エビデンス_(医学)
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EBMの利点は以下の通りである[13][14]
根拠に基づく医療は、特に誤った診断、時代遅れの危険な検査や処置、薬の過量投与に関わる有害事象を減らす可能性がある。

診療ガイドラインは、臨床医、患者、そして医療関係者以外の医療受益者の間のコミュニケーションを改善するための共通の枠組みを提供する。

シフトの変更や複数の専門医に関連するエラーは、一貫したケアプランによって減少する。

治療やサービスの臨床的有効性に関する情報は、医療の提供者、消費者、購入者が限られた資源をより有効に活用するのに役立つ。

医療の進歩に伴い、医師や看護師はガイドラインが改善されるにつれて、新しい検査や治療に対応できるようになる。

EBMの欠点は以下の通りである[15][16]
ガイドラインは一般的なスクリーニングのために作られたものではなく、むしろ個々の医療従事者が特定の患者を評価する際の意思決定ツールとして作られたものであるというエビデンスがあるにもかかわらず、マネージド・ケア(英語版)側は医療費削減のために"不必要な"サービスを制限しようとするかもしれない。

医学文献は進化しており、しばしば論争がある。ガイドラインの作成にはコンセンサスが必要である。

ガイドラインを導入し、施設内の医療チーム全体を教育するには、時間と資源を必要とする(それは将来の効率化とエラーの減少によって回収できるかもしれない)。

医療従事者は、エビデンスに基づく医療を、患者、医師、その他の医療専門家の伝統的な関係を脅かすものとして抵抗するかもしれない。

ガイドラインに従わない場合、規制当局による法的責任や懲戒処分のリスクが高まる可能性がある。

「根拠に基づく医療」(evidence-based medicine: EBM)という用語は、1990年にマックマスター大学のゴードン・ガイアット(英語版)によって導入されたものである[17][18][19][20]
背景、歴史、定義

イブン・スィーナー

ヤン・ファン・ヘルモント

ジェームズ・リンド

ゴードン・ガイヤット

エビデンスに基づく考え方の萌芽

医学には、ヒトの疾病の予防、診断、治療に関する科学的探求の長い歴史がある[21][22]。11世紀、ペルシアの医師であり哲学者であったイブン・スィーナーは、現在の考え方や実践とほぼ同様のEBMへのアプローチを開発した[23][24]

対照臨床試験の概念は、1662年にヤン・ファン・ヘルモントによって、瀉血の実践に関して初めて記述された[25]。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}病院から、キャンプから、あるいは他の場所から、熱病や肋膜炎を患う200人、いや500人の貧しい人々を連れ出そう。彼らを半分に分けよう。くじを引いて、半分を私の分け前に、もう半分をあなたの分け前にしよう。私は瀉血をせずに彼らを治療するが、あなたは知っての通り、思慮深い瀉血をする…。私たちふたりは何回葬式をすることになるのだろう......。—ヤン・ファン・ヘルモント

対照臨床試験の実施と結果を記した最初の報告書は、スコットランドの海軍外科医ジェームズ・リンドによるもので、彼は海峡艦隊のHMSソールズベリー(英語版)に乗船し、ビスケー湾をパトロールしている間に壊血病の研究を行った。リンドは研究に参加した水兵を6つのグループに分け、さまざまな治療の効果を公平に比較できるようにした。リンドは、レモンオレンジで治療したグループの中で壊血病の症状や徴候が改善したことを発見した。彼は1753年にこの実験結果を記した論文を発表した[26]

医学における統計的手法の初期の批評は膀胱結石に関するもので1835年に発表されている[27]
臨床推論の限界の露呈

1967年にアルヴァン・ファインスタイン(英語版)が"Clinical Judgment"を出版し、臨床推論の役割に注目し、臨床推論に影響を与えうるバイアスを特定した[28]。1972年にアーチー・コクラン(英語版)が"Effectiveness and Efficiencyを出版し、それまで効果的であるとされてきた多くの診療には、それを裏付ける対照試験が無いと述べた[29]。1973年、ジョン・ウェンバーグ(英語版)は、医師がどのように診療を行っているかに大きな違いがあることを記録し始めた[30]。1980年代を通して、デイビッド・エディ(英語版)は、臨床推論の誤りやエビデンスのギャップについて述べた[31][32][33][34]。1980年代半ばには、アルビン・ファインスタイン、デイビッド・サケット(英語版)らが臨床疫学(英語版)の教科書を出版し、疫学的手法を医師の意思決定に応用した[35][36]。1980年代末には、ランド研究所のグループが、医師が行う処置の大部分が、彼ら自身の専門家の基準に照らしても不適切であると考えられることを示した[37]
"Evidence based"の誕生詳細は「診療ガイドライン」を参照

デイビッド・エディが「エビデンスに基づく(Evidence based)」という言葉を最初に使い始めたのは1987年で、専門医学会協議会から依頼された、診療ガイドラインを作成するための正式な方法を学ぶためのワークショップとマニュアルにおいてであった。このマニュアルは最終的に米国内科学会(American College of Physicians: ACP)(英語版)から出版された[38][39]。エディが「エビデンスに基づく」という言葉を初めて発表したのは1990年3月のことで、JAMA誌に掲載された論文で、エビデンスに基づくガイドラインと集団レベルの方針の原則を示したものであった。そこで、エディは、「政策に関連する利用可能なエビデンスを明確に記述し、標準的なケアの実践や専門家の信念ではなく、エビデンスに政策を結びつける。適切なエビデンスを特定し、説明し、分析しなければならない。政策立案者は、その政策がエビデンスによって正当化されるかどうかを判断しなければならない。根拠を書かなければならない。」と表現した[40]。彼は、1990年春にJAMA誌に発表された他のいくつかの論文の中で、エビデンスに基づく政策について論じている[40][41]。これらの論文は、1990年から1997年にかけてJAMA誌に発表された、集団レベルのガイドラインや政策を設計するための正式な方法に関する一連の論文28報の一部であった[42]
EBMの概念の確立

根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine: EBM)という言葉は、医学教育の文脈で、少し遅れて導入された。1990年秋、ゴードン・ガイアット(英語版)が、マックマスター大学での医学部入学予定者や新入生向けのプログラムに関する未発表の記述の中でこの用語を使用した[43]。ガイアットらは、2年後(1992年)に、医学の実践を教えるための新しいアプローチを説明するために、この用語を初めて発表した[3]

1996年、デイビッド・サケットらは、このEBMの支流を以下のように明確に定義した。「個々の患者のケアに関する意思決定において、現在の最良のエビデンスを良心的、明示的かつ思慮深く用いること…、また。


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