オデュッセイア
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ホメーロスの叙事詩は、ギリシャ文化の成熟期前の先ギリシャ文化とでも言うべき、エーゲ海混成民族の口伝として伝えていた物語で、『吟遊詩人』が詠唱する形で伝えられてきた。その為、文学としてギリシャ文字で綴られるのはかなり後の事となる。口伝として「ムーサへの祈り」から始まり、『ムーサ(ゼウスとムネーモシュネー・記憶、との間の子)』に「伝えられるべき物語」を懇願して始まりつつ、吟遊詩人の言葉を借りてムーサが「ある英雄」の話を伝え始めるという形式を取っている。口伝の叙事詩の性格上、主要人物がセリフ回しで物語を進める形態が多い。
ムーサへの祈り

ホメーロスの叙事詩には、朗誦の開始において「ムーサへの祈り」の句が入っている。これは話を始める契機としての重要な宣言であり、自然なかたちで詩のなかに織り込まれている。『オデュッセイア』では、最初の行は次のようになっている。

「?νδρα μοι ?ννεπε, Μο?σα, πολ?τροπον, ?? μ?λα πολλ?」

原文の語順どおりに訳すと、次のようになる。

「あの男のことを わたしに 語ってください ムーサよ 数多くの苦難を経験した「あの男」を……」

「あの男」とは、オデュッセウスのことを指す。オデュッセウスが経験した数々の苦難の旅の物語を、わたしの舌を通じて語ってください、とムーサに祈るのである。つまりは、ムーサが朗詠者に宿り、語り部は実はムーサであるということになる。
第1歌

『ムーサよ、あの男(トロイア戦争での英雄)の事を語ってください…』と懇願する形で始まり、

聴衆にこの物語が「イーリアス」と関係が深い事を示唆しながら興味を引くような形になっている。

場面は、「イーリアス」のトロイア戦争で活躍した英雄オデュッセウスが、女神カリュプソー(「隠す者」の意)の島に囚われているところからこの物語は始まる。

主神ゼウスはじめとするオリュンポスの神々のほとんどが「オデュッセウスを故郷のイタケーに帰郷させること」を決議するが、オデュッセウスに我が子ポリュペーモスの眼を潰された海神ポセイドーンのみはオデュッセウスに深い恨みを持ち続け、海路で帰途に就こうとするオデュッセウスに様々な困難をもたらす趣旨が説明され、聴衆にオデュッセウスの帰路の旅が困難になるであろう事を前提で示しながら、また同時に英雄オデュッセウスに対してオリュンポスの神々が少なからず助力し「正しい行いをする者」を神々が憐み見放さない事を聴衆に暗示しつつ語りかけを成立させている。

先のトロイア戦争(「イーリアス」)で、奮戦したオデュッセウスは、彼の故郷イタケーでは「オデュッセウスは既に戦死したものと考えられており(既に数年が経過している)」オデュッセウスの妻ペーネロペーの元には、オデュッセウスの莫大な財産とイタケーの支配を目論む40人の遺産目当ての求婚者たちがオデュッセウス邸を占拠してたむろしていた。「オデュッセウスはイタケーの王であり、王の不在は国の不備」であるのが求婚者達の言い分である。オデュッセウスの妻ペーネロペーは夫オデュッセウスの帰還を待ち続け、オデュッセウスが生きて帰ってきてくれる事を願っているが、悪辣な求婚者達の無道な振る舞い(オデュッセウスの財産の蚕食)をさせるがままになっていた(古代ギリシアでは、有力者は客人を歓待するのが習わしであったが、王の不在をいいことに王宮で享楽にふけり、文字通り財産を食い尽くさんとする所業は、アテーナーが指摘するように悪辣な行為である)。イタケーの王が不在の今、ペーネロペーには「オデュッセウスが生きて帰ってきてくれる事を待ち続けるしかないのだが」、求婚者たちはそれを許さず「王の不在」を理由として早急に事態の解決を迫り、「ペーネロペーが女の仕事、機織り(はたおり)の織物を完成させた暁には、(オデュッセウスの生還を諦め)求婚者たちの誰かと結婚する事を約束させた」。こうしたオデュッセウス家の苦境に、天神ゼウスの使いとして現れた女神アテーナーは、父(オデュッセウス)を識る旧知の仲の友人として「異国の王・メンテース王」の姿に扮してテーレマコスの元を訪れる、メンテース王はオデュッセウス邸での現状についてテーレマコスに問い質す。「これは如何なる会食か?この者たちは如何なる理由でここにいるのか?このような傍若無人な振る舞いを心有るひとがみれば憤慨するに違いないでしょうに」と狼藉を許している現状を嘆き、天行を説きつつ「そなたはもう子供ではなく立派な大人になったのだから、勇猛な父に恥じぬような行いをしなければならない。まずは父上の行方を探し生死を確認してから、もし亡くなられていたのならば立派な葬儀を執り行い、母上を再婚させればよろしかろう、」「そして万事を成し遂げたらならば、貴方自身の大義も成された方がよかろう、慎重に心に秘して」と叱咤激励しつつ「父オデュッセウスを探す旅に出る事を述べ」ひとまずこの場を去った。テーレマコスは寝床につきながら異国の客人メンテース王に言われた「父を探す旅」について思いをめぐらすのであった。
第2歌

