1990年10月にはキヤノンが普及タイプのノート型BJ-10vを発売し[5]、一般個人ユーザーにも浸透し始めた。1996年11月には、初めて写真画質を売りにしたPM-700Cをエプソンが発売し[6][7]、インクジェットの普及に拍車をかけた。それ以降、インクジェットは小型プリンターとしてシェアを拡大し2008年現在ではパソコン用のプリンター出荷台数の3分の2以上がインクジェット方式となっている。
2016年以降はプラスチックゴミの削減の一環としてセイコーエプソンが発売したことを皮切りに各社が十数ml?百数mlの大容量インクタンクを備えた機種を発売するようになった。これらの機種は従来のインクカートリッジ式のものと比べて、ランニングコストが劇的に改善されている。 インクジェットプリンターの方式は、コンティニュアス型とオンデマンド型に分類できる。現在実用されているものの中でも小型プリンター用として主流となっているのはオンデマンド型で、ピエゾ方式とサーマル方式の2つである。 ポンプによってノズルから連続的に押し出されたインクは超音波発振器によって微小な液滴になる。インク滴は電極によって電荷が加えられ、印字の必要に応じて偏向電極で軌道を曲げられて紙面の印字面に到達する。偏向電極で曲げられなかったインクはガターと呼ばれる回収口に吸い込まれ、インクタンクに戻り再利用される。印刷していないときもインクは常に連続的に噴射されているのでコンティニュアス型または連続吐出型と呼ばれる。 ポンプによる高い圧力でインクを押し出すので高粘度のインクが使用でき、また連続的にインクを押し出すことから速乾性のインクも使用できるなどインクの選択幅が広い。さらに超音波振動で作られるインク滴は毎秒100滴以上で生成することが可能であり高速であるが構造が大がかりで小型化が難しく、マルチヘッド化も困難であるなどの欠点から家庭用のプリンターとしては使用されておらず工業用のマーカー(生産ラインで部品に製造番号などを記入する)として利用されている。 印字時に必要なときに必要な量のインク滴を吐出する方式である。吐出後のインク供給には毛管現象を利用しているため高粘度のインキは使用できないこと、インキ滴の生成速度が毎秒10滴程度であるなどの欠点があるが構造が簡単で小型化やマルチヘッド化がしやすいなどの長所がある。家庭用のインクジェットプリンターは、ほぼすべてオンデマンド型である。 オンデマンド型はインク滴に圧力を加える方法により、ピエゾ方式・サーマル方式・静電方式に分けられる。 ピエゾ方式とは、電圧を加えると変形するピエゾ素子(圧電素子)を用いた方式である。 ピエゾ素子をインクの詰まった微細管に取り付け、このピエゾ素子に電圧を加えて変形させることでインクを管外へと吐出させる。前述のように1960年代から研究がなされていたが以下に示した短所の克服に時間がかかったため、本格的な商品化は1980年代になってからであった[注釈 1]。 1990年代にエプソンがピエゾ素子を複数に重ねて使用した「マッハジェット」を開発。カラー高画質化にいち早く成功し、マーケットでの地位も確保した。ブラザー工業もピエゾ方式でインクジェットプリンターを製品化しているほか、CADや大判用プリンターとしてはローランドなどでも採用されている。また、サーマル方式では難しい高粘度・速乾燥性のインクを使用できるメリットを生かしてリコー(GELJET)でも採用されている。 ピエゾ方式の長所は以下の通りである。 短所は以下の通りである。 サーマル方式とは、加熱により管内のインクに気泡を発生させてインクを噴射する方式である。 サーマル方式ではインクの詰まった微細管の一部にヒーターを取り付け、これを瞬時に加熱することでインク内に気泡を発生させてインクを噴出させる。加熱に使用するヒーターは抵抗加熱 サーマル方式の長所は以下の通りである。 短所は以下の通りである。
基本分類
コンティニュアス型コンティニュアス型インクジェット装置
オンデマンド型
ピエゾ方式ピエゾ方式オンデマンド型インクジェット装置
ピエゾの変形量そのものを電圧制御するため、インク噴出量や液滴サイズを精密に制御できる。
インク吐出制御に熱を使用しないため、使用環境の気圧や気温に左右されずヘッドの耐久性も高い。
インクを加熱しないため、サーマルジェットに比べて幅広いインクに対応可能である。
インク内に気泡が混じると目詰まりが生じやすい。
ドット毎にピエゾ素子を用意するためヘッド構造が複雑である。
ピエゾ素子を小型化するとインクを押し出すために必要な体積変化が得られにくい。
サーマル方式サーマル方式オンデマンド型インクジェット装置
ヘッド構造が比較的単純。
物理的機構が少なく印刷速度の高速化や印字画素の高密度化が図りやすい。
インク滴の射出が高速であるため双方向印刷の精度が出しやすい。
熱をインクに加えることになるため、熱劣化の少ないインクを用いる必要がある。
同一の噴出穴でインク噴出量を調整するのが難しい。実際多くのプリンターで高速印字用の大液滴噴出穴と、写真印刷などに用いる小液滴噴出穴を並べている。
ヘッドの寿命が短く、プリンターの場合ユーザーによる交換が必要となることが多い。
長期間使用しない場合、ノズル中のインクの水分が蒸発することによりヘッドが詰る場合がある。微細化されるとその傾向が高まる。もっともキヤノン製ヘッドの中期[いつ?]以降のものは、ヒーターとノズル先端との距離が短縮されインク吐出時に気泡がノズル先端に到達するように構成されたため、乾燥によりノズルが詰まる可能性は減った。