カカオ豆
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原産地であるメソアメリカでは紀元前1900年頃から利用され、オルメカ文明の時代から栽培食物とされていた事が、グアテマラリオ・アスール遺跡など、マヤ文明アステカ遺跡の土器壁画、石碑から判っている。ベリーズのクエリョ遺跡でチカネル期(紀元前400から1年)のものと思われる炭化したカカオ豆が発見されている[15]。また、紀元前1100年代のカカオ利用の証拠として、ホンジュラスのウルア渓谷で発見されたその時代の壺の破片からテオブロミンカフェインが検出されている[16]。この時期はカカオパルプから飲料が作られていたと考えられる[17]

カカオは、マヤではカカウと呼ばれる[18]。これはオルメカ文明で話されていたと思われるミヘ・ソケ語族からの借用語であり、元々の発音はカカワであったらしい[19]

マヤやアステカにおいて、カカオ豆は飲料にされて飲まれたほか、神への供物とされたり、貴重品だったため貨幣としても用いられたりした[20]。カカオ豆の貨幣としての価値の例として、1545年のメキシコでの価格はメスの七面鳥がカカオ豆100個、オスの七面鳥が200個、野ウサギが100個などであったり、1541年に書かれたモトリニアのインディオ史によればカカオの実2万4000粒でスペイン金貨5または6ペソであったりしたという[21]。中身を取り出したカカオ豆の皮に他のものを詰めるなど方法により偽金作りも行われた[22]植民地時代中もカカオ豆は通貨として使用され続けた[23]

1502年コロンブスは第四次航海で現在のホンジュラス付近でカカオの種子を入手し、スペインへ持ち帰っている。もっとも利用法が不明で、その価値に気付いた者はなかった。1519年コンキスタドールエルナン・コルテスアステカでカカオの利用法を知る。砂糖香辛料を加えたショコラトル(チョコレート)は上流階級に歓迎され、1526年にはトリニダード島に栽培地が建設された。

カカオが飲料としてヨーロッパにもたらされた最初の記録として、1544年ケクチ・マヤ族の使節による、スペインのフェリペ皇太子(後のフェリペ2世)への訪問がある。フランスにはスペインから嫁いだ王妃アンヌ・ドートリッシュが広めた逸話があり、17世紀にココア飲料が流行し、1660年代にカリブ海の島マルティニークでの栽培を開始した。

その後もカカオ栽培は拡大し、1830年頃から西アフリカポルトガルサントメ島などで栽培されるようになる。19世紀半ばに中米のプランテーションが病害により生産量が激減すると、アフリカが替わって生産の主体となった。さらにイギリスが、スペインから租借中のフェルナンド・ポー島(現在の赤道ギニア)でプランテーション経営を始め、1879年には黄金海岸(現在のガーナ)にテテ・クワシが導入している。1890年代末、フランスが象牙海岸(現在のコートジボワール)で植民地会社を組織し、生産を奨励した。

インドネシアには、1560年にスペインによってジャワ島に伝わっているが、生産が広まったのは20世紀で、特に1980年の市場暴落後の30年で生産を伸ばしている。
利用詳細は「ココア」および「カカオマス」を参照
食用
カカオマス - 胚乳部分を粉砕焙煎してすり潰したもの。ココアとチョコレートの共通原料。ココアバター(カカオバター) - カカオマスから分離された脂肪分。カカオマスは約55 %の脂肪分を含む。ココアパウダー - カカオマスを脱脂、粉砕したもので、色は焦げ茶色。種子300個から約1キログラム取れる。チョコレート - ココアバターを加えたカカオマスに、砂糖、ミルクなどを加えて作られる。モーレ - ソース

このほか、カカオの粉末、それを発酵させたうえでローストして皮を取り除いて砕いた「カカオニブ」、カカオシロップとそれを発酵させたカカオビネガーが食材や調味料として使われるようになっている[24]
薬用
テオブロミン - 利尿作用・筋肉弛緩作用。カフェイン - 覚醒作用。ココアバター - ヒト体温で溶ける植物性油脂として、座薬軟膏の基剤に。
貨幣
コロンブスが書き残しており、スペイン人が栽培に着手した理由でもある(分類としては、実物貨幣の内の「商品貨幣」に当たる)。1520年頃のニカラグアニカラオ族では、ウサギ1羽がカカオ豆10個、奴隷1人がカカオ豆100個で取引されていた。19世紀に貨幣が導入されると廃れた(「マヤ文明#文化」内の食生活も参照)。
健康

カカオはI型アレルギー原因物質のチラミンニッケルを含み、チョコレートアレルギーの原因となる。なお、チラミンは血圧心拍数を上昇させる効果があり、チョコレートの食べ過ぎで鼻血が出るという俗信の元となったが、実際には健常者に出血させるほど強い作用はない。
生産

2012年の全世界におけるカカオ豆生産量は約500万トンである[25]。以下に当年の生産量上位国の内訳を示す。

国2012年の生産量
コートジボワール165.0万トン (33 %)
インドネシア93.6万トン (19 %)
ガーナ87.9万トン (18 %)
ナイジェリア38.3万トン (08 %)
カメルーン25.6万トン (05 %)
ブラジル25.3万トン (05 %)
エクアドル13.3万トン (03 %)
メキシコ8.3万トン (02 %)

カカオ生産の特徴として、バナナコーヒーといったほかの熱帯性商品作物と違い、大規模プランテーションでの生産が一般的ではないことが挙げられる。これは、カカオの植物学的特性に理由を求めることができる。カカオの木は陰樹であり、大きくなるまでは他の木の陰で生育させる必要がある。つまり、単一の作物を広大な面積で一挙に栽培することが困難であり、規模のメリットが得られにくい。一方で、プランテン・バナナのような大きくなる木との混栽には適しているため、自給的な小規模農家が片手間に商品作物として栽培するにはきわめて適している[26]。ガーナにおいては、労働者が未開発の土地を開発する契約を地主と結び、バナナやキャッサバなどの主食用の作物を育てながらその陰でカカオの木を育て、カカオが生長し十分に利益が出るようになると開発地を折半して半分を地主のものに、もう半分を労働者のものにする契約がかつて盛んに行われ、カカオ生産成長の原動力となった。


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