特にイスラム教徒の人口を多く抱えるインドでは、宗主国イギリスに対するイスラム教徒の民族運動の精神的支柱としてカリフが重要視された。これを恐れたイギリスは、カリフとなる者は預言者ムハンマドと同じクライシュ族に属するアラブ人でなくてはならないというスンナ派の規定を持ち出し、トルコ人のオスマン家がカリフを称するのは僭称であるとするキャンペーンを張ったが、オスマン帝国がスンナ派イスラム諸国で最大の強国であるという現実に支えられて、オスマン家のカリフ位に対する疑問はアラブ世界ですらもほとんど持たれることはなかった。
1876年に制定されたオスマン帝国憲法はこれを条文として盛り込み、オスマン帝国の君主はオスマン家の当主によって世襲され、世俗政治の最高権者であるスルタンと、ムスリムの宗教的な指導者であるカリフの権能を兼ねることが明文化される。 第一次世界大戦でオスマン帝国が敗北し帝国領が連合国によって分割占領されると、アナトリアでムスタファ・ケマルらを指導者とする抵抗運動が起こった。これに対して連合国はイスタンブールを占領し、イスタンブールのメフメト6世の政府も連合国の圧力に屈して帝国の分割反対を叫ぶ帝国議会を解散したため、アンカラの抵抗運動組織と帝国議会の勢力がアンカラに結集して大国民議会を設立してオスマン帝国政府に対抗する革命政権を打ち立てた。これにより生じた二重政府状態を解消するため、連合国との戦いを休戦させた大国民議会は1922年、イスタンブールのオスマン帝国政府を消滅させることを決定した。ムスタファ・ケマルはムスリムのカリフとして高い権威を持つオスマン家を廃位すれば、国内外の反対が避けられないと判断し、大国民議会にスルタン=カリフ制を廃止してスルタンとカリフの地位を分割し、さらにスルタン制を廃止してメフメト6世を廃位することを決議させた(トルコ革命)。 翌1923年には共和制が宣言されてトルコは共和国になり、さらに1924年、カリフとして即位したアブデュルメジト2世が廃位された。カリフ制の廃止
オスマン家の追放
トルコ追放以来、オスマン家はトルコ国外において年長者が帝位継承者として家長の座を継承しており、ニューヨーク在住のエルトゥールル・オスマンが1992年にトルコ政府の招きで一時帰国。その後1994年に第43代オスマン家当主に就任後の2004年にトルコ共和国のパスポートを取得して帰国。2009年に死去するまでイスタンブールに居住した。このようにオスマン家の国外追放は解かれたため、イスタンブールに帰った者も多い。エルトゥールル・オスマンの死去を受けて第44代オスマン王家当主にはアブデュルメジト1世の曾孫にあたるバヤジット・オスマン(2009年 - 2017年)が就任した。その後、バヤジット・オスマンも亡くなると、シリア在住のデュンダル・アリ・オスマンが就任。シリア内戦の激化に伴いトルコ、イスタンブールへ帰国。デュンダリ・アリ・オスマンが死去すると弟のハルーン・オスマンが当主に就任した。 以下にオスマン帝国滅亡後(帝政廃止後)の歴代オスマン家家長を挙げる。第38代以降は帝位請求者であり、身位は「オスマン帝国皇子」で称号は「殿下(His Imperial Highness)」である(オスマン帝国時代の歴代家長についてはオスマン帝国の君主を参照)。 スレイマン・シャー
歴代オスマン家家長
第36代メフメト6世(在位1918年 - 1922年) - 最後の皇帝
第37代アブデュルメジト2世(在位1922年 - 1924年) - 最後のカリフ
第38代アフメト・ニハト(1944年 - 1954年) - ムラト5世の孫
第39代オスマン・フアト(1954年 - 1973年) - アフメト・ニハトの異母弟
第40代メフメト・アブデュルアズィズ(1973年 - 1977年) - アブデュルアズィズの孫
第41代アリー・ヴァースブ(1977年 - 1983年) - アフメト・ニハトの子
第42代メフメト・オルハン(1983年 - 1994年) - アブデュルハミト2世の孫
第43代エルトゥールル・オスマン(1994年 - 2009年) - アブデュルハミト2世の孫
第44代バヤズィット・オスマン(2009年 - 2017年) - アブデュルメジト1世の曾孫
第45代デュンダル・アリ・オスマン (2017年 -2021年)-アブデュルハミト2世の曾孫
第46代ハルーン・オスマン(2021年-)-デュンダリ・アリ・オスマンの弟
系図
エルトゥールル
オスマン1世1
オルハン2
ムラト1世3
バヤズィト1世4 サヴジ
メフメト1世5
ムラト2世6
メフメト2世7
バヤズィト2世8 ジェム
セリム1世9
スレイマン1世10
セリム2世11
ムラト3世12
メフメト3世13
アフメト1世14 ムスタファ1世15
オスマン2世16 ムラト4世17 イブラヒム18
メフメト4世19 スレイマン2世20 アフメト2世21