エベレスト
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他にも19世紀の終わりには「チョモカンカル」(Chomokangkar) というのが山の名前であるといわれたこともあったが、インド測量局は一貫して「エベレスト」の呼称を用い続けた[9]

1950年代に入って中国政府がチベット名「チョモランマ(Chomolangma、珠穆朗瑪)」を採用した。これは「世界の母なる女神」の意味であるという。1960年代にはネパール政府が「サガルマータ(世界の頂上の意味)」という名称を示した。この名前はネパールの著名な歴史学者バーブラーム・アーチャリヤが1938年に文芸誌『シャルダ』に紹介したものだが、カトマンズでは知られていない一部の地域での名称だった。ネパールは以後、この名称を使い続けている[10]

山の名称に人名を用いたことについては王立地理学協会やインド政庁でも議論があり、悪しき先例になると考えた人々も多かった。エベレスト山という名称が受け入れられたあとで、世界第2位のK2に関しても名称を「ウォー山(Mount Waugh、1860年)」あるいは「ゴドウィン・オースティン峰(Godwin-Austen、1886年)」としようという動きがあったが、いずれも地理学協会やインド政庁が受け入れなかった[11]
標高エベレストを中心に捉えたパノラマ写真国際宇宙ステーションから望むヒマラヤ山脈

1852年、インド測量局の技師でベンガル出身のインド人測量技師、ラーダナート・シクダールが240 km離れたインドから三角測量した結果、「ピーク15 (Peak XV)」という仮称で呼ばれていた山が世界最高峰であることを発見した。当時ネパールは「禁断の王国」であり、外国人は入ることはできなかったため、より近距離での測量は不可能だった。測量の結果によればピーク15の標高は約8840 mだった[12]

現在最新の標高は8848.86 mとされているが、ほかにもいくつかの異なる標高が測量結果として報告されている。2番目に高い山はK2で、標高8611 mである。2005年5月22日、中国のエベレスト測量隊はエベレストに登頂、数か月にわたる測量の結果、同年10月9日にエベレストの標高は 8844.43±0.21 mと公式に発表した。彼らはこの数値がこれまででもっとも正確な標高であるとしている。しかし、この標高はもっとも高い岩石の部分に基づくもので頂上部分の氷や雪は含んでおらず、モンブランテンリタグといったほかの高峰の標高の基準と異なっている。測量隊は雪と氷の厚みも測量しており、この結果は3.5 mだったことから、8848 mという従来の測量結果に誤りはなかったことになる。しかし実際のところ雪と氷の厚みは変化するため、正確なGPSによる測量がなければ、厳密な標高を求めることは不可能とされている。

現在もっともよく知られている8848 mという標高は、1955年のインドによる従来より近距離からの測量によって、初めて求められたものである。1975年の中国による測量でも同様の結果が得られた (8848.13 m)。どちらも頂上部分の氷雪の厚みを含んだものである。1999年5月、ブラッドフォード・ウォッシュバーン率いるアメリカエベレスト遠征隊は山頂にGPSユニットを設置、8850 mという測量結果を発表した。これによれば岩石部分の標高は8850 m、氷雪を含めるとさらに1 m高いとされている。ネパール政府は正式にこの測量結果を認めていないが、この数値は広く用いられている。1999年と2005年の調査双方にジオイドの不確かさという問題が指摘されている。

エベレストの標高は周辺のプレートテクトニクスにより年々高くなっており、山頂も北東へと移動していると考えられている。現在2つの報告書が、エベレストは4 mm/年の速さで標高が高くなっており、また山頂は年3–6 mmの速さで北東へ移動しているとしている。しかし、ほかの報告書の中には横方向への移動はもっと速く(27 mm/年)、標高は縮むことさえあるとしているものもある。またエベレスト山頂では風化が激しく、地殻変動によって一時的に8848 mを超えてもその分は侵食されてしまうため、エベレストの標高はこれ以上高くならないという説もある。

エベレストはもっとも高い海抜高度をもつ山である。しかし、ハワイマウナ・ケアエクアドルチンボラソがエベレストに代わる「世界最高峰」とする主張もある。マウナ・ケアの海面からの標高は4205 mだが、海底からの高さを考慮すればその標高は10203 mを超えることになる。また海抜高度6267 mのチンボラソ頂上はアンデス山脈の最高峰ですらないが、地球の形状は赤道に近づくほどに膨れており、地球の中心からの高さは6384.4 kmになる。これは、エベレストの6382.3 kmよりも2168 m高い。

また、もっとも深い海であるマリアナ海溝チャレンジャー海淵(深さ約10900 m)はエベレストの標高よりも深い。もしエベレストをチャレンジャー海淵の深さに沈めたとすれば、山頂は2 kmの深度に沈むこととなる。
地質エベレスト・ベースキャンプからの眺め
3つの層
山体はチョモランマ層、ノース・コル層、ロンブク層の3つに区分される。それぞれが低角度の衝上断層で境される異地岩体である。ゴンドワナ大陸の一部であったインド亜大陸白亜紀マダガスカル島から分離し、新生代ユーラシア大陸に衝突し、ヒマラヤ山脈ができた。頂上から8600 mのチョモランマ層はエベレスト層とも呼ばれ、石灰岩ドロマイトシルト岩からなる。オルドビス紀を示す三葉虫ウミユリの破片を含む。
標高ごとの地層
8600 mから7000 mのノース・コル層のうち、上部8200 mまでが有名な「イエローバンド」で、エベレストの写真にはっきり写る白い帯である。大理石が風化して黄褐色になったもので、ウミユリを含む。8200 mから7600 mは千枚岩片岩からなる。7600 mから7000 mは片岩に大理石薄層が挟まれる。以上の変成岩泥岩頁岩砂岩、石灰岩などからなるフリッシュが変成作用を受けたものである。7000 mより下のロンブク層は片岩と片麻岩で、さまざまな厚さの白粒岩の岩脈岩床が無数に貫入している。
生態系

山の主な生態系氷河であるが、周辺部の南側に森林、北側に草原湿地が広がる[13]。植物として主にカバノキビャクシン属、ヒマラヤゴヨウ(英語版)、モミ属タケバラ属ツツジツガ属が生え[14]、ヒマラヤトウヒ(英語版)、ヒマラヤマツ(英語版)、オニノヤガラオタネニンジンサンシチニンジン、インドイチイ(英語版)、スイセイジュ、ワタゲトウヒレン(英語版)などの固有種絶滅危惧種がある[15]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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