ハムレットとオフィーリアの狂気の違いは、初期近代においてはジェンダーの差によって作られるものとして理解されていた。メランコリーは男性の知性の病として理解されていたが、一方でオフィーリアはエロトマニアにかかっていると理解された可能性がある[13]。こうした女性の狂気に関する言説は1660年代以降、イングランドの商業演劇にプロの女優が現れ、役柄に「新しい意味と転覆的なテンション」を持ち込むようになってからオフィーリアの表象に影響を与えた[16]。ショーウォルターは「オフィーリアを演じた女優の中で最ももてはやされたのは、愛に失敗したという噂があった者たちである」と述べている[16]。ショーウォルターは恋人に裏切られて狂気に陥った元女優のスーザン・マウントフォートが1720年に監視の目を抜け出して劇場に入り込み、オフィーリアが登場するはずの場面で舞台に出てきて観客を驚かせたという逸話をひいて、女優のアイデンティティと演じた役柄が重なる感覚を説明している[17]。 ソプラノ歌手のミニョン・ネヴァダが1910年頃にアンブロワーズ・トマのオペラ『ハムレット』でオフィーリアを演じる様子。オペラ版はプロットを単純にしてハムレットの窮状とオフィーリアがそこから受ける影響に焦点を当てている。
18世紀の間、オーガスタン時代の演劇のコンヴェンションにおいては、これほど強烈ではなく、もっとセンチメンタルで上品にオフィーリアの狂気とセクシュアリティを描写する傾向があった。1772年のミセス・レッシンガムから1813年にジョン・フィリップ・ケンブルの相手役をつとめたメアリ・ボルトンまで、オフィーリアは情熱の化身のような役どころからもう少しなじみのあるイコノグラフィへと変わった。サラ・シドンズは1785年に「堂々とした古典的な尊厳」をもってオフィーリアの狂気を演じた[18]。オフィーリアを演じるサラ・シドンズ
多くの偉大な女優が長年にわたりオフィーリアを舞台で演じてきた。19世紀にはオフィーリアはヘレナ・フォーシット、ドラ・ジョーダン、フランセス・アビントンなどによって演じられ、ペグ・ウォッフィントンはこの役を演じて舞台で初めて名声を勝ち取った[19]。劇場マネージャーのテイト・ウィルキンソンはスザンナ・シバーを除いてはエリザベス・サッチェル(有名なケンブル一族の一員)が今まで見た中では最高のオフィーリアだったと述べた[20]。
近年の上演では、2009年にはジュード・ロウの相手役としてググ・バサ=ローが[21]、2015年にはベネディクト・カンバーバッチの相手役としてシャーン・ブルックが舞台でオフィーリアを演じている[22][23]。 オフィーリアはサイレント映画の初期から映画で描かれてきた。ドロシー・フォスターがチャールズ・レイモンド演じるハムレットの相手役として1912年の映画『ハムレット』でオフィーリアを演じた。ジーン・シモンズはハムレット役のローレンス・オリヴィエがアカデミー主演男優賞を受賞した1948年の『ハムレット』でオフィーリアを演じたが、シモンズもこの時にアカデミー助演女優賞にノミネートされている。もっと新しい映像化では、アナスタシア・ヴェルチンスカヤ
映像化作品
現代の上演や映像化の多くで、オフィーリアは狂気の場面において裸足で現れる。映画ではグリゴーリ・コージンツェフの1964年版、フランコ・ゼフィレッリの1990年版、ケネス・ブラナーの1996年版、マイケル・アルメレイダの2000年版などがこの演出を用いている。