イージスシステム
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このために、同時に対処できる目標は射撃指揮装置の基数と同数(2?4目標)に制約されていた上に、自動化の遅れから、即応性にも問題があった[4]。一方、ソビエト連邦においては、1950年代末より対艦ミサイルの大量配備が進んでおり、複数のミサイルによる同時攻撃を受けた場合、現有の防空システムでは対処困難であると判断された[8]

このことから、JHU/APLでは、アメリカ海軍との協力のもとで、1958年より次世代の防空システムの開発に着手した。これがタイフォン・システムである[8][7]。しかし要求性能の高さに対する技術水準の低さ、統合システムの開発への経験不足のために開発は極めて難航し、最終的に技術的な問題を解決できず、1964年にキャンセルされた。ただし失敗に終わったとはいえ、タイフォン計画から得られた研究成果の多くが、のちにイージスシステムで結実することになる[8]
ASMSからイージスへ

タイフォン計画の失敗を受けて、1963年11月より先進水上ミサイル・システム(ASMS)計画が開始された[9]。タイフォンの轍を踏まないため、本格的な開発に着手するまえに、まず1965年1月よりASMS評価グループを編成してコンセプト開発を行った。この任務のため、ASMSプロジェクト室のほか、海軍省や海軍兵器局、艦船局および研究所、JHU/APL、競合する各社、ベル研究所、陸軍防空庁から選りすぐりの要員が集められた。そしてその指揮官として、既に退役していたフレデリック・ウィシントン少将が非常の措置として呼び戻された[10][11]

海軍の要求に応じて各社が提出した28個の提案書はウィシントン評価チームによって吟味され、まず7社が選ばれた[10]。1968年には、RCAジェネラル・ダイナミクス(GD)、ボーイングの3社に絞り込まれた[11]。そして1969年12月、最終的にRCA社が選定され、主契約者となった[9][注 3]。同年、ASMS計画はイージス計画と改称した[10]

1967年に発生したエイラート撃沈事件、1970年にソ連が行なったオケアン70演習を受けて、開発は加速された。とくに、オケアン70演習においては、90秒以内に100発もの対艦ミサイルを集中して着弾させる飽和攻撃が実演され、従来の防空システムの限界が確認された[4]

前準備なしに洋上試験に入って失敗したタイフォン・システムの失敗を踏まえ、1972年、ニュージャージー州ムーアズタウンのランコカス地区のRCA社構内にあったアメリカ空軍のレーダー実験施設を借り受けて、地上テストサイト(Land Based Test Site, LBTS;現在はCombat System Engineering Development Site, CSEDS)が建設された。1973年より、まずSPY-1レーダーの試作機(アンテナ1面のみ)が取り付けられて試験が重ねられたのち、戦術情報処理装置などその他のシステムと統合されて、システム全体の試作機にあたる技術開発モデル1号機(Engineering Development Model 1, EDM-1)としての試験に入った。地上での航空機追尾試験などを経て、1975年にはEDM-1を実験艦「ノートン・サウンド」に移設しての洋上試験が開始された。同艦では、LBTSではシミュレータで代用されていたミサイル発射機(艦隊現用のMk.26発射機およびSM-1ミサイル)なども搭載され、ほぼ実艦への搭載に近い状況下で、太平洋上で総合的な試験がくりかえされた。このとき、ミサイル発射試験の初弾で早くもインターセプトに成功したほか、高速目標に対する迎撃能力、レーダーの対妨害能力の高さが注目されたと伝えられている[12][13]
構成イージス武器システム (AWS) ベースライン2?6の基本的な構成

イージス武器システム (AWS) を搭載する艦(イージス艦)のすべての武器システムは、イージスシステム (AWS) を中核として連結され、システム艦を構築して、艦全体の戦闘を有機的に統括している。この統合戦闘システムをイージス戦闘システム(ACS)と通称する[14]。ここで接続される周辺機器はイージスシステムに特有のものではなく、他の艦艇などにも搭載されうる。

イージス武器システム (AWS) それ自体は純粋な対空戦闘システムであって、以下のシステムによって構成される。

多機能レーダー

指揮決定システム(C&D:Command and Decision System)

武器管制システム(WCS:Weapon Control System)

射撃管制システム(FCS:Fire Control System)

ミサイル・ランチャー

スタンダード艦対空ミサイル

イージス・ディスプレイ・システム(ADS)

自己診断システム(ORTS:Operational Test and Readiness System)

即応性保持システム

なお戦闘システム全体の重量は、ベースライン0では610トン、ベースライン3では650トン、ベースライン4では656トンに達するとされる[1]
多機能レーダーアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦搭載のAN/SPY-1Dレーダーアンテナ詳細は「AN/SPY-1」を参照

多機能レーダーとしては、従来、一貫してAN/SPY-1が搭載されてきた。これはイージス武器システムの中心であり、多数目標の同時捜索探知、追尾、評定、発射されたミサイルの追尾・指令誘導の役目を一手に担う多機能レーダーである。周波数はSバンドパッシブ・フェーズド・アレイ・タイプの固定式平板アンテナを4枚持ち、これを四方に向けて上部構造物に固定装備することで、全周半球空間の捜索を可能にする[15]

最初に開発されたA型、発展型のB型およびB(V)型は巡洋艦向けで、前後の上部構造物に分けて装備された。その後、レーダー機器を艦橋構造物に集中配置して効率化をはかるとともに小型化したD型、その改良型のD(V)型が駆逐艦向けとして開発された。また、D型をベースとしてさらに簡略化されたフリゲート向けのF型、より小型の艦艇向けのK型も開発されている[15]

D型では、アンテナ1面につき4350個のレーダー・アンテナ素子が配置され、最大探知距離324キロ以上、200個以上の目標を同時追尾可能とされる[16]。ただしSバンドで動作するため、低高度目標への対処に若干の問題があるとも言われており、ベースライン8以降の艦では、XバンドAN/SPQ-9Bレーダーが追加装備されている[17]

そしてベースライン10(ACB-20)では、アンテナをアクティブ・フェーズドアレイ(AESA)方式に変更して新開発されたAN/SPY-6 AMDR-Sに変更される予定となっている[18]
情報処理システムADS Mk.1(タイコンデロガ級) ADS Mk.2(アーレイ・バーク級)
指揮決定システム(C&D)
従来のNTDSないしCDS戦術情報処理装置を代替するもので、SPY-1レーダーやソナー、データリンクなどからの情報を総合して、周囲の目標について、その脅威度や攻撃手段などを自動で判断する。これにより、目標への対応についての判断において、処理時間が飛躍的に短縮された。巡洋艦ではMk.1、駆逐艦ではMk.2が採用されている[1]
イージス・ディスプレイ・システム(ADS)
戦闘指揮所の中枢となるヒューマンマシンインタフェースである。42インチ大の液晶ディスプレイ(LCD)であるLSD(Large Screen Display)を中核としており、巡洋艦では4面構成のMk.1が、駆逐艦では2面構成のMk.2が採用される[1]


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