ウルズラ・フォン・デア・ライエン
[Wikipedia|▼Menu]
保育所増設の主張に対して、キリスト教社会同盟(CSU)を中心とする与党から「伝統的家族観を捨て去ったもので、従来の支持層が離反する」と批判が巻き起こったのに対し、首相メルケルをはじめとする党執行部や連立相手のドイツ社会民主党(SPD)[5]、野党同盟90/緑の党左翼党[6]からは支持の声が出るなど、議論は錯綜した。カトリック教会のヴァルター・ミクサ・アウクスブルク司教は猛反対したのに対し、ベルリン枢機卿ゲオルク・シュテルツィンスキーやドイツ福音主義教会(プロテスタント)の常議員会議長マルゴート・ケースマンは賛意を示した。しかし、フォン・デア・ライエンの提案は連立内の委員会で審議停止とされた[7]

雑誌デア・シュピーゲルでのクリスタ・ミュラー(元財務相オスカー・ラフォンテーヌの当時の妻で、左翼党ザールラント州家族政策広報官)との論争で、ミュラーは「保育所は子供の情操上好ましくない」とフォン・デア・ライエンの政策を批判し、ミクサ司教による批判に同調した。このため左翼党内でもミュラーを批判する声が上がった。
インターネット規制インターネット規制に反対するデモ(2009年3月)

2009年には児童ポルノ規制のためインターネット規制を強化することを提案して大きな議論を巻き起こした。インターネットサービスプロバイダーに対して児童ポルノ提供サイトの基本的な秘密情報を連邦刑事局に提供することを義務づけるもので、法学者やIT専門家、人権活動家、被害者、被害者保護団体による議論を巻き起こした。この法律案は大統領ホルスト・ケーラーが署名を拒否したこともあり、2010年2月に取り下げられた[8]
労働・社会大臣

2009年ドイツ連邦議会選挙ではニーダーザクセン州の比例代表リストから当選してドイツ連邦議会議員に初当選した。

同年10月に成立した第2次メルケル内閣では、保健分野を外した家族相として留任する。保健相には自由民主党フィリップ・レスラーが就任した。同年11月、労働・社会相フランツ・ヨーゼフ・ユングが国防相当時の不祥事の責任を取って辞任したため、その後任に転じた[9]
国防大臣と首相候補としての挫折

2013年に発足した第3次メルケル内閣では、ドイツ史上初となる女性国防大臣に就任した[10]2018年に発足した第4次メルケル内閣でも国防大臣に留任。当初はメルケルの後継者とも目されていたが、ドイツ軍の装備と即応体制の杜撰さや国防省での相次ぐスキャンダルで人気は大きく低下していった。SDPマルティン・シュルツ(元欧州議会議長)からは、「最も弱い閣僚」と酷評された[11]。また、その上昇志向の強さが党内でも忌避され、「ポスト・メルケル」のレースからは完全に脱落していった。結局1980年にCDU内での首相候補争いに敗れた父親エルンスト・アルブレヒトに続き、彼女もドイツの首相になる悲願を断たれた。だがそこでメルケルは、国内では不人気のフォンデアライエンに欧州委員長ポストを与えて長年の功に報いると共に、国防相に新たな後継者候補を据えて政権浮揚を模索するようになる[12]
欧州委員長フィンランドのサンナ・マリン首相ヘルシンキで会談(2022年2月3日)

第15代欧州委員会委員長の選出は、独仏間や東西間の対立により難航した[11]。紆余曲折の後、ポーランドやハンガリーといった東欧諸国の支持により[13]、2019年7月2日にブリュッセルで開催された欧州連合首脳会議にて、次期欧州委員会委員長に指名された[14]

7月16日欧州議会で賛成383票、反対327票の僅差で委員長就任が承認され、初の女性欧州委員長になることが正式に決定した[15]。これにより国防相を辞任し、後任には当時メルケル後継の最有力候補と見做されていたCDU党首のアンネグレート・クランプ=カレンバウアーが就任した[16]。383票は、決定に必要とされる374票を僅か9票上回ったに過ぎなかった[17]。11月28日には欧州議会でフォン・デア・ライエンを委員長とする欧州委員会の新体制が賛成461、反対151、棄権89票で承認され、フォン・デア・ライエン体制が12月1日に発足することが決定した[18]

2019年末から始まったCOVID-19パンデミックは、翌年3月に欧州でも急拡大した。各国は自国民を守るためシェンゲン協定を一時停止して国境閉鎖を行い[19]、フォン・デア・ライエンはこれを批判したが、逆に非難を受けた[20]。医療や経済を支援する政策を取り決めた[21]

2021年、法の支配に反する法整備を進めるポーランドに対し、「EUの法秩序の一体性に対する真っ向からの挑戦だ」として資金提供停止を示唆した[22]。2022年より、加盟国による法の支配の原則に対する違反が認められる場合に、当該加盟国へのEU予算執行の一時停止などの措置をとることができる規則が制定された[23]

米英豪によるAUKUS創設において、フランスがオーストラリアに潜水艦共同開発計画を破棄された際には、「加盟国の一つが許されない扱いを受けている」と批判した[24]

2022年ロシアのウクライナ侵攻が起きると、フォン・デア・ライエンはウクライナ全面支持を打ち出し、2月27日にはインタビューで「ウクライナはわれわれの一員。加入してほしい」と述べた。これを受け、翌日にウクライナは特別な手続きですぐに加盟できるようEUに要請した。しかしながら、現実的な問題としてコペンハーゲン基準を満たさず、加入候補国にもなれないウクライナが加入するのはEUの秩序を乱す行為であり、EUのミシェル大統領は3月1日、ウクライナの立場に理解を示す一方で、「難しいだろう。各国の意見はさまざまだ」と述べた。また、エリック・マメル欧州委員報道官により、フォン・デア・ライエンの発言は撤回された。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:65 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef