ウィリアム・バトラー・イェイツ
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イェイツは自身の哲学を散文作品、『幻想録』(A Vision, 1925年、改訂版1937年)で説明している[2]。当時、神を失った社会の精神的無秩序状態と、第一次世界大戦(1914 - 1918)による文化・秩序の崩壊という現実があり、『幻想録』は、こうした秩序を失った世界の中で、「壮年のイェイツが自己の魂の知的完成を求めて苦闘した重要な記録」となっているが、その試みは困難なものであったことがうかがえる[252]。妻ジョージーとの自動筆記のセッションで彼女が書いたものがベースとなっており、これは3年、4,000ページに及び[171]、イェイツは7年かけて整理しまとめ、1925年に『幻想録』として出版した[198][172][171][注 26]

プラトンプロティノススウェーデンボリヴィコニーチェや、占星術、神智学、インド哲学ヒンドゥー教)、日本の、神秘的宇宙観、歴史観(歴史循環論)転生説等に対する信念を体系化・図式化した個性的な省察録で、彼の最盛期の象徴の体系が抽出されている[198][2][111]。これが詩人イェイツの前期のケルト神話と並ぶ後期の思想体系となっている[198]相互に咬み合い旋回する2つの円錐 gyre渦巻

英文学者の野中涼は『幻想録』に書かれた歴史観を、「どの時代も円錐状に展開して、前の時代がえがいた円環を次の時代はほぐすように進行する。ペルシア文明はギリシア文明によってほぐされ、ローマ文明ビザンティン文明によってほぐされ、ビザンティン文明はルネッサンスによってほぐされた。一方が他方の生命を死に、たがいがたがいの死を生きる。」と解説している[253]。『幻想録』の思想体系は gyre(渦巻き、螺旋)のモチーフとして図像化されており、これは対立しつつも影響し合い、変化し続ける思想や歴史観を表している[254]。 gyre の元となるものは、プラトン、ダンテベーメ、ブレイクなどが挙げられ、英文学者の日下隆平は、イェイツが gyre を用いた契機を、「渦巻き」をエネルギーと創造のイメージでとらえた彫刻家達ヴォーティシズム(渦巻派)とみている[255]

イェイツは、当時の社会の物心両面にわたる混乱と末期的な有様に対して、ルネッサンス以後の近代の歴史の中に位置づけ、人間の文明は約2000年周期で成長、完成、衰退を経過して輪廻し、この歴史の移り変わりは 人間の運命を支配する象徴的な絶対者ともいうべき The Great Wheel(大車輪)の運動の上にあるとした[117][256]。The Great Wheel の運動は、月相に変化をもたらすとし、 The Great Wheel の上に位置する月相の変化に呼応して、人類の歴史は巡るとする[117]。イェイツは月相を28に区分し、第一相(新月)から第八相を成長期、第九相から第十五相(満月)までを完成期、第十六相から第二十八相を衰退期に相当するものと想定し、キリスト教文化が栄華を極めたビザンティン文化およびルネサンス期が文明の完成期に当たり、現代(当時)20世紀は第二五相で次の第一相に向かう時期であり、文明の交替期、今の文明の終末期であり、次の2000年の文明期の黎明に近づいているとした[117][256]。第一相の暗黒の月(新月)は形而上の完全客観視を代表し、第十五相の月(満月)は完全主観を代表し、主観と客観の混合体である人間は、時代によって固有の性質を持つことになるという[117]4つの機能体

人間には Wiii[注 27]、Mask[注 28]、Creative mind[注 29]、Body of Fate[注 30]という4つの「機能体」があり、Will と Creative mind と Mask と Body of Fate は対立し、人の人格はこの機能体の組合わせによって決定されるという[257]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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