エウクレイデス
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完全数メルセンヌ数の関係、素数が無限に存在すること、因数分解についてのユークリッドの補題(ここから素因数分解の一意性についての算術の基本定理が導かれる)、2つの数の最大公約数を捜すユークリッドの互除法などが含まれる。

『原論』にある幾何学体系は長い間単に「幾何学」と呼ばれ、唯一の幾何学だとみなされており、論証に穴はないと思われていた。しかし、19世紀の「非ユークリッド幾何学」の発見をきっかけに、数学の基礎がより整備されると、幾何学には様々な体系が可能であること、ユークリッドの公理系には不足している公理があることが判明した。公理的な体系の作り方も見直され、「公理」「公準」はともに公理とされ、例えば「点」の定義のように、証明の中で用いられない定義は姿を消した。『原論』の議論には、現代的な視点からは無用な遠回りも散見される。こういった違いは、必ずしも全て不備によるものではなく、当時の幾何学についての考え方が現在と異なっていたことが指摘される。

今では、ユークリッドが対象とした幾何学を、現代的に見直したものを「ユークリッド幾何学」と呼ぶ。
その他の著作オックスフォード大学自然史博物館にあるエウクレイデスの像

『原論』に加えて、エウクレイデスの著作とされているものが5作現存している。いずれも『原論』と論理構造は同じであり、定義と命題の証明で構成される。
デドメナ/ダータ (Data)
幾何問題における与えられた情報の性質と意味を扱っている。その主題は『原論』の最初の4巻と密接に関連している。
図形分割論 (On Divisions of Figures)
アラビア語訳が部分的に現存している。幾何学図形を指定されたで2つ以上に分割する問題を扱っている。紀元3世紀ごろのアレクサンドリアのヘロンの著作に似ている。
カトプトリカ (Catoptrics)
鏡についての数学的理論、特に平面鏡や球面の凹面鏡の上に形成される像についての著作である。エウクレイデスの著作かどうかは疑わしい。アレクサンドリアのテオンの作とする説もある。
パエノメナ (Phaenomena)
球面天文学についての論文で、ギリシャ語版が現存している。紀元前310年ごろ活躍したピタネのアウトリュコスの『運動する球体について』に酷似している。
オプティカ (Optics)
透視図法についての最古の現存するギリシャ語の著作。この中では視覚は目から出ている離散的な光線によるものだというプラトン学派の説を踏襲している。重要なのは4番目の定義で、「より大きな角度で見える物は大きく、より小さな角度で見える物は小さく、同じ角度で見える物は同じである」としている。その後の36の命題で、物体の見た目の大きさと距離とを関係付け、様々な角度から円柱と円錐を見たときの見え方を考察している。命題45では、実際の大きさが異なる2つの物体があるとき、それらが同じ大きさに見える地点が必ず存在するとしている。パップスはこれを天文学においても重要だと考え、エウクレイデスのオプティカをパエノメナと共に、クラウディオス・プトレマイオスの『アルマゲスト』の前に学ぶべきものとした。

次に挙げる著作はエウクレイデスのものとされているが、現存しない。
円錐曲線論 (Conics)
円錐曲線についての著作で、後にペルガのアポロニウスがこの主題を発展させた。アポロニウスの初期の4作はエウクレイデスの著作に基づいていると見られる。パップスによれば、「アポロニウスはエウクレイデスの円錐曲線についての4巻に自身の4巻を追加し、『円錐曲線』全8巻を完成させた」としている。アポロニウスの著作は瞬く間に広まり、パップスのころにはエウクレイデスの著作は既に現存しなかった。
ポリスマタ (Porisms)
円錐曲線についての著作から派生した内容という説もあるが、詳しいことは書名の意味も含めてよく分かっていない。
誤謬推理論 (Pseudaria または Book of Fallacies)
推論上の誤り(誤謬)についての初歩的教科書。
曲面軌跡論 (Surface Loci)
平面上の軌跡 (loci) または、何らかの曲面をなす軌跡を扱ったものと見られる。二次曲面を扱っていたという説もある。

アラビア語の文献によれば、エウクレイデスは力学に関する著書も残していたという。On the Heavy and the Light には9つの定義と5つの命題があり、アリストテレス学派の物体の運動と比重の概念を扱っていた。On the Balance ではてこを扱っている。また、別の断片ではてこの先端が描く円について論じている。これら3つの断片は相互に補い合っていることから、エウクレイデスが書いた力学についての1つの著作の断片ではなかったかという説も示唆されている。
日本語訳

『幾何学』 巻之1-3、山田昌邦訳、開拓使、1873年6月。NDLJP:828426。  - 『原論』第1巻の英訳の邦訳。

格拉克(クラーク)述『幾何学原礎』 7冊(首巻、1-6巻)、山本正至・川北朝鄰訳、文林堂、1875-1878。NDLJP:828479。  - 格拉克(クラーク)が静岡学問所で英語で口述した『原論』第1-6巻の邦訳。演習問題が追加されている。

アイザック・トドハンター『宥克立(ユークリッド)』長沢亀之助訳、川北朝鄰閲、東京数理書院、1884年10月(原著1862年)。NDLJP:828946。  - I. Todhunter, Elements of Euclid (1862)の邦訳。

ハイベア、メンゲ 編『ユークリッド原論』中村幸四郎寺阪英孝伊東俊太郎池田美恵訳・解説、共立出版。  - 『原論』全13巻の最初の邦訳。

(ハードカバー)1971年7月。ISBN 4-320-01072-8

(抜粋)『世界の名著9』 池田美恵訳 中央公論社 1972年


(縮刷版)1996年6月。ISBN 4-320-01513-4

(追補版)2011年5月。ISBN 978-4-320-01965-2


ハイベア、メンゲ 編『エウクレイデス全集』 (全5巻)、東京大学出版会。  - 「エウクレイデス全集」の世界初の近代語訳。

第1巻 原論I‐VI、斎藤憲・三浦伸夫訳・解説、2008年1月。ISBN 978-4-13-065301-5

第2巻 原論VII?X、斎藤憲 訳・解説、2015年8月。ISBN 978-4-13-065302-2

第4巻 デドメナ/オプティカ/カトプトリカ、斎藤憲・高橋憲一訳・解説、2010年5月。ISBN 978-4-13-065304-6


脚注・出典[脚注の使い方]^ 『あて字用例辞典:名作にみる日本語表記のたのしみ』雄山閣、1994年。 
^ a b “エウクレイデス”. コトバンク. 2024年6月4日閲覧。
^ a b “光の直進や反射の法則を発見した科学者”. Canon. 2024年6月4日閲覧。
^ a b “ユークリッド とは”. goo辞書. 2024年6月4日閲覧。
^ a b “ユークリッド(ギリシア名:エウクレイデス)”. Mathematicaマテマティカ. 2024年6月4日閲覧。
^ a b “図形教材の原典『原論』から教材研究を深めよう!”. 明治図書. 2024年6月4日閲覧。
^ Ball 1960, pp. 50?62
^ Boyer 1991, pp. 100?19
^ Macardle, et al. (2008). Scientists: Extraordinary People Who Altered the Course of History. New York: Metro Books. g. 12.
^ Joyce, David. ⇒Euclid. Clark University Department of Mathematics and Computer Science.
^ Morrow, Glen. A Commentary on the first book of Euclid's Elements
^Euclid of Alexandria. The MacTutor History of Mathematics archive.
^ Boyer 1991, p. 1


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