ウィリアム・フォークナー
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愛読書は『ドン・キホーテ』、『白鯨』、『ボヴァリー夫人』、『カラマーゾフの兄弟』、『旧約聖書』、シェイクスピアチャールズ・ディケンズジョゼフ・コンラッドであり、二, 三年おきに読み返していた。

作風・影響「ローアン・オーク(英語版)」の仕事場に置かれた愛用のタイプライター

フォークナーの最初の長編『兵士の報酬(英語版)』(1926年)は、第一次大戦で記憶を失った青年の物語というロスト・ジェネレーションらしい主題の作品、また第2作『蚊(英語版)』(1927年)はハックスレー風の風刺的な小説である。フォークナーが独自の作品世界を生み出し始めるのは、第3作『サートリス(英語版)』(1929年)からとなる。ヨクナパトーファ・サーガ第1作に当たるこの作品は、主題自体は第1作に近いが、旧家であるサートリス家の没落を、主人公の曽祖父の因縁の物語として多くの自伝的要素を盛り込みつつ書き起こしており、以後の独自の文学的世界へと踏み出す端緒となった。

続く第4作『響きと怒り』(1929年)で、フォークナーは作品の表現形式を一変させる。この作品では章ごとに別の語り手をおき、ことに冒頭の章に白痴の人物を語り手に置くことによってまず混乱した情景を提示し、それが他の章を読み進めるに連れて次第に物語が明確化していくという構成をとり、またこの作品から「意識の流れ」の手法によって、語り手の現実的な視点に回想や意識下の思考(これらはしばしばイタリック体で書かれている)を挿入することによって語りを重層化させる試みが行なわれている。そしてこれらに加えて、ある作品で主役として登場した人物を他の作品で言及したり、あるいは主要人物として再登場させるといった方法で各作品を結びつけ、作品世界に広がりを持たせている。

響きと怒り』の語り手の一人クェンティン・コンプソンが再登場する『アブサロム、アブサロム!』(1936年)では、南北戦争の頃に南部にやってきた怪物的人物サトペンの一家の崩壊を、現代の若者であるコンプソンが関係者の証言を聞き、複数の証言者の語りが重なることによって再構成されていくという構造を取る。このほか「サーガ」外の『野生の棕櫚』では、「野生の棕櫚」と「オールド・マン」という別個の作品を1章ずつ交互に提示して1冊にまとめるといった実験的手法が試みられた。

このようなフォークナーの重層的な物語手法や方法実験、土俗的・因習的な主題を持つ物語世界は後世の多くの作家に影響を与えており、その中にはトニ・モリソンガブリエル・ガルシア=マルケス莫言、日本人では井上光晴大江健三郎中上健次といった作家が含まれる。日本での著名な研究者は大橋健三郎平石貴樹などである。
主要著作

※はヨクナパトーファ・サーガの構成作品である。
長編小説

タイトル原題出版年出版元
兵士の報酬
(英語版)Soldier's Pay1926年Boni & Liveright
蚊(英語版)Mosquitoes1927年Boni & Liveright
サートリス(英語版)Sartoris1929年Harcourt, Brace
響きと怒りThe Sound and the Fury1929年Jonathan Cape & Harrison Smith
死の床に横たわりてAs I Lay Dying1930年Jonathan Cape & Harrison Smith
サンクチュアリSanctuary1931年Jonathan Cape & Harrison Smith
八月の光Light in August1932年Smith & Haas
標識塔(パイロン)(英語版)Pylon1935年Smith & Haas
アブサロム、アブサロム!Absalom, Absalom!1936年ランダムハウス
野生の棕櫚The Wild Palms1939年ランダムハウス
村(英語版)The Hamlet1940年ランダムハウス
墓地への侵入者(英語版)Intruder in the Dust1948年ランダムハウス
尼僧への鎮魂歌(英語版)Requiem for a Nun1951年ランダムハウス
寓話(英語版)A Fable1954年ランダムハウス
町(英語版)The Town1957年ランダムハウス
館(英語版)The Mansion1959年ランダムハウス
自動車泥棒(英語版)The Reivers1962年ランダムハウス

