キラル分子のエナンチオマーは物質量、結合のエネルギーは等しい。そのためにほとんどの物理的性質(密度、融点、沸点、屈折率、熱伝導度など)は全く同じである。しかし、旋光性と、ある条件下での化学的性質(生化学的性質を含む)が異なることがある。 旋光性は不斉原子を有する分子の持つ電気双極子の構造が電磁波の偏光面を変えるので、対になるキラル分子は、絶対値が等しく正負が逆の偏光性を示す(右回りに回転させるほうが(+)で、左回りに回転させるほうが (-) である。それぞれ右旋性、左旋性という)。しかしながら旋光性の強度(旋光度)や装置の検出限界などによっては、キラル分子が見かけ上で光学活性を示さないこともある。 キラル分子のエナンチオマーは、アキラルな分子に対する反応性は全く同じだが、別なキラル分子との反応や、キラルな反応場下での反応(たとえば酵素反応)は反応性が異なる。この性質は有機合成においてエナンチオ選択性や不斉合成に応用される。機能性生体分子のほとんどはエナンチオマーを識別するので(基質選択性 アミノ酸や糖など生体分子の多くはキラルであり、原則として片方のエナンチオマーのみが使われている。非常に例外的に逆のエナンチオマーが使われている場合もある。地球上ではアミノ酸ではL体、糖ではD体が主流だが、このようなホモキラリティーが進化のいつの段階で生じたのかは化学進化上の未解決問題のひとつである。 キラル分子を用いた薬は、高いエナンチオマー純度が要求される。たとえば、サリドマイドを考えると、R体は睡眠薬や乗り物酔い止めとして有効な薬であるが、S体は催奇性を持っている。しかし、R体・S体を分離する(光学分割)することも可能だが、R体のみを服用しても比較的速やかに体内でS体に変化することがわかっている。このため、R体が催眠作用のみを持ち、S体のみが催奇性だけを現すという当初の一般薬理評価には近年疑問が持たれている。 孤立電子対(非共有電子対)が空間を占める時、キラリティーが生じることがある。この効果は特定のアミン、ホスフィン[5]、スルホニウムおよびオキソニウムイオン、スルホキシド、カルバニオンにまで拡がっている。主な要件は、孤立電子対は別として、その他の3つの置換基が互いに異なっていることである。キラルホスフィン配位子は不斉合成において有用である。 キラルアミンはエナンチオマーが稀にしか分離できないという意味において特別である。キラル中心の窒素反転
旋光性
生体分子活性
キラル中心「孤立電子対」を持つ化合物のキラリティーアミンの反転
脚注[脚注の使い方]
注釈^ ただし、実際の発音は/?ka??r?l/であり、少なくとも音素訳的な立場からは「カイヤラル」または「カイヤアル」の方が適切だと言える。
出典^ a b 日本化学会編 『標準化学用語辞典』 第2版、丸善、2005年、「不均斉」の項。ISBN 4-621-07531-4.
^ 文部省・日本化学会編 『学術用語集 化学編』 増訂2版、南江堂、1986年。ISBN 4524408215.
^ a b IUPAC Recommendations 1996; Basic Terminology of Stereochemistry. (外部リンク参照)
^ a b c 大木道則 『立体化学』 第4版、東京化学同人、2002年。ISBN 4-8079-0550-3.
^ Quin, L. D. A Guide to Organophosphorus Chemistry; John Wiley & Sons, 2000. ISBN 0-471-31824-8.
関連人物
豊岡利正
関連項目
立体異性体
光学異性体
不斉炭素
不斉合成
ラセミ体
プロキラリティー
ホモキラリティー
鏡像体過剰率
プファイファー効果
超臨界流体クロマトグラフィー
カイラル対称性(素粒子論)
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鏡像
外部リンク
⇒IUPAC (Basic Terminology of Stereochemistry)
⇒キラリティーとにおい(英語)
鏡の国の生命
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