インド・ヨーロッパ語族
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

共通して男性、女性、中性の区別と[109]、7つか6つの格がある[注 11]。男性単数に生物と無生物の区別があり、西語群では人を表す男性名詞複数形「男性人間形」が17世紀頃に成立した[111]。スロヴェニア語とソルブ語が双数を残し、他の言語では複数に合流したが、2を表す数詞に名残がある[112]。動詞には直説法、命令法、仮定法があり[注 12]、直接法の中に現在、過去、未来の3つの時制と完了体と不完了体の2つのアスペクトの組み合わせがある[注 13]。先に述べたように西方教会とラテン語典礼が、東方教会とスラヴ典礼が結びついた歴史がある。この結果として西語群ではラテンアルファベットが、東語群ではキリル文字が、南語群ではキリル文字とラテンアルファベットが用いられている。ラテンアルファベットを用いる南語群では、ガイ式ラテン・アルファベットやその変種が用いられる[116]
バルト語派

バルト語派

東バルト語群 - リトアニア語ラトビア語

西バルト語群 - プロシア語†など。現在ではすべて死語となっている。


インド・イラン語派「インド・イラン語派」も参照

サテム語群。西アジア?南アジアにかけて分布。インド語派とイラン語派は発見されているもっとも古い言語同士で意思疎通が可能なほど似通っており、まとめて扱われる。印欧語族の分類は一般に12語派程度で表現されるが、その場合ダルド語派とカーフィル語派を数えていない。

インド語派 - サンスクリット語プラークリット語パーリ語ヒンディー語ウルドゥー語ベンガル語ネパール語など

イラン語派 - アヴェスター語?、ペルシア語パシュトー語クルド語など

ヌーリスターン語派 - かつてはカーフィル語派[注 14]と呼ばれた。ヒンドゥークシュ山脈山中に散在。ただし別の語派として扱う説もある。
アルメニア文字の「アルメニア語」
アルメニア語派「アルメニア語」および「アルメニア文字」も参照アルメニア共和国周辺におけるアルメニア語の分布

古典アルメニア語 - 中世アルメニア語(英語版) - 現代アルメニア語 (東アルメニア語西アルメニア語)

アルメニア語のみで一語派として扱われる。かつてイラン系の言語であると考えられたほどイラン語群からの語彙の借用が多く[117]、イラン系のみならずチュルク語族やコーカサス諸語から語彙の借用をはじめとして様々な影響を受けたと考えられている。現代口語は、東アルメニア語と、西アルメニア語に分類される。東アルメニア語はアルメニア共和国を含む旧ソ連圏に、西アルメニア語が世界に散在するアルメニア人におよそ対応している[118]

5世紀初頭に当時のアルメニア語が持つ音素に対応するアルメニア文字が考案された。ギリシアやシリアの影響から脱してアルメニア語で聖書を記す目的が背景にあり、ギリシア文字を主要なモデルとしているが、字形は大きく異なっている[注 15]。11世紀ごろから文語と口語の音声の差異が目立つようになり、音と文字が対応していない状態となっていた。ソビエト連邦時代の1922年と1940年に正書法の改革が実施され、東アルメニア語では文字と音の対応関係が単純になった[120]

希求法が接続法に合流していて、直説法、命令法、接続法の3つの法がある[121]。3つの時制があり、未完了過去と未完了未来が特異な発達をしている。古典アルメニア語でアオリストと完了形が融合して現代アルメニア語の完了(単純過去と未完了過去)が生じた結果、両者の時制の機能と語幹が含まれるようになった[122]。名詞・形容詞は主格、体格、属格、与格、奪格、具格に格変化する[123]。文法上の性はなく、人称代名詞も性の区別がない[124][注 16]。ふつう動詞が語頭にくることはなく、定動詞後置を原則とするが、強調したい語を前におく一定の自由度がある[126]。形態や統辞法では印欧祖語に由来する要素が優勢である。一方で記録以前の時代に、アクセントが終わりから2番目の音節に固定したことが、母音の弱化と最終音節の消失をもたらしていて、音韻・語構造は独特である[127]

伝統的には屈折語に分類される[128]。古い印欧語と比較すると、母音の長短の区別、文法性、双数がなくなっている。さらに屈折の型が一定化に進んでいる、格の融合現象が見られる、動詞の叙法・時制組織が大きく単純化されているなど多様な単純化が起こっている[129]。岸田は現代アルメニア語の形態について膠着的な面が強まってとしている[120]

アルメニア語の研究を行った言語学者のアントワーヌ・メイエによる『史的言語学における比較の方法』によってアルメニア語の基数詞が大きく変化しながらも印欧祖語に由来するものだと立証されている[130]
系統の試み
分布と起源クルガン仮説に基づく印欧語族の拡散モデル印欧語族の拡散と文化(図にいくつかミスがあるので注意。  @TohariansとWusunは逆  AAfanasevoとSintashtaのスペル)印欧語族の拡散「印欧祖語」および「クルガン仮説」も参照

所属は遺伝的関係によって決定され、すべてのメンバーが印欧祖語を共通の祖先に持つと推定される。インド・ヨーロッパ語族の下の語群・語派・分枝への所属を考えるときも遺伝は基準となるが、この場合にはインド・ヨーロッパ語族の他の語群から分化し共通の祖先を持つと考えられる言語内での共用イノベーションが定義の要素となる。たとえば、ゲルマン語派がインド・ヨーロッパ語族の分枝といえるのは、その構造と音韻論が、語派全体に適用できるルールの下で記述しうるためである。

インド・ヨーロッパ語族に属する諸言語の起源は印欧祖語であると考えられている。印欧祖語の分化と使用地域の拡散が始まったのは6,000年前とも8,000年前とも言われている。その祖地は5,000?6,000年前の黒海カスピ海北方(現在のウクライナ)とするクルガン仮説と、8000?9500年前のアナトリア(現在のトルコ)とするアナトリア仮説があるが、言語的資料が増えた紀元前後の時代には、既にヨーロッパからアジアまで広く分布していた。

この広大な分布に加えてその歴史をみると、前18世紀ごろから興隆した小アジアのヒッタイト帝国の残したヒッタイト語楔形文字楔形文字の一種)で書かれたヒッタイト語アナトリア語派)の粘土板文書、驚くほど正確な伝承を誇るヴェーダ語インド語派)による『リグ・ヴェーダ』、そして戦後解読された紀元前1400年紀元前1200年ごろのものと推定される線文字Bで綴られたミケーネ・ギリシャ語ギリシア語派)のミュケナイ文書など、紀元前1000年をはるかに遡る資料から始まって、現在の英独仏露語などの、およそ3,500年ほどの長い伝統を有する。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:229 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef