エルフ
[Wikipedia|▼Menu]
[10]

彼らの最後の王の名は、ガンドアールヴといった。
スカンジナビアの民間伝承のエルフ

北欧神話キリスト教神話が混合した、スカンジナビアの民間伝承のエルフは、デンマークではelver、ノルウェーではalv、スウェーデンでは男性がalv、女性がalvaと呼ばれている。ノルウェーでの呼び名alvは、本当の民間伝承ではあまり使われず、使われるときはフルドフォルク(huldrefolk)やヴェッテル(vetter)の同義語として使われる。フルドフォルクとヴェッテルは大地に住む、エルフというよりはドワーフに近い存在であり、アイスランドのhuldufolkに相当する。

デンマークとスウェーデンでは、エルフとヴェッテルとは別の存在として登場する。イギリスの民間伝承に登場する昆虫翼を持つ妖精フェアリー(fairy)は、デンマークではalfer, スウェーデンではalvorと呼ばれているが、正しい訳語はfeerである。デンマークの童話作家アンデルセンの、『バラの花の精』(The Elf of the Rose)に登場するalfは花の中に住めるほど小さく、“肩から足に届くほどの翼”を持っている。アンデルセンはまた、『妖精の丘』(The Elfin Hill)でelvereについて書いている。この物語のエルフは、デンマークの伝統的な民間伝承に似て、丘や岩場に住む美しい女性であり、男たちを死ぬまで躍らせることができる。かの女たちはノルウェーとスウェーデンのフルドラ(huldra)のように、前から見ると美しいが、背中から見ると木の洞のような姿をしている。英国の民間伝承には小さく翼のないエルフも登場する。サンタクロースと同一視されているエルフを、ノルウェーではニッセ(nisse)、スウェーデンではトムテ(tomte)と呼んでいる。

北欧神話型のエルフは主に女性として、丘や石の塚に住むものとして、民間伝承にその姿を残している。[11]スウェーデンのalvor[12](単、alva)は森の中にエルフ王と住む、驚くほど美しい少女であった。彼らは長命で、この上なく気楽に暮らしていた。このエルフは例によって金髪で白い装いをしているが、スカンジナビアの民間伝承に登場する存在のほとんどがそうであるように、気分を損ねると手に負えなくなる。物語において、彼らはしばしば病気の精霊の役割を演じる。最も一般的でほとんど無害な例では、alvablast(エルフのひと吹き)と呼ばれるひりひりする吹き出物がある。これはふいごを使った強力なお返しのひと吹きで治すことができる。スカンジナビアに特有の岩石線画であるSkalgroparは、そう信じられていた用途から、alvkvarnar(エルフの粉引き場)として知られていた。誰であれエルフの粉引き場に供物(できればバター)を捧げれば、エルフをなだめることができた。これはおそらく古代スカンジナビアの「エルフの供儀」(alfablot)に起源を持つ習慣だろう。1850年のニルス・ブロメール作、『草原のエルフたち』(Angsalvor)

霧深い朝か夜の草原では、エルフたちが踊るのを見ることができた。彼らが踊ったあとには円状の何かができた。これはalvdanser(エルフの踊り)またはalvringar(エルフの輪)と呼ばれ、この輪の中で小便をすると、性病にかかると信じられていた。エルフの輪(フェアリーリング)は一般的に小さいキノコの輪(菌輪)でできていたが、別種のものもあった(地衣類や他の植物や、そのように見えて広がった鉱床など。また、森に自生するキノコは当時のスカンジナビア半島やロシアなど北方の貧しい農民にとっては、食肉に代わる食感とアミノ酸源である旨味を持った貴重な食材であった)。”森が湖に出会う岸辺で、あなたはエルフの輪を見出す。それは踏みならされた草が円を描く場所。エルフたちがここで踊ったのだ。Tisaren湖[13]のほとりで、わたしはそれを見た。それは危険であり、そこに踏み進むか、そこにあるものを取り壊せば、病を得る。”[11]

エルフの舞を見た人間は、ほんの数時間そうしていたつもりが、実際には多くの歳月が過ぎていることに気付く。中世後期のオーラフ・リッレクランスについての歌では、エルフの女王が彼を踊りに誘うが、彼はこれを断る。オーラフはエルフの女王と踊ったら何が起こるか知っており、また彼は自分の結婚式のために家路に就いていたからである。女王は贈り物を申し出るが、オーラフはこれも辞退する。女王は踊らないのなら殺す、と彼を脅す。しかしオーラフは馬で駆け去り、女王の差し向けた病で死ぬ。彼の花嫁も絶望のため息絶える[14]

エルフは美しく若いとは限らない。スウェーデンの民話、『Little Rosa and Long Leda』では、エルフの女性(alvakvinna)が、王の牛が今後かの女の丘で草を食べないことを条件に、ヒロインのRosaを助ける。かの女は老女であるとされ、その外見から人々はかの女が地下の住民の一人だと見抜いた[15]
ドイツのエルフ

ドイツの民間伝承では、エルフは人々や家畜に病気を引き起こしたり、悪夢を見せたりする、ひと癖あるいたずら者だとされる。ドイツ語での「悪夢(Albtraum)」には、「エルフの夢」という意味がある。より古風な言い方、Albdruckには、「エルフの重圧」という意味がある。これは、エルフが夢を見ている人の頭の上に座ることが、悪夢の原因だと考えられていたためである。ドイツのエルフ信仰のこの面は、スカンジナビアのマーラに対する信仰に一致するものである。それはまたインキュビサキュビに関する信仰とも似ている[16]。ドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』では、ドワーフのアルベリッヒ(Alberich)が重要な役割を演じる。アルベリッヒを字義通りに訳せば、「エルフ-王」となる。このようなエルフとドワーフの混同は、『新エッダ』ですでに見られる。アルベリッヒの名は、フランスの武勲詩に登場する妖精王Alberonを通じて、英語名オベロン (Oberon) となった。オベロンはシェイクスピアの『夏の夜の夢』に登場するエルフとフェアリーの王である。

ゲーテの詩で有名な、『魔王』 (Der Erlkonig = 「エルフ王」) の伝説は、比較的最近にデンマークで始まった。かれの詩は、ヨハン・ゴトフリート・ヘルダーが翻訳したデンマークの民間物語、『魔王の娘』をもとにしている。

ドイツとデンマークの民間伝承に登場する魔王は、アイルランド神話バンシーのように死の前兆として現れるが、バンシーとは異なり、死にそうな人物の前にだけ現れる。魔王の姿と表情から、どのような死が訪れるのかが分かる。魔王が苦しげな表情をしていれば、それを見た人は苦痛に満ちた死を迎え、魔王が安らかな表情をしていれば、穏やかな死を迎える。

グリム兄弟童話『こびとのくつや』には、靴屋の仕事を手伝う、身長1フィートほどで裸の、Heinzelmannchenと呼ばれる種族が登場する。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:78 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef