エウクレイデス
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もうひとつの重要な文献としてパップスのものがあるが、こちらにはペルガのアポロニウスについて言及する際に「(彼は)アレクサンドリアのエウクレイデスの弟子たちと長く一緒に過ごし、そこでそのような科学的思考法を身につけた」とある[9]

その他に有名な逸話としては、ユークリッドに数学を学んでいたある男が「これらの命題をすることで何の役に立つのですか」と言う問いに対し、使用人を呼び「この男にお金を与えなさい。彼は学んだものから利益を得ようとしているから」と答えた。当時の数学の目的は何か実用に役立つためのものではなく「それ自身の美しさのため」にあったのである。

16世紀後半になると、エウクレイデスの著作はイエズス会を通じて中国のにも伝えられた。イエズス会士のマテオ・リッチは、徐光啓との共同作業を通じて著作を漢訳し、1607年に『幾何原本』を刊行した。
実在性

エウクレイデスという名はギリシア語で「よき栄光」を意味する。「原論」の内容が、1人で書くにしてはあまりに膨大であることから、その実在を疑う説もあり、それによると『原論』は複数人による共著であり、エウクレイデスは共同筆名とされる[10]

エウクレイデスは、生没年も死因も一切不明であり、同時代人の有名人との関係からおおまかに推測されているだけである。肖像や外見の記録も後世に伝わっていないことから、エウクレイデスとされる絵や彫像は全て、芸術家たちによる想像図である。

ローマバチカン宮殿にあるラファエロの有名な壁画「アテナイの学堂」にも、プラトンとアリストテレスが降りてくる階段の足元で、コンパスを使って図形を描いている姿が描かれている。
著作
原論エウクレイデスの『原論』の最古の写本の断片。オクシリンコスで見つかったもので、紀元100年ごろのものとされている。描かれている図は第2巻命題5のもの[11]詳細は「ユークリッド原論」を参照

『原論』に書かれていることの多くはもっと以前の数学者の成果に由来するが、エウクレイデスの功績はそれらを1つにまとめて提示し、一貫した論理的枠組みを構築して厳密な数学的証明を行っている点にある[12]

現存する初期の『原論』の写本にはエウクレイデスへの言及がなく、多くの写本には「テオンの版より」あるいは「テオンの講義集」とある[13]。また、バチカンが保管している第一級の写本には、作者についての言及が全くない。エウクレイデスが『原論』を書いたとする際の唯一の根拠は、プロクルスの注釈本である。

『原論』には幾何学だけでなく、数論についての記述もある。完全数メルセンヌ数の関係、素数が無限に存在すること、因数分解についてのユークリッドの補題(ここから素因数分解の一意性についての算術の基本定理が導かれる)、2つの数の最大公約数を捜すユークリッドの互除法などが含まれる。

『原論』にある幾何学体系は長い間単に「幾何学」と呼ばれ、唯一の幾何学だとみなされており、論証に穴はないと思われていた。しかし、19世紀の「非ユークリッド幾何学」の発見をきっかけに、数学の基礎がより整備されると、幾何学には様々な体系が可能であること、ユークリッドの公理系には不足している公理があることが判明した。公理的な体系の作り方も見直され、「公理」「公準」はともに公理とされ、例えば「点」の定義のように、証明の中で用いられない定義は姿を消した。『原論』の議論には、現代的な視点からは無用な遠回りも散見される。こういった違いは、必ずしも全て不備によるものではなく、当時の幾何学についての考え方が現在と異なっていたことが指摘される。

今では、ユークリッドが対象とした幾何学を、現代的に見直したものを「ユークリッド幾何学」と呼ぶ。
その他の著作オックスフォード大学自然史博物館にあるエウクレイデスの像

『原論』に加えて、エウクレイデスの著作とされているものが5作現存している。いずれも『原論』と論理構造は同じであり、定義と命題の証明で構成される。
デドメナ/ダータ (Data)
幾何問題における与えられた情報の性質と意味を扱っている。その主題は『原論』の最初の4巻と密接に関連している。
図形分割論 (On Divisions of Figures)
アラビア語訳が部分的に現存している。幾何学図形を指定されたで2つ以上に分割する問題を扱っている。紀元3世紀ごろのアレクサンドリアのヘロンの著作に似ている。
カトプトリカ (Catoptrics)
鏡についての数学的理論、特に平面鏡や球面の凹面鏡の上に形成される像についての著作である。エウクレイデスの著作かどうかは疑わしい。アレクサンドリアのテオンの作とする説もある。
パエノメナ (Phaenomena)
球面天文学についての論文で、ギリシャ語版が現存している。紀元前310年ごろ活躍したピタネのアウトリュコスの『運動する球体について』に酷似している。
オプティカ (Optics)
透視図法についての最古の現存するギリシャ語の著作。この中では視覚は目から出ている離散的な光線によるものだというプラトン学派の説を踏襲している。重要なのは4番目の定義で、「より大きな角度で見える物は大きく、より小さな角度で見える物は小さく、同じ角度で見える物は同じである」としている。その後の36の命題で、物体の見た目の大きさと距離とを関係付け、様々な角度から円柱と円錐を見たときの見え方を考察している。命題45では、実際の大きさが異なる2つの物体があるとき、それらが同じ大きさに見える地点が必ず存在するとしている。パップスはこれを天文学においても重要だと考え、エウクレイデスのオプティカをパエノメナと共に、クラウディオス・プトレマイオスの『アルマゲスト』の前に学ぶべきものとした。

次に挙げる著作はエウクレイデスのものとされているが、現存しない。
円錐曲線論 (Conics)
円錐曲線についての著作で、後にペルガのアポロニウスがこの主題を発展させた。


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