ウィリアム・バトラー・イェイツ
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本書での想像力、歴史、オカルティズムの関係についての思索は分かりにくく、この占星術的世界観は個人の怪しげな霊的体験から導き出されたことから、彼自身以外にはほぼ説得力がなく、ほとんどの人には理解できないという辛辣な批評もあるが、後期イェイツ作品、イェイツの詩の変貌の理解に不可欠だと考えられている[2][257]。独自の循環史観、周期的な歴史観は、作品の中でイメージの反復と収束として表れている[2][256]。「ビザンティウムへの船出」の後半では芸術的創造を巡る哲学的な議論が展開されるが、「渦」または gyre がその中核となっている[254]

『幻想録』の中で、いかなる詩人も自ら創造の主になることはできず、霊感も幻想(ヴィジョン)も世界霊魂からくると考えた。世界霊魂は「個人や精霊に属するものではなくなったイメージの大きな貯蔵庫」とされ、イェイツの想像力の源、芸術の根源であり、彼の神であると考えられる[198][259]。彼はこの概念を、プラトンやカバラ思想を取り入れた17世紀イギリスのヘンリー・モアから学んだと言われる[259]

ジョージーの自動筆記は、instructors(指導)なる霊、精霊の秘教的な思想を伝達して書き留めものとされる[172]。ジョージーはイェイツの死後、最初の自動筆記は偽りであったことを認めており、イェイツが落ち着いたら白状するつもりだったと語っている[170][260]。instructors との質疑応答という儀式が、最初以外はジョージーの演技なのか、作為性はどの程度なのかには議論があるが、自動筆記の内容はある程度彼女の意識的なコントロール下にあったと考えられている[170]。『幻想録』に含まれていない自動筆記セッションでは、instructors のアドバイスはジョージーに味方する個人的なものもある[171][注 31]。イェイツは instructors が提供した素材を基に詩を作る等、ジョージーの自動筆記はイェイツの後期の活動を支えたが、長年彼女が果たした役割に光が当たることはなかった[171][172]

『幻想録』等で示した循環史観、終末観は、かなり主観性の強い認識であるが、最晩年の詩作・劇作活動の要になっているだけでなく、現代社会における人間の堕落、生のエネルギーの衰退に対する危機意識、優生学に基づく荒療治(断種)への賛同という彼の主張とも密接に結びついている[256]。最晩年のエッセイを収録した『汽罐の上で』の中で、優生学協会員で心理学者のレイモンド・キャッテルの著作を典拠に、人種の「汚染」「退化」を止めるために積極的に断種手術を行うことを強く肯定している[213]

T・S・エリオットは、イェイツに詩人として最高の賛辞を贈っているが、その神秘思想は「個人的宗教」であると批判している[232]
政治

モード・ゴンに詩や戯曲を政治運動に役立てるよう、繰り返し言われていたが、イェイツは政治運動や社会運動はあまり好まなかった[225]

アイルランド自由国建国後、基本的に支持の立場だったが、新生アイルランドの政体はローマ・カトリック農民民主政体で、彼が望んでいたのはプロテスタント・アセンダンシーの貴族的共和制であり、民主制という多数者支配の政治制度への異議を繰り返した[20][256]。また、カトリック主導の政教不分離の政治運営と、それによって台頭した市民階級の世俗的な価値観を批判して、反時代的な姿勢を明確に示している[20][256]
研究

イェイツの著作に関する書誌はかなりの分量があり、2000年時点で、詩、戯曲、エッセイ、書簡、講演、翻訳などの作品が20巻程、その作品についてのビブリオグラフィーコンコーダンスが6巻ある[222]


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