オデュッセウスが死んだと考えられているイタケーでは、オデュッセウスの妻ペーネロペーのところに、40人の求婚者が遺産目当てに言い寄って数年が経っていた。オデュッセウスの妻ペーネロペーの実子であるテーレマコスは、母の苦境とオデュッセウス家の窮状を救うべく決心し、イタケーの衆を集め求婚者達の横道ぶりを皆に訴えた、しかしテーレマコスの訴えは憐みを得たがすぐに求婚者たちの非難の声にかき消され、テーレマコスの訴えは虚しく終わる。ここにきてイタケーの衆の意を得られねかったテーレマコスは意を決し、父の行方を探す望み薄き危険な旅に出る事を決意する。この時テーレマコスは屋敷や町の者たちに自分を養育してくれた恩義を述べつつもオデュッセウス邸での非道ぶりに対して正義が糺されると宣言し、悪辣な求婚者たちへの敵対を表明する。求婚者たちは将来の憂いになるテーレマコスの除外も相談するが、女神アテーナーの助けを借りて、テーレマコスは無事に父の行方を探す旅に出立する。
第3歌

テーレマコスはまずイタケー島を出てピュロスに着き、同じアカイア人で武勇の名高いネストール王に会う。王はおりしも海神ポセイドーンへ生贄を捧げる祭祀の途中であったが、訪れてきた旅の若者を快く迎え儀礼に加えて歓待してくれた。古代ギリシアではゼウスは旅人の守護神でもあり、自身も艱難を経てトロイア戦争から帰国出来たネストール王は儀礼を尽くしてテーレマコスを歓待し、またテーレマコスも儀礼をもって王に答えた。この礼儀を弁えた若者に対して、王はトロイア戦争が9年の長きに及び多くの英雄たちさえも失った事を語りだす。そしてこのトロイア戦争に戦況を打開して戦に終止符を打ったのが知略の人・オデュッセウスであったと讃嘆し、戦争が終結しアカイア人の武将たちの多くが帰郷の際に亡くなった事告げる。が、肝心のオデュッセウスの行方はネストール王にも判らず、ネストール王が帰郷の際に神々への祭祀を怠りさまざまな海難に有った事をテーレマコスに語る(だからこそ祭祀を怠らず、テーレマコスを歓待している故を旅の話で語る)。オデュッセウスの生死については自分は判らないが海神の翁(ポセイドーンとは別の海神)に助けられた際に、この翁が言うには「オデュッセウスはカリュプソーの島に囚われているらしい」との伝聞をネストール王に語ってくれた。こうしてネストール王の帰国の艱難の帰路と、王の中の王「アガメムノーン王」がアイギストスに謀殺されたことを話し、漂流の間にアガメムノーンの仇を討つことを誓うが、帰国が叶ったおりに、アガメムノーン王の息子オレステースが父の仇アイギストスを見事討ち果たし後世に名を残す勇名を得た事をテーレマコスに語る。これはテーレマコスに対してもこれを見習い青年よ大義を成せとの激励の示唆なのであるが、テーレマコスは礼儀を持って返答しつつ「私にはそのような大事を成せる自信がない」と弱音を漏らす。ここで女神アテーナーはメントス王の姿を借りて弱音を吐くテーレマコスを叱責する。このような話の流れから、ネストール王は戦友オデュッセウスの息子に力を貸し、彼の息子たちにテーレマコスに助力する事を命じ、ネストール王の子息と壮麗な車を従わせスパルタのメネラーオス王に送った。
第5歌嵐で漂流するオデュッセウスを助けるレウコテアー女神。ジョン・フラクスマン画。

