantasy: Francis Coppola.
^ Gene D. Phillips (1989). Francis Ford Coppola Interviewed.
^ Cowie p. 88
^ Schumacher p. 172
^ Sight & Sound、“ ⇒How the directors and critics voted: Joel Schumacher”、2002年。(参照:2009年1月31日)
^ Sight & Sound、“ ⇒How the directors and critics voted: Gore Verbinski”、2002年。(参照:2009年1月31日)
^ Cowie p. 96
^ Roger Ebert、“ ⇒Great Movies - The Conversation”、2001年2月4日。(参照:2009年1月31日)
参考文献
Peter Cowie (1989). Coppola. London: Andre Deutsch limited. ISBN 0-571-19677-2.
Michael Schumacher (1999). Francis Ford Coppola: A Filmmaker’s Life. New York: Crown Publishers. ISBN 0-517-70445-5.
Gene D. Phillips and Rodney Hill, eds (2004). FRANCIS FORD COPPOLA: INTERVIEWS. Jackson: University Press of Mississippi. ISBN 1-57806-665-4.
外部リンク
カンバセーション…盗聴… - allcinema
⇒カンバセーション…盗聴… - KINENOTE
The Conversation
The Conversation