短編集

エミリーに薔薇を(A Rose for Emily、1930年)『フォーラム』誌掲載

これら十三篇
(英語版)(These 13、1931年)

医師マルティーノ、他(Doctor Martino and Other Stories、1934年)十四の短編を集めた本

征服されざる人々(英語版)(The Unvanquished、1938年)※

行け、モーゼよ、その他(英語版)(Go Down, Moses、1942年)※

ポータブル・フォークナー(The Portable Faulkner、マルカム・カウリー編纂・1946年)※

それまでのヨクナパトーファ・サーガからの抜粋。ほぼ時系列順に、複雑なサーガ全体を概観できる。


駒さばき(Knight's Gambit、1949年)(邦題『ナイツ・ギャンビット』とも)

フォークナー短編集(Collected Stories of William Faulkner、1950年)

大森林(Big Woods、1955年)(邦題『大いなる森』とも)

ニューオリンズ・スケッチ(New Orleans Sketches、1955年)

詩集、エッセイ、その他

大理石の牧神(The Marble Faun、1924年)

緑の大枝(A Green Bough、1933年)四十四編

ミシシッピー(自伝エッセイ、1954年)

ウィリアム・フォークナー ニューオリンズスケッチ集(カーヴェル・コリンズ編、1958年)

ねがいの木(娘のために書いた物語、1964年)

映像脚本

最後の奴隷船(ジョージ・S・キングの小説、1937年)

待つと待たぬと(ヘミングウェイの小説、1945年) ジュールズ・ファースマンと共同執筆

映画脚本

永遠の戦場(The Road to Glory, 1936年)

脱出(To Have and Have Not, 1944年)

三つ数えろ(The Big Sleep, 1946年)

ピラミッド(Land of the Pharaohs, 1955年) ?

脚注^ 尾崎俊介『紙表紙の誘惑』研究社 2002年 P.198
^ MWP: William Faulkner (1897?1962), OleMiss.edu; accessed September 26, 2017.

全集・作品集

『フォークナー全集』
冨山房(全27巻)、完結1997年

『ポータブル・フォークナー』、マルカム・カウリー編、河出書房新社、2022年

回想評伝

ロバート・A・ジェリフ編『Faulkner at Nagano. 長野のフォークナー』研究社、1956年。英文文献

ジョン・フォークナー『響きと怒りの作家 フォークナー伝』
佐藤亮一訳、荒地出版社、1964年

マルカム・カウリー編・解説『フォークナーと私 書簡と追憶 1944-1962』大橋健三郎・原川恭一訳、冨山房、1968年

ジョエル・ウィリアムソン『評伝 ウィリアム・フォークナー』水声社、2020年。大著・8名での訳

『ウィリアム・フォークナーの日本訪問 冷戦と文学のポリティクス』松籟社、2022年。相田洋明編著、全8名の論考

参考文献

※「生涯」および「作風・影響」の節は、
講談社文芸文庫版の『響きと怒り』、『アブサロム、アブサロム』(上下)の訳者解説・年譜を参照。各・高橋正雄訳、1997-98年

日本ウィリアム・フォークナー協会編 『フォークナー事典』 松柏社、2008年

ハンブリン/ピーク 共編 『ウィリアム・フォークナー事典』 寺沢みづほ訳、雄松堂出版、2006年

大橋健三郎『フォークナー アメリカ文学、現代の神話』 中公新書、1993年

諏訪部浩一・日本ウィリアム・フォークナー協会編『フォークナーと日本文学』松柏社、2019年

大橋吉之輔 著、尾崎俊介 編『アメリカ文学者 大橋吉之輔エッセイ集 エピソード』トランスビュー、2021年

関連項目

ペン/フォークナー賞

外部リンク.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、ウィリアム・フォークナーに関連するカテゴリがあります。


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