ポセイドーンの怒りを買い、イタケーに還れずにいるオデュッセウスに対して、他の神々は同情的である。ポセイドーンがエチオピアの宴席に赴いており、オリュンポスに不在である隙を見て、アテーナーは、大神ゼウスに嘆願し、オデュッセウスの帰国の許しを得る。神々の王ゼウスは、伝令使ヘルメースをカリュプソーの島に赴かせ、オデュッセウスを出立させる。しかし、その帰国を快く思わないポセイドーンは、オデュッセウスのいかだ三叉矛で難破させる。数日後、オデュッセウスは、海岸に流れ着き、オリーブの茂みで眠りにつく。
第6歌海岸に漂着したオデュッセウスとナウシカアー。

難破したオデュッセウスを海岸で助けたのは、パイアーケス人の王アルキノオスの王女ナウシカアーであった。
第7歌

ナウシカアー姫は父王の元に案内する。
第8歌

翌日は祝日になり、アルキノオス王のでオデュッセウスは楽人デーモドコスが歌うトロイア戦争の物語を聞き、密かに涙する。王は、オデュッセウスの素性を尋ねる。
第9歌

オデュッセウスは、自分の素性を話し、今までの長旅について話し始める。イスマロスの町、ロートパゴイ族、キュクロープスの話をする。
第10歌

アイオロスの風によって帰路に就こうとするが、船員が誤って風の袋を開け、来た方角に押し戻される。アイアイエー島の魔女キルケーに船員は豚にされてしまう。オデュッセウスは、ヘルメースに授けられた魔法を防ぐハーブモーリュにより助かる。キルケーは、オデュッセウスがオーケアノスを越えて、冥界に行かなければいけないことを話す。
第11歌

第11歌は「ネキュイア」(Nekyia)として知られる。

ヘーラクレースのジブラルタル海峡を越えて冥界に行く、母アンティクレイア幽霊やトロイア戦争で死んだ兵士の幽霊に会う。また、預言者テイレシアースに会う。
第12歌

オデュッセウスの航海と冒険の話の続き。キルケーの館より出て、仲間たちと船を進ませる途中、セイレーネス(セイレーンたち)という人の顔を持ち鳥の身体を持つ怪物がいる島の傍らを船は通過する。セイレーンたちの歌を聴いた者は、すべての記憶を失い、怪物セイレーンに近づきその餌食とされる。しかし、オデュッセウスは、その歌が聞きたく、仲間たちの耳は蜜蝋で塞ぎ、自分は帆柱に縛り付けもらい、身動きできないようにして、無事通過する。オデュッセウスは、セイレーンの島に進むのだと叫ぶが、仲間たちは歌もその言葉も聞こえないので、そのまま無視して進んだ。

次に、怪物スキュラのいる岩の横を通過する。スキュラは、六本の頭で仲間たち六人をくわえて捉えむさぼり食うが、オデュッセウスを初め、他の仲間は何とか無事にスキュラの岩の傍らを通過できた。

それから、さらにヘーリオスの家畜がいる、トリーナキエー島に一行は上陸する。オデュッセウスは、あらかじめに警告を受けていたので上陸を止めたが、仲間たちが上陸すると云って聞かず、やむをえず上陸する。すると、やはり凶事は起こり、部下がヘーリオスの家畜をみだりに殺し食用にしたため、家畜を世話していたヘーリオスの娘ラムペティエーはそのことを父に知らせた。


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