日本語表記としてはラテン語に近い「ウィールス」や「ウイルス」あるいはドイツ語に近い「ビールス」や「ヴィールス」があった[7]。1949年(昭和24年)に日本ウイルス学会の前身となる「ヴィールス談話会」が発足した後、1953年(昭和28年)に日本ウイルス学会が設立されたのを機に、「ウイルス」という表記が採用された[7]。その一方、日本医学会はドイツ語発音に由来する「ビールス」を用い、1970年代頃は「ビールス」呼称が学校や一般で使用されていた。現在は宿主に関わらず「ウイルス」が正式名称である[21][22]。表記上は「イ」が大文字の「ウイルス」と小文字の「ウィルス」があるが、メディアでも直音の大文字で表記されることが一般的になっている[7]。
なお、ウイルスの細胞外粒子を表す「英: virion」の語には、「ウイリオン」ではなく「ビリオン」の読み表記が定着している。「:en:virus」および「:zh:病毒」も参照 ウイルスは細胞を構成単位とせず、自己増殖はできないが、遺伝子を有するという、非生物・生物両方の特性を持っている。自然科学・生物学上、生物・生命の定義を厳密に行うことはできていないため、便宜的に細胞を構成単位とし、代謝し、自己増殖できるものを生物と呼んでおり、ウイルスは「非細胞性生物」あるいは「生物学的存在」と見なされている[23]。感染することで宿主の恒常性に影響を及ぼし、病原体としてふるまうことがある。 ウイルスを対象として研究する分野はウイルス学と呼ばれる。 一般的な原核生物
特徴
一般的な生物との違い
(例:大腸菌)マイコプラズマナノアルカエウム・エクウィタンスリケッチアクラミジアファイトプラズマウイルス
構成単位細胞ウイルス粒子
遺伝情報の担体DNADNAまたはRNA
増殖様式対数増殖
暗黒期の存在
ATPの合成できるできないできるできない
タンパク質の合成できるできない
細胞壁あるないあるない
単独で増殖できるできない
(他生物に付着)できない(偏性細胞内寄生性)
ウイルスは以下のような点で、一般的な生物と大きく異なる。
非細胞性で細胞質などは持たない。基本的にはタンパク質と核酸からなる粒子である(→ウイルスの構造)。
大部分の生物は細胞内部にDNAとRNAの両方の核酸が存在するが、ウイルス粒子内には基本的にどちらか片方だけしかない。
他のほとんどの生物の細胞は2nで指数関数的に増殖するのに対し、ウイルスは一段階増殖をする。また、ウイルス粒子が見かけ上消えてしまう「暗黒期」が存在する。
代謝系を持たず、自己増殖できない。他生物の細胞に寄生することによってのみ増殖できる[24]。
自分自身でエネルギーを産生せず、宿主細胞の作るそれを利用する[24]。
なお、4はウイルスだけに見られるものではなく、リケッチアやクラミジア、ファイトプラズマなど一部の細菌や真核生物にも同様の特徴を示すものがある。
細胞は生きるのに必要なエネルギーを作る製造ラインを持っているが、ウイルスはその代謝を行っておらず、代謝を宿主細胞に完全に依存し、宿主の中でのみ増殖が可能である。ウイルスに唯一できることは他の生物の遺伝子の中に彼らの遺伝子を入れる事である。厳密には自らを入れる能力も持っておらず、細胞が正常な物質と判別できず、ウイルスのタンパク質を増産するのを利用しているだけである。
これらの性質から、ウイルスを生物と見做さない言説も多いが、メガウイルス、ミミウイルスなど、細菌に非常に近い構造を持つウイルスも存在することから、少なくとも一部は遺伝子の大部分を捨て去り、寄生に特化した生物の一群由来であろうことが強く示唆されている。一方、レトロウイルスとトランスポゾンの類似性もまた、少なくとも一部のウイルスは機能性核酸が独立・進化したものである可能性を強く示唆している。