「ヒエログリフ」の
ヒエログリフでの表記s? n mdw n?r
?????
草書体のヒエログリフで書かれたパピルス文書『アニの教訓』の一部
現存しているエジプト語の記録で一番多いのは、ヒエログリフで記された石碑などである。しかし、それよりはるかに多くの文書がヒエラティックやデモティックなどで、パピルスに記されていたが、パピルスは石碑に比べ耐久性に乏しく、ほとんどが失われてしまったと思われる。エジプト第19王朝からエジプト第20王朝の頃にパピルスに書かれた『死者の書』のような宗教文書には、草書体のヒエログリフが使用されている。草書体は、石碑などに刻まれたヒエログリフに比べ簡略化されているが、ヒエラティックほどには崩れていない書体で、彫られたヒエログリフには多用されている合字は省略されている(右画像参照)。ヒエラティックには「石工のヒエラティック」(lapidary hieratic) と呼ばれ、石碑などに彫られたものもある。エジプト語の発展史の最終段階にコプト文字が現れ、他の書記体系に取って代わった。ヒエログリフはエジプト語で s? n mdw n?r と表記され、「神々の言葉の文字」という意味である。ヒエログリフには2通りの使用法があった。1つは表意文字としての使用で、描かれている対象物そのものを文字が意味するものである。もう1つは、描かれた対象物の音価を仮借して、同じ音価の別の概念を意味するものである。 エジプト語の子音の音素は再建されてはいるものの、正確な音価は分からない部分も多く、さまざまな分類方法が試みられている。また、エジプト語の子音には有声と無声の区別に加え、他のセム語派の言語に見られるような強調子音の区別もある。 エジプト語が使用された期間は2,000年以上に及び、原エジプト語と新エジプト語の間の時間的な隔たりは、古ラテン語と現代のイタリア語の間の隔たりに相当する。その間、音韻にも相当の変化が起こったと考えるのが妥当であり、表記上の誤りに、そのような発音の変化を示す証拠と思われるものもある。 母音は文字上に表記されなかったため、エジプト語の母音体系の再建はさらに不確かなものになっている。しかし、エジプト語の中では唯一母音が表記されているコプト語や、エジプト語の人名のギリシア語への音訳など、他の言語に音訳された資料を基に一部判明しているものもある。そのようにして再建された「実際の発音」は、少数のエジプト語の専門家により使用されることはあるが、通常は便宜的にエジプト学において定められた発音方式を使用するのが一般的である。
音韻
破裂音
p
t
?
k
有声音
b
g
強調音
d
? (dj, ??)
q (?)
摩擦音
f
s (?)
?
?
h
z
? (x)
? (?)
s と z の区別は中王国時代に消滅していった。
? (?) は古王国時代には /d/ であったが、中王国時代に咽頭音に変化したものと考えられている。セム語の咽頭音に倣って「エジプト語の"ع"(アイン)」と呼ばれている。
? と ? がどのように区別されていたかについては議論があるが、有声と無声の対立のようなものであると考えられている。
? (?) はしばしば「エジプト語の "アレフ (Aleph)"」(声門閉鎖音)と呼ばれ、古い時代の r あるいは l の音素の名残であるとも考えられている。
[??], おそらく声門閉鎖音 ([?])
y ([????]) [j]
w, [w] または [u]
鼻音
m
n
流音
r
/l/ は n, r, j, nr または ? で表記されたり[2]、ライオンの形の2子音文字 rw で表記された。
声門閉鎖音 エジプト語のアレフ (? / ?) はもともと、歯茎接近音 /?/ であった可能性もある。 上述のように現在エジプト語を発音する際は、エジプト学の研究者たちによって定められた便宜的な発音方式が用いられる。その発音方式では、それぞれの子音に仮の音価が定められ、そこに仮の母音を挿入して発音する。「エジプト語のアレフ ? / ?」と「アイン ? / ?」は本来別々の子音を表しているが、ともに /a/「ア」の母音として発音する。また、y は母音 /i/「イ」として、w は母音 /u/「ウ」として発音する。それ以外の子音と子音の間には母音 /e/「エ」を挿入して発音する。例えば、王名のラムセスのエジプト語の表記は、[R?-ms-sw] であるが、上記の規則に従えば「ラー・メセスウ」(Ra-mesesu) という発音になる。意味は、「太陽神ラーが彼を生み出した」である。 古典的なエジプト語の子音のコプト語への変化は概ね下のとおり。 中エジプト語の子音コプト語(サイード方言)の子音 他の多くのアフロ・アジア語族の言語と同様、古、中エジプト語の語順はVSO型であったが、新エジプト語の時代に変化が起こり、コプト語ではSVO型になっている。以下は、エジプト語の中でも古典的言語として使用され続けた中エジプト語を中心に述べる。 エジプト語の名詞は、男性と女性の文法上の性に分類され、女性名詞は語尾に女性マーカーの -t が表示される。単数、双数、複数の3つの文法上の数にも分類され、男性名詞では、複数形の語尾には -w, 双数形の語尾には -wy のマーカーが付き、女性名詞では、複数形の語尾には -wt 双数形で -ty のマーカーが表示される。 定冠詞や不定冠詞はなかったが、新エジプト語の時代に現れて、その後は広く使用されるようになった。 エジプト語には3種類の人称代名詞がある:「接尾代名詞」(suffix)、「従属代名詞」(dependent)、そして「独立代名詞」(independent) である。また、動詞の不定詞に接尾して存在動詞を形成する語尾があるが、これを「4種類目の人称代名詞」[3]とする説もある。3種類の人称代名詞は下のとおりである。 接尾代名詞従属代名詞独立代名詞 下は指示代名詞の一覧である。 男性名詞に付く女性名詞に付く複数名詞に付く 最後は疑問代名詞の一覧である。 m??"誰? 何?"(従属代名詞として使用) エジプト語の動詞の形態は、定動詞と非定形の2種類に分類される。定動詞は様々な接辞により、人称、相(時制)、法、態(能動・受動)を表す。定動詞の代表的な変化形に「s?m.f形」と「s?m.n.f形」がある。s?mは、動詞「聞く」、-f は3人称単数男性の接尾人称代名詞で、「彼は聞く(聞いた)」という意味になるが、ここでの s?mや ?f は、動詞と人称接尾辞の代表として挙げられているものである。通常「s?m.n.f形」は完了した行為を表し、「s?m.f形」は状況により、完了、未完了いずれかを表す。非定形の動詞の形態には不定詞、分詞がある。不定詞は動詞を名詞化したもので、分詞は形容詞化したものである。このようなエジプト語の動詞変化は、その形態がはっきりと文字上に現れないものが多い。また、エジプト語の母音を表さない表記法とも相まって、文脈から判断する必要がある。 形容詞は、修飾する名詞の数・性に一致する。例: s nfr「よい男」に対し、st nfrt「よい女」。 また、名詞を修飾する場合、形容詞は名詞の後に置かれる。例: n?r ??「偉大な神」。 しかし、形容詞が述語となる文(句)では、主語である名詞の前に置かれる。例: ?? n?r「神は偉大なり」。 エジプト語には名詞の前に置かれる前置詞が数多くあり、下はその例である。 m"…で、に、から(場所・時)、…(の資格)として、…とともに" エジプト語の副詞は文末に置かれる。例: ?m.n. n?r ?m 「神がそこへ行った」、(?m) 「そこへ」が副詞である。 下はよく使われるエジプト語の副詞の例である。 ??"ここに(で、へ)"
エジプト学における発音方式
コプト語への変化
? (?)y, i
?t
?t, d
kk, g
?, ?, ??, ?, h, ?
文法
名詞
代名詞
1人称単数-??w????nk
2人称単数男性-ktwntk
2人称単数女性-ttnntt
3人称単数男性-fswntf
3人称単数女性-ssynts
1人称複数-nn??nn
2人称複数-tntnnttn
3人称複数-snsnntsn
pntnnn"この、その、これらの、それらの"
pftfnf"あの、あれらの"
pwtwnw"この、その、これらの、それらの"(古い形)
p?t?n?"この、その、これらの、それらの"(口語表現、新エジプト語では通常の表現)
ptr"誰? 何?"(独立代名詞として使用)
???"何?"(従属代名詞として使用)
???st"何?"(独立代名詞として使用)
s??"どの?"(独立・従属代名詞どちらとしても使用)
動詞
形容詞
前置詞
n"…に(人)、…のために、…の"
r"…に(人・場所)、…について、…より(比較)"
??n"…によって"
?n?"…とともに"
m?"…のように"
?r"…の上に"
??"…の後に、…の周りに"
?r"…の下に、…しながら(動詞の不定詞とともに)"
tp"…の上に"
?nt"…の前に"
?r"…以来"
副詞
??m"そこに(で、へ)"
?n?"どこに(で、へ)"
sy-nw"いつ"(直訳は "どの・時")
m??-???"どのように"(直訳は "何・のように")
r-m??"なぜ"(直訳は "何の・ために")
脚注^ a b ⇒Coptic language's last survivors Daily News Egypt
^ another interpretation is suggested by Christopher Ehret: Reconstructing Proto-Afroasiatic (Proto-Afrasian): Vowels, Tone, Consonants, and Vocabulary. University of California Publications in Linguistics 126, California, Berkeley 1996. ISBN 0520097998
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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