エーテル_(物理)
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これは1818年にフレネルが予言した「速度vで動いている屈折率nの媒質中において、vと同じ方向に進む光の速さは、真空中の光速をcとして c n + ( 1 − 1 n 2 ) v {\displaystyle {\frac {c}{n}}+\left(1-{\frac {1}{n^{2}}}\right)v}

である」という法則を確認したものである。これは、スネルの法則や光行差を矛盾なく説明するための仮説だった。当初この仮説は、エーテルが物質に引きずられるために、光速の変化は媒質の速度よりも小さくなる、と解釈された。しかし、この解釈はヴィルヘルム・ヴェルトマン(ドイツ語版)が、フレネルの式中のnが光の波長に依存することを実証したため、エーテルの運動は波長に依存し得ないことから、否定された。さらに、特殊相対性理論の観点から、マックス・フォン・ラウエにより、フレネルの式はvがcよりも十分小さい場合にのみ成立し、一般の式は c / n + v 1 + v c / n c 2 ≈ c n + ( 1 − 1 n 2 ) v + O ( v 2 c 2 ) . {\displaystyle {\frac {c/n+v}{1+{\frac {vc/n}{c^{2}}}}}\approx {\frac {c}{n}}+\left(1-{\frac {1}{n^{2}}}\right)v+O\left({\frac {v^{2}}{c^{2}}}\right).}

であることが1907年に示された。また、1913年に発見されたサニャック効果1925年マイケルソン=ゲイル=ピアソン実験の結果は、特殊相対性理論による予想と合致していた。

1920年代には、デイトン・ミラー(英語版)によってマイケルソンと同様の実験が繰り返され、エーテルの風の存在を示唆する結果が得られた。しかし、これは従来のエーテル理論から予想される値よりも極めて小さく、また、他の研究者による追試ではミラーの結果は再現されなかった。後年の研究では、ミラーは温度変化による実験結果への影響を過小評価していたと考えられた。さらに高精度の実験が繰り返されたが、ついに、特殊相対性理論と矛盾する結果は得られなかった。
エーテルの否定

前述の「エーテルの風」の実験結果についてエーテルの風が検出されなかったことは、エーテルの概念そのものを否定する意見を生み出した。しかしこれは、あくまで絶対時間・絶対空間を前提とした場合にのみ成立する否定である。そして、アルベルト・アインシュタイン特殊相対性理論は絶対時間・絶対空間を否定し、エーテルの実在性を必要としないシンプルで統一的な理論体系として完成した。これにより、物体が「エーテル風」を受けて3次元空間内で実際に縮むとするローレンツの理論は必要とされなくなった。絶対座標系及び絶対性基準を必要としない。これが「相対性」理論と称される所以となっている。

アインシュタインは、より根本的な原理から「長さ」や「時間」といった性質を導出できるはずであると考えた。そして、ローレンツ変換マクスウェルの方程式から切り離し、時空間の性質を表す基本的な法則であると仮定した。また、アインシュタインは「エーテル」を物質を表す言葉とせず、真空であっても空間には重力場電磁場が存在することから、こうした空間を「エーテル」と呼ぶことを提唱した。この場合、エーテルには誰から見ても不変的な位置や時刻の概念が存在せず、従って「エーテルに対する相対運動」を考えることは無意味となる[9]

アインシュタインが相対性原理を最も根本的な原理として考えたのに対し、特殊相対性理論の基礎を造ったローレンツは相対性原理の根本がエーテルであると考え、「長さの収縮」や「時間の遅れ」に表されるように、物体の特性はエーテル中の運動により変化すると考えた。アインシュタインとの違いは、長さや時間について絶対的な基準を設けることを可能と考えるか否かである。これは物理哲学の問題であるため、決着はついていない。
エーテルと古典力学

エーテル仮説の最たる困難は、ニュートンの力学とマクスウェルの電磁気学の整合性である。ニュートン力学はガリレイ変換の下で不変だったが、マクスウェルの電磁気学はそうでなかった。従って、厳密には、少なくとも一方の理論は誤りであると考えざるを得ない。

ガリレイ変換とは、観測者の視点を変えることである。例えば時速80キロメートルで走る電車の中を、進行方向に向かって時速4キロメートルで歩いている乗客は、別の乗客からは、時速4キロメートルで動いているように見える。しかし、電車の外にいる人からは、この乗客は時速84キロメートルで動いているように見える。見る人が変われば運動も異なって見える、その見え方の違いを定式化したものがガリレイ変換である。そしてニュートンの運動方程式は、ガリレイ変換をしても、つまり誰から見ても、成立する。このように、常に成立することを「不変」という。

しかし、マクスウェルの方程式によれば、光の速さは誘電率と透磁率から定まるが、この値は、観測者の運動に依存しない。つまり、電車に乗っている人にとっても、外にいる人にとっても、光の速さは同じでなければならないことになる。すなわち、マクスウェルの方程式はガリレイ変換について不変ではない。全ての物理学理論はガリレイ変換について不変であるべきだと考えられていたため、「エーテルに対する絶対座標系」が存在し、マクスウェルの方程式はこの座標系においてのみ厳密に成立すると考えられた。

そこで、地球の、絶対座標系に対する運動に関心が持たれるようになった。マクスウェルは1870年代後半に、地球の運動が光の速さに及ぼす影響を調べることで、地球の絶対座標系に対する運動を知ることができると述べた。光の進行方向が地球の進行方向と一致すれば光は遅く見え、逆方向であれば光は速く見えるはずである、と考えた。季節あるいは昼夜が変化すれば観測者の運動の方向が反転するが、この運動の変化は光の速さに比べて小さいものの、検出不可能なほど小さくはないと考えられた。すなわち、地球はエーテルの中を進んでいるのであるから、地上ではいわば「エーテルの風」が吹いていることになり、これは光速の変化として捉えられると考えた。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ エーテルの語源はギリシア語アイテール (αιθ?ρ) であり、ラテン語を経由して英語になった。アイテールの原義は「燃やす」または「輝く」であり、古代ギリシア以来、天空を満たす物質を指して用いられた。英語では「イーサー」のように読まれる。
^ 例えば、惑星はその渦に乗って動いていると考えた[1]


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