インフォームド・コンセント
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これに対し日本弁護士連合会は、2011年10月6日第54回人権擁護大会の声明において、「我が国には、このような基本的人権である患者の権利を定めた法律がない」「日本医師会生命倫理懇談会による1990年の『説明と同意』についての報告も、こうした流れを受けたものではあるが、『説明と同意』という訳語は、インフォームド・コンセントの理念を正しく伝えず、むしろ従来型のパターナリズムを温存させるものである」と批判した[12]

一方、医師と患者のなれ合いが、インフォームド・コンセントを積極的に推し進める場合の障害になっていることは否定できない[要出典]。そこで「日本的インフォームド・コンセント」が必要だと言われることとなる[5]。なお、2003年4月に国立国語研究所の外来語委員会が「説明と同意」に加えて「納得診療」という表現を提案しているが、「納得診療」という表現は、日本語として根付いていない[5]
実践

医療法第1条の4第2項は「医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」と定めている。

インフォームド・コンセントを患者の自己決定権を保障する「システム」あるいは「一連のプロセス」と捉えると、医師の説明義務の内容は患者が自己決定権を行使するために必要な情報を提供するものと考えられる。したがって、患者にとって理解しやすい形で懇切丁寧に行われなければならない[13]。その相手は原則として患者本人である[13]

一般的には、治療を受ける本人(や家族)が、口頭(必要に応じて文書や診療録開示を併用[13])にて治療方針の通知・説明を受ける、という方法が採られる。要する時間は状況により大きく異なるが、短い場合で数分、長い場合には数十分やそれ以上の時間が当てられる。

医療従事者側は、病名、病状、予後等の説明に際して、科学的に正確に伝えることも大事だが、患者が真に納得して受け入れるためには、患者の心情や価値観、理解力に配慮したわかりやすい説明が必要である。したがって専門用語を羅列するようなものは望ましくない。また、一方的な説明ではインフォームド・コンセントにはならないので、患者に行おうとする医療措置のメリット・デメリットを公平に提示する必要がある。

本人と家族の希望が食い違うことは稀ではないが、インフォームド・コンセントの原則では患者本人の意思が、配偶者や親、その他の家族の意思よりも優先される。しかし闘病には家族の理解と支えも欠かせないものなので、ある程度重要な問題に関しては、可能な限り家族の関与があることが望ましい[注 3]。ただし、医療従事者には、患者が十分な判断力を有する場合、本人への説明義務はあるが、その家族に対して説明する法的義務はないとされる[14]

選択可能な方針が複数ある場合(例えば、ある種の癌で手術化学療法の予後に大差がないと考えられる場合)、患者が主体的に複数の方針からひとつを選択するよう促されることがある。このように患者が方針の選択まで行うことを特にインフォームド・チョイス (informed choice) 、または、インフォームド・デシジョン・メイキング (informed decision making) と呼び区別することもある。

充分に納得が得られ医療従事者側の方針を受け入れる場合にせよ、拒否する場合にせよ、患者側は「十分な説明を受け理解した上で、同意します/拒否します」という、書面での明確な意思表示を求められる。必ず書面で合意を得るべきという法的根拠はないが、一般的には重要な問題に関しては、ほぼ全例で書面による意思確認がなされる。このような手続きをふまえて同意が成立した場合、患者は自己が選んだ方針とその結果に対して、責任を持つことになる。また、明確に合意を撤回する意思を示さない限り、選択した方針に協力しなければならない。

起こりうると予想された望ましくない結果(合併症など)については、責任の追及を行わない旨の誓約書に署名をさせられる場合もある。ただしこれは重過失がある場合の責任追及や、裁判を受ける権利までを制限するものではない(それらまで制限する契約は公序良俗に反するとされる)。
典型的な同意書の文面例

この節には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2023年11月)

表明する
意思文面の例
同意私 (患者名) は、医師 (医師名) より、現在の病状・予想される副作用・代替の治療法について十分な説明を受け、理解しましたので、治療方針を受け入れることに同意します。
○年○月○日
(署名)
拒否私 (患者名) は、医師 (医師名) より、現在の病状・予想される副作用・代替の治療法について十分な説明を受け、理解しましたが、治療方針を受け入れることを拒否します。
○年○月○日
(署名)

患者側で注意すること
理解力のある家族と一緒に説明を聞く。理解できるまで説明を求める。

プライバシーや情報伝達に関わるトラブルを防ぐためには、説明を受ける家族は固定され、あまり多くなりすぎないことが望ましい。患者にとっての「
キーパーソン」が誰なのか、あらかじめ指定させられることがある。


正確な診断名・病期などを聞き、書面による説明を受ける。

その疾患がどんな疾患なのかの説明を受ける。

どんな治療法があるのか、各治療法ごとの利点・欠点を、予後QOL、多くの症状例(合併症状)を含めて聞く。

治療をしない場合の経過を聞く。場合によっては無治療(経過観察)が最善の方針である場合もある。

当該治療行為を採用する理由、有効性とその合理的根拠、改善の見込み。

その病院での当該疾患の治療経験や成績について尋ねる。その疾患に対する他の治療施設の有無を尋ねる。

また自ら医学関係の書物を読み、基礎知識(医学で用いられる簡単な専門用語など)を得ておくことも重要である。

病院や医師の価値観により、医学的には同じ内容説明でも、治療方針が異なる場合もある。

最終的には、患者は医療従事者や家族や第三者を含めた他の人の意思に左右されることなく、自らの自由意思に基づいて決定しなければならない。

患者からの開示要求を拒みうる場合

日本医師会ガイドラインでは、病名を正確に告知することで患者自身がショックを受け、病状が悪化する、ないしは発作的に自殺殺人などの自傷・他害行為を行うことが予想される場合、医療従事者側の説明義務の例外とみなされる[13]。やむを得ず患者には病名や治療方法を知らせず、保護者や家族等に病名を知らせるといった対応が取られることもある(のちに患者の状態が十分安定したときに病名の告知をすることもある)。
インフォームド・コンセントが困難な場合

医師・歯科医師を始めとする医療従事者は、あらゆる医療行為について、インフォームド・コンセントを得る責任があると言う概念は、2009年(平成21年)現在、一般論として各医療機関にほぼ普及している。

しかし、インフォームド・コンセントの概念自体、患者に十分な理解・判断能力(「治療同意能力」または単に「同意能力」と呼ばれる)と、十分な時間的余裕があるという前提で成り立っている概念である[15]。実際の医療現場でインフォームド・コンセントを行うにあたり、以下のような困難な状況が生じる。
未成年患者

注射を嫌がり続ける幼児に対しては、保護者の同意のもとに治療行為が行われる。子供には「未来を得る権利」があるため、その時点での自己決定権を制限されるという考えがあり[要出典]、これが子供の自己決定権が保護者によって代替される根拠となっているとされる。

たとえ未成年者であっても、判断能力があると認定される限りにおいて、患者本人の意思が尊重されると考える者が多いが、何歳から判断能力を有するとされるかについて統一見解はない。何歳までを未成年者(法的に十分な責任能力を有しないとされる年齢)も各国で違いがある。アメリカ小児科学会のガイドラインでは15歳以上からはインフォームド・コンセントを得るべきとされている[16]。 英国のガイドラインでは、16歳未満の患者については本人が理解・同意することが困難な場合、親や介護者の同意が必要となる[17]。日本で病院独自のガイドラインを持っている場合でも、12歳から20歳まで、その基準にはばらつきが見られる。未成年者に同意能力があると言えない場合にも、未成年者の意向は賛意(アセント)として尊重される必要がある[16][18]
意思の疎通が出来ない患者

患者に意識障害があったり、認知症などのために判断能力(意思能力)を欠くために、患者自身の意思が確認できない場合は、家族など代理人の同意にて診療行為を行わざるを得ない。通訳を準備する時間的余裕が無ければ言語的障害も意思疎通を欠く事になる。

法律上の後見人等による同意については成年後見制度制限行為能力者も参照。


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