カイコ
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中部絹糸腺は後部絹糸腺から送られてきたフィブロインを濃縮・蓄積するとともに、もう一つの絹タンパク質であるセリシンを分泌する。これを吐ききらないとアミノ酸過剰状態になり死んでしまう。カイコは歩きながらでも糸を吐いて繭を作る準備をする。また蛹になることを蛹化というが、養蚕家は化蛹(かよう)という。

繭の中でカイコの幼虫は丸く縮んで前蛹になる。これはアポトーシスプログラムされた細胞死)が体内で起こっているのであり、体が幼虫から蛹に作り変わっている最中である。その後脱皮し、蛹となる。蛹は最初飴色だが、段々と茶色く硬くなっていく。

羽化して成虫になると、口から絹糸を溶かすタンパク質分解酵素を出して自らの作った繭を破って出てくる。成虫は全身白い毛に覆われており、翅を有するが、体が大きいことや飛翔筋が退化していることなどにより飛翔能力を全く持たない上、口吻はあるが餌を食べることは無い。成虫は尾部から茶色い液(蛾尿)を出す。交尾の後、やや扁平な丸いを約300粒産み、数日から約10日で斃死する。
参考画像

成虫と卵

7日目の幼虫

桑を食べる幼虫

5齢幼虫

繭を作る様子



利用
絹の採取

カイコは、ミツバチなどと並び、愛玩用以外の目的で飼育される世界的にも重要な昆虫であり、主目的は天然繊維の採取にある。日本でも『古事記』にも記述があるほどの長い養蚕の歴史を持つ。第二次世界大戦前、絹は主要な輸出品であり、合成繊維が開発されるまで日本の近代化を支えた。農家にとって貴重な現金収入源であり、地方によっては「おカイコ様」といった半ば神聖視した呼び方が残っているほか、養蚕の神様(おしろさま)に順調な生育を祈る文化も見られた。また「一匹、二匹」ではなく、他の昆虫と同様に「一頭、二頭」と数える。

繭は一本の糸からできている。製糸工場は繭を受け取ると高温乾燥して長期間の保存を可能にする。これを乾繭という。絹を取るには、繭を丸ごと茹で、ほぐれてきた糸をより合わせる。茹でる前に羽化してしまった繭はタンパク質分解酵素の働きで絹の繊維が短く切断されているため、製糸には向かない。品質の悪い繭は真綿にして紬糸を作るために利用することがある。

繊維用以外では、繭に着色などを施して工芸品にしたり、絹の成分を化粧品に加えたりする例もある。

2017年、遺伝子組換えによって緑色蛍光シルクを作るようにした遺伝子組換えカイコが初めて養蚕農家で飼育され、繭が出荷された[16]。詳しくは「遺伝子組換えカイコ」を参照。
餌用・食用ベトナムのサナギ四川風のサナギのトウガラシ炒め韓国のポンテギ

絹を取った後の蛹は、日本の養蚕農家の多くは、などの飼料として利用した。現在でもそのままの形、もしくはさなぎ粉と呼ばれる粉末にして、魚の釣り餌にすることが多い。

また、貴重なタンパク源として人の食用にされる例は多い。90年余り前の調査によると、日本の長野県群馬県の一部では「どきょ」などと呼び、佃煮にして食用にしていたと報告されている[注釈 1][要出典]。太平洋戦争中には、長野県内の製糸工場において、従業員の副食として魚肉類の代わりに提供された。最初は特有の臭いもあって、なかなか手の出なかった従業員達も、貴重なタンパク源として競って食すようになり、しばらくして数に制限が加えられたという[17]

現在でも、長野県ではスーパー等で蚕蛹佃煮として売られている[18]伊那地方では産卵後のメス成虫を「まゆこ」と呼び、これも佃煮にする。朝鮮半島では蚕の蛹の佃煮を「ポンテギ」と呼び、露天商が売るほか、缶詰でも売られている。中国では山東省広東省東北地方などで「蚕蛹」(ツァンヨン、c?ny?ng)と呼んで素揚げ煮付け炒め物などにして食べる。ベトナムでは「nh?ng t?m」(ニョンタム)と呼んで、煮付けにすることが多い。タイ王国でも、北部北東部では素揚げにして食べる。

日本企業のエリー(東京都中野区)は2020年1月、カイコと牛肉を半々使ったハンバーガー店を開業した[19]

ヒトに有用な栄養素を多く含み、飼育しやすいことから、長期滞在する宇宙ステーションでの食料としての利用も研究されており、粉末状にした上でクッキーに混ぜて焼き上げる、一度冷凍したものを半解凍する、などの方法が提案されている。今では言われなければわからないほど自然な形に加工できるようになっている。また、蛹の脂肪分を絞り出したものを蛹油[20]と呼ぶ。かつては食用油や、石鹸化粧品の原料として利用された[21]。現在では主に養殖魚の餌として利用される。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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