この詩は「神の聖なる子羊」(the holy Lamb of God)イエス・キリストが古代イングランドに来たという伝説をふまえたものだが、そうした古代の伝説そのものより、暗い否定的な現状(「雲に覆われた丘」(our clouded hills)、「闇のサタンの工場」(dark Satanic Mills))と闘おうとする意志(「ぼくは精神の闘いから一歩も引く気はない」(I will not cease from Mental Fight))にこの詩の強調点があると考えられる。
この詩が収められている『ミルトン』の序の部分でブレイクは、「肉の戦い」(Corporeal War)と「精神の闘い」(Mental War)とを対比させ、「軍隊、法廷、大学」に潜伏し「精神の闘いを挫折させ、できることなら永久に肉の戦いを長引かせようとする」(who would if they could, for ever depress Mental & prolong Corporeal War)者たちを告発しており、そこでの主張を「ぼくは精神の闘いから一歩も引く気はない」(I will not cease from Mental Fight)という詩の表現に反映させている。
また「闇のサタンの工場」(dark Satanic Mills)は、18世紀後半からの産業革命により英国に出現しはじめた工場群を指すと一般には解釈されているが、「帝国はもはや存在していない」(Empire is no more)(『天国と地獄の結婚』および『アメリカ ひとつの預言』)「すべての宗教はひとつである」(All Religions are One)(『すべての宗教はひとつである』)のような預言的言葉を残したブレイクの眼には、工場だけではなく、大英帝国という国家システムとそれを支えるさまざまな出張所(軍、法廷、大学、教会など)が、人間の血と汗を葡萄の汁のように搾り取る「闇のサタンの工場」のごときものに見えていたかも知れない。
編曲作品
エドワード・エルガー - オルガン伴奏の原曲を管弦楽伴奏に編曲。BBCプロムスではこの版が演奏されている。
エマーソン・レイク・アンド・パーマー - アルバム『恐怖の頭脳改革』の1曲目に、プログレッシブ・ロックにアレンジされた同曲が収録された。
ヴァンゲリス - 映画『炎のランナー』のサウンドトラックで、シンセサイザーと合唱を基本としたアレンジがなされた(この映画の原題"Chariots of Fire"は、詩の中にある"Chariot of fire"に由来する)。同名サウンドトラック・アルバムの6曲目(LPではA面の最後)に収録されている。
リック・ウェイクマン - ソロ・アルバムにピアノ・ソロで収録している。
2012年ロンドンオリンピックの開会式では、『スコットランドの花』『ダニー・ボーイ』『天国のパン(英語版)』を間にはさみ、少年のソロで歌唱された。
マーク・スチュワート&マフィア - アルバム『臆病者と20倍楽しむ方法 "Learning to Cope with Cowardice" 』にレゲエ/ダブの手法を用いてカヴァーされた同曲が収録された。
The JAMs(The KLF)- シングル「It's Grim Up North」のタイトル曲の最後に、同曲をサンプリングして使用。
脚注[脚注の使い方]^ Why was Jerusalem chosen as the WI’s anthem?
^ ‘Jerusalem’ and the Women’s Institute
^ "Rule Britannia and other music from Last Night of the Proms" NAXOS 8.553981のライナーノート
^ 山内久明, グレアム・ロー編著(1999) 『Voices from Britain』(放送大学教材)放送大学教育振興会
^ 邦訳について安藤潔「ブレイクの名詩再読」(関東学院大学人文学会紀要137号、2017)P.15、PDF-P.3[1]も参照されたし。
外部リンク
⇒Jerusalem.mp